切り札
爪の破壊なんて、結局のところ意味がなかった。爪のついた新たな手が、地面を覆うドロドロの中から、神獣の胴体から、そこら中から現れて大地を覆っている。
まるで神獣が私に対して、『意味のない事してご苦労さんぷぷぷー』ってバカにしているかのような幻聴までもが聞こえて来る。
ちなみにその声はカミの声で脳内再生された。
こんなの、どうやって倒せと言うんだ?やっぱり無理だったんだ。カミを見返すだなんて想いで再戦を挑んだけど、ゲームと現実はやはり違う。
怖い。震える。逃げたい。自分の無力さを痛感する。
だけど、どうして?どうしてこんなに……楽しいの?
目の前の絶望的な状況。溢れ出る血。痛み。その全てが私に生きている実感をくれる。目の前の強大な敵を攻略して倒した時の悦びを、欲する。
「ふ、ふふ、ふふふふ……」
笑いが溢れ出て来る。こんなに愉快な気持ちで笑うのは、どれくらいぶりだろう。
『ガアァウ!』
神獣の向こう側にいる親魔物が、先に仕掛けた。血を垂らしながらも神獣に向かって突撃を開始。そんな親魔物を迎え撃つ、ドロドロの中から生えた手達。たくさんの爪が親魔物に襲い掛かるも、親魔物はその巨体に見合わない素早い動きで回避しつつ、神獣に迫っていく。
更には闇のビームを放つ魔法を何度も出し惜しみなく放ち、ドロドロから伸びて来る手を撃退している。神獣には効かないけど、そのビームは本来かなり強力な魔法だ。
でも、ドロドロの中からは無限に手が伸びてきている。破壊しても、破壊しても、新たな手が伸びて来てむしろ先程までよりも手が増えている気がする。
どうして急にこんな事になったのだろうか。先程まではただのドロドロがあるだけで、私の『光律結界』を封じるだけのドロドロだった。それがいきなり手が伸びるようになって、今ではこんな状況になっている。
まるで、今の状況に対応するために変化させているような……そんな印象を受ける。つまりは神獣も私と同じ、ユニーク魔法のスキルを持っているのかもしれない。もしそうならそれに準ずる意思と知能も持ち合わせている事になる。
ならば、勝負を決するのはやはり創造力だ。相手の想像力の上をいく魔法を繰り出さなければいけない。
頭の中で、魔法をイメージする。イメージするのは、光の魔法だ。やはり闇を浄化するような、聖なる光の魔法が良い。元居た世界ではそんな物はなかったので、ゲームから得られた知識でまとめあげよう。
『バウ!』
退避している白い魔物が、遠くで吠えた。
私に向かって、ドロドロから伸びた手が伸びてきている。爪がこちらに迫り、攻撃しようとしている。
イメージに集中しすぎていたあまり、吠えられるまで気づかなかった。だけど教えてくれたおかげで気づけたので、手にした破軍滅珠の光の剣で切り刻んで撃退する。
一応、再生中に色々な魔法を頭の中で描いていた。その魔法の中で、具現化できそうで、今この状況で神獣を倒せそうな攻撃を作り出す。
更に、私の周囲に黒い霧が出現した。そこから神獣の爪が飛び出て来て、私をくし刺しにしようとして来る。
私はその爪を、足場から飛び降りる事で回避した。
一方で親魔物が、神獣に襲い掛かっている。爪と爪を打ち合い、激しい攻防を見せるも、やはり神獣に傷をつける事は出来ない。むしろ親魔物は片手の爪を負傷している上に、神獣は手が増えているので、親魔物が逆に斬りつけられて血を噴き出している。
完全に、神獣の方が完全になっている状況だ。
「聖鐘・耀天剣戟」
私は落下しながら、魔法の名を唱えた。
地面のドロドロから、私に向かって黒色の手が伸ばされている。爪で私をくし刺しにせんと待ち構えているようだ。
私はその前に、今出せる全力で足から魔力を噴出させ、踏み出した。
発動させた魔法は、破軍滅珠から伸びる光の剣を先程までよりも少し長めに、太くし、剣を持つ自らを弾丸として繰り出す魔法だ。この魔法自体が自らを弾丸とする物だけど、そこに更に私の魔力による全力の加速が加わり、一直線に神獣に向かっていく。
アスレベで、勇者が切り札として使っていた魔法を再現させてもらった。
ドロドロの手が行く手を阻もうとするも、そんな物では止められない。私に触れようとした手は、爪ごと一瞬にして消滅する。
更には地面を覆うドロドロの闇が突然盛り上がり、大きな波となって私に襲い掛かった。
私は闇の中へと飲み込まれるも、それでも勢いは止められない。闇を突き抜け、勢いも衰えずに神獣を射線に捉え続ける。
闇を通り抜けた私を、神獣が見ている。親魔物はその場から退避した。
増えた手で私を受け止めるかのような態勢をとると、私と神獣が衝突。せめぎ合うも、完全にこちらが有利だ。神獣の手が、一本、また一本と砕け散って消え去っていく。
勢いは止められないと判断した神獣が、一本の手をガードから外した。そして先端の爪を霧状に変化させると、私の背後から爪を出現させて私の胸や頭を貫いて来た。
やられる前に、私を殺すつもりだ。爪が引き抜かれ、もう一撃私を貫こうとしている。
『ガアアァァウ!』
だけど、背後から現れた爪に親魔物が食い掛かった。自らの爪や牙を駆使してガードしてくれて、私が串刺しになるのを防いでくれたのだ。
親魔物の援護のおかげで、私はこれ以上攻撃される事がなくなった。なんだか頭がスースーして頭痛がするけど、問題ない。
なんだか自分が、どんどん人間離れしていっている気がする。いやこの世界に来た時点でもう、人間ではなく魔族なんだけど。魔族ってこんなに頑丈なのだろうか。知らないけど、たぶんそうなんだと思う。
「……──私の、勝ち」
そう勝利宣言をした瞬間、ガードしていた神獣の手が砕け散った。一度砕け散ると勢いは止められず、そのまま神獣の胴体を貫き、尻尾までもを飲み込んで身体を消滅させた。
そこからどうなったのか、状況が分からない。私は地面の上に大の字に寝転がっているんだけど、全身から血が溢れ出ている。手が、足が震える。寒い。
そういえば、地面の闇のドロドロが消えている。つまり、神獣は倒せたのだろうか。
あー……身体がダルい。意識が淀む。HPは……ああ、700しか残っていない。結構ギリギリだったな。まぁ肉片さえ残っていれば、再生出来るんだけどね。
呆然とステータス画面を見つめていたら、頭上に小さな蛇のような魔物が現れた。
いや、魔物じゃない。これは、神獣の頭だ。
生きていた。どうやら私は、殺し損ねたらしい。
神獣は私に向かって口を開き、口の中に広がるどこまでも広がる闇の空間を見せつけて来る。私を食べるつもりだろうか。
でも、その神獣の頭が、背後から現れた大きな手でべしゃりと潰された。
『グルルルル』
歯をむき出しにして神獣の頭を潰したのは、親魔物だ。かつて私の頭を潰したのと同じように、神獣を潰した。
その瞬間、光の塊が飛び出してどこかへと飛んで行った。どこかで見た事があるような光景だ。確か、ゲームのカミを倒した時も同じような事が起こったっけ。
それにしても、あの時の私もこんな風に頭を潰されたんだね。強制的に思い出されてなんか嫌な気分。
というかコレ、ピンチじゃね。私もしかして、このまま親魔物に殺される?
「……」
親魔物の口が、私に迫る。私を噛み殺すつもりだろうか。覚悟を決めるも、違った。
親魔物の大きな舌ベロが、私の顔を舐めた。それだけして、去っていく。私を認めてくれたと言う事だろうか。
『バウ!』
親魔物が去ったと思ったら、白い魔物がやって来た。白い魔物は私に寄り添うように横になり、体を温めてくれる。
いや本当に温かい。温かすぎて、眠くなってくる。こんな所で眠って大丈夫だろうか。分からないけど、襲い来る眠気には勝てない。私は目を閉じて、視界を閉ざす。
ステータス画面が、何やらスキルを習得したと訴えかけているけど、眠気には勝てない。
起きたら見るから、今は眠らせて。




