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共闘


 親魔物が、神獣に向かって飛びかかった。


 爪は破壊されたものの、まだ牙やもう片方の手の爪は残っている。黒く染まった地面に足をつかないよう、空中を駆けて行った親魔物が、上方から神獣に襲い掛かる。


 神獣は、飛んで来た親魔物に対して爪で応戦した。何でもスパスパと切り裂いてしまう長い爪は厄介だ。まずは爪をなんとかするのが良いだろうと、私は頭の中で思い描いている。

 神獣に攻撃を受け止められた親魔物は、神獣と軽く打ち合いをしてから距離をとった。その視線が私に向いているのは、この隙に攻撃しろという指示だ。


「……」


 私は指示をうけ、親魔物に注意が向いている神獣に向かって駆けだした。足場は神獣によって黒く染められているので、空を駆けている。


聖鐘(せいしょう)聖光刃(せいこうじん)


 走りながら、魔法を発動させた。

 魔法を発動させると、今までの炎の剣ではなく、白く光り輝く剣となる。どうやら神獣は光属性が弱点なようなので、属性をチェンジしてみた。イメージとしては闇を浄化する聖なる光の剣と言った所か。光の剣は初めて作り出してみたけど、成功してホッとした。

 でもなんか、光の剣が眩しくて気持ち悪い。違和感が大きくて、これを扱う自分の体力も削られているかのような印象を受ける。

 自分で発動させた魔法に文句を垂れる訳にもいかず、やがて神獣の背後に到達。光の剣で太い尻尾を斬りつけた。完全なる、背後からの奇襲攻撃が成功。


 私の光の剣は、神獣の尻尾に大きな傷をつけた。


 直後に私の背後に黒い霧が移動して来たのを感じた。


 すぐにその場からジャンプして上空に避けると、直後に私がいた場所が串刺しとなった。神獣の爪だけが背後に出現し、私を攻撃して来たのだ。

 最初、私を殺した初見殺しの技である。少しトラウマにでもなっているのか、その光景を見て鳥肌がたった。


「聖鐘・光律結界」


 鳥肌がたちつつも、私は上空で神獣に対して光の壁を作り出して動きを封じる魔法を放つ。

 手の爪が霧状になっている今、この技を食らわせれば爪が浄化されるはず。そう踏んだのだけど、私の魔法は不発に終わった。

 一瞬神獣の足元が光り輝いて魔法が発動するような気配があったのに、光は神獣の闇に飲み込まれるような形で消え去ってしまったのだ。


 え。つまり、この闇のドロドロがある限り、光律結界は使えないって事?反則だろう。そもそもこの闇のドロドロはなんなんだ。

 そう思いながら地面のドロドロを見つめていると、突然ドロドロの中から黒い手が伸びて来た。


「っ!?」


 ビックリしてその手に向かって光の剣を振り抜くと、手は消滅。

 でも更に、別の手が背後から私に向かって伸びていた。人一人を、軽く掴み取れるくらいの巨大な手。そんな手に、背後からの奇襲に対応しきれず掴み取られてしまう。


 そうこうしている間に、親魔物が神獣に襲い掛かっている。親魔物に注意が向いている間は私が攻撃を仕掛け、私に注意が向いている間は向こうが攻撃を仕掛ける。いい連携なんだろうけど、私がこうなっていると言うのに向こうが助けてくれる気配はない。

 甘ったれるなと自分に言い聞かせ、私を掴む腕をどうにかしようともがくもどうにもならない。私は黒い手に体を握りつぶされ、骨を軋ませながら黒い泥の中へと引きずり込まれて行こうとする。


『バアアァウ!』


 そんな私を助けたのは、白い魔物だった。黒い手に飛びかかって噛み付き、引きちぎってくれた事によって私を握る黒い手の力が弱まった。

 その隙に、破軍滅珠の光の剣で手を切り裂く。黒い手は霧状となって消え去って、私は解放。空中から落下を始める。


 だけど、いつの間にか白い魔物の背後に移動している神獣がいた。鋭い爪を構え、振りかぶり、その爪が白い魔物に向かって振り下ろされようとしている。

 当然、白い魔物のHPはまだ回復していない。今そんな攻撃を受けたら、また身体が切り裂かれて臓器が飛び出て──……いや、それだけでは済まないだろう。


 私は破軍滅珠の剣を消すと、白い魔物の背後にいる神獣に向かって振り抜いた。玉は勢いよく神獣の頭の上に降り注いで直撃するも、攻撃はとまらない。

 振り上げられた神獣の手が、そのまま白い魔物に向かって振り下ろされ──違う。神獣の狙いはそうじゃない。


 神獣の背後から、慌てた様子で親魔物が飛びかかろうとしている。その親魔物の背後に、黒い霧が出現した。

 神獣の爪もまた、黒い霧状になって姿を消している。


「罠──」


 言葉に発した時は遅くて、親魔物が神獣の爪によって体を貫かれた。更に、闇のドロドロの中から手が伸びて親魔物に襲い掛かろうとする。

 親魔物に伸びた黒い手は、もう一匹の黒い子供魔物が止めに入ったので、掴まれる事はなかった。でも神獣によって貫かれた身体はかなりのダメージを受けたはず。だって身体を貫通しているからね。血も大量に噴き出しつつも、親魔物は宙を蹴ってその場から一旦退避した。

 更に神獣は、私を見つめ続けている。嫌な予感。嫌な気配を感じる。まるで次はお前を殺してやろうと思っているかのような視線だ。


「聖鐘・聖光刃」


 慌てて破軍滅珠の玉を回収し、再び光の剣を作り出した。

 また、神獣の姿が霧状に消え去って移動を開始。分かっている。どうせ背後に来るに決まっているのだ。

 私は身体を反転させつつ、背後を向く。やはり、そこに神獣の姿があった。


 いいだろう。攻撃して来るが良い。お前の繰り出されたその爪を、光の剣で受け止めて逆に消滅させてやる。私は本気の力で神獣の攻撃を弾き返すため、全身に力を籠め、同時に魔力の消費量もあげさせる。

 次の一撃は、私の本気の攻撃になる。私は神獣の攻撃を、逆にこちらの攻撃に変えてやるつもりで構えた。


 でもおかしな事に、神獣は攻撃を仕掛けて来なかった。よく見ればそこにいる神獣は、縦方向に真っ二つにされた半身だけで、もう半身が見当たらない。


 そして構えた私のお腹が、背後から何かに貫かれた。


 視線を下ろすと、黒い爪が3本、お腹から胸にかけて突き出ていた。


「ごはっ」


 ちょっと前に見たのと同じ光景だ。口の中から血が溢れ出て来て、体が熱くなる。

 必死に視線を背後に送ると、そこには神獣の残り半分がいた。私に向かって爪を突き出しており、その爪が私を貫いている。


 直後に、正面の神獣の半身が私に向かって爪を振り抜いて来た。


 前回と違うのは、私はまだ生きているという事。生物的には勿論、精神的にもだ。こんな状況に陥るのは二度目なので、もう慣れた。


 正面から振り降ろされた神獣の爪に向かって、私は手にした破軍滅珠を振り抜いた。光の剣と、爪がぶつかり合う。

 私は体を突き刺されつつ、全身全霊をもって神獣の爪を消し飛ばすために破軍滅珠を振り抜いている。光が眩き、周囲に大きな風を巻き起こす。

 やがて神獣の爪が、僅かに軋む音がした。それをキッカケとし、私の光の剣が爪を打ち砕き、光が飲み込んだ。


 私に爪を破壊された事により、怯んだ神獣の爪が私の身体の中から引き抜かれる。私は血を垂らしながら真っ逆さまに落下を始めるも、それを阻止してくれたのは白い魔物だった。

 私を背に乗せてその場から去り、神獣と距離をとった所で降ろしてくれた。


「ごほっ、ごはっごほっ」


 体中から血が溢れ出て、一気に体温が下がった気がする。口から出て来る血はとめどなく、何度も咳き込む。

 HPは……大丈夫。減り続けてはいるけど、まだ2万ある。前回のように体中をいくつかに分解された訳ではないし、内臓も体の中なので割と元気。


 こんな状態で元気?何かの冗談みたいだけど、本当だ。


 現に私は破軍滅珠を手に、光り輝く剣を構えて神獣を睨んでいる。


「聖鐘・祝癒」


 とりあえず自分に癒しの魔法をかけておく。白と緑の光に包み込まれ、体の傷が癒される。

 すると、HPの減りが止まり、出血も若干とまった。まだ穴はあいているけど。


「ありがとう。下がっていて」

『バウ』


 白い魔物にお礼を言うと、白い魔物は吠えてからその場から離れていった。

 彼には助けられてしまった。でもその代わりに、親魔物が重傷を負ってしまった。


 白い魔物がどうのとかではなく、これは私の責任である。私はゲームでしか、戦闘を経験した事がない。ゲームではやり直しがきく。死んでもまた挑んで、敵の弱点や攻撃パターンを学ぶことが出来る。だけど実際の世界では死んだら終わりで、何度も挑める訳じゃない。いくら気をつけよう気をつけようと思っていても、実戦経験が足りな過ぎて、初見の技への対応がどうしても出来ない。

 これは今の私にとって、最大の弱点だ。どうにかしなくてはいけない。


 まぁ今となっては多少何かあっても、再生のスキルのおかげで復活は出来るけどね。

 ただ、再生できるだけの肉片を残してもらえる保証はどこにもない。やはり敗北は避けなくてはいけないだろう。


 親魔物の方は……怪我を負ってはいるけど、まだ戦えそうだ。魔法が届けば回復魔法をかけてあげたい所だけど、お互い神獣を挟んで遠くにいる。


 その神獣は、半分に分裂するのをやめて元通り、一体に戻っている。そして壊れた自分の爪を見つめている。

 爪は、私の光り輝く剣によって打ち砕かれたため、砂のようにポロポロと崩れ落ちている。少なくともしばらくは再生できないはずだ。


 とりあえず、神獣と戦うに当たって対処すべきだと思っていた爪に対し、片方の破壊に成功した。


 さぁ、ここからどうする。


 先に動いたのは、神獣だった。神獣が広げていた闇のドロドロが、一気に活性化。辺りを更に侵食してもう足場がなくなってしまう。

 私はジャンプして壁に突き出た岩に着地して退避。子供の魔物2匹はこの場から完全に退避し、親魔物は空中に魔力で作った足場を作り出し、そこに立っている。

 私もそれやりたいんだけど、一瞬噴出させるのは簡単なのに、安定させてそこに立てるようにするのってけっこう難しんだよね。


 て、そんな事考えている場合じゃない。ドロドロの中から、黒い手が飛び出て来た。しかもその黒い手の先に爪が付いている。指の数は出て来た手によって2~5本とバラつきがあり、大きさも違う。その全ての指の先に、長く鋭い、神獣の爪と同じ物がついている。

 更におまけに、神獣の身体からも新たな手が伸びて来た。左右に合わせて、10本の手が増えましたとさ。その指には勿論爪がついており、ジャラジャラと音を鳴らしている。


「……」


 なんだこれ。反則過ぎないか。

 目の前の光景を見たら、誰しもがそう思うだろう。


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