怪獣大決戦
周囲の洞窟は、ぼっこぼこに穴があき、ボロボロだった。あちこちで落盤がおきて岩の山が出来ている。神獣の物と思われる爪の跡や、それに加えて別の獣の爪の跡も散見する。
やはり、神獣と戦っているのは白い魔物の親だった。
現場に到着すると、そこでは両者が激しい打ち合いを見せている。
『ガアアァゥ!』
毛の長い大きな魔物が、真っ黒な神獣に飛びかかる。
だけど神獣はその姿を霧のように消してかわすと、魔物の背後に回り込んで爪で斬りつけた。
親魔物の方も、攻撃がくると分かっていたのか素早く回避。回避しつつ顔だけ神獣に向けると、口を開いて魔法を放った。
魔物の口の前に、明るく輝く赤い紋章が浮かび上がる。そこから放たれたのは、黒色のビームだ。
ビームは神獣に直撃するも、神獣はびくともしない。むしろビームを爪から放たれる黒色の斬撃で消し去りつつ、魔物に対する反撃を繰り出している。
斬撃は外れ、魔物後方の洞窟の壁に直撃した。そしてまた、新たな傷跡を洞窟内に残す。
大きな神獣と、大きな魔物。
目の前で繰り広げられる両者の戦いはまるで、怪獣大決戦である。
『バウワウ!』
私と同じく近くで戦いを見守っていた子供の方の黒色の魔物が、私に気付いて吠えて来た。歯をむき出しにして私に襲い掛からんという勢いを見せて来る。
ビックリして思わず手が出そうになるも、白色の魔物が間に入って止めてくれた。
間に入った白色の魔物は、私の周りをくるくると回りつつ身体を擦り付け、何かをアピール。それを見て黒色の魔物は戸惑いつつも、分かったと言わんばかりにお尻をついてお座りの姿勢を見せた。
庇ってくれてありがとうの意味をこめて、白色の魔物の頭を撫でておく。
さて。この状況、どうしたものか。
漁夫の利を得られると思っていたものの、私がこの怪獣大決戦に入り込む余地はなさそう。いやまぁ余地はあるんだろうけど、命懸けになるのは間違いない。
そもそもこの黒色の魔物の方も、体に傷を負っている。命に関わるほどではないけど血を流し、命懸けでこの戦いに参加していた事が伺える。今はこれ以上傷を負って死なないよう、離れて見学しているような状況っぽい。
とりあえず、私も見学させてもらおうか。
そう思って座り込もうとした瞬間、黒色のビームが飛んで来た。慌ててその場から駆け出してよけるも、私が今までいた場所に大きな穴が開いている。
『グアァウ!』
そのビームを放ってきたのは、親魔物だ。神獣との戦いの最中に、どさくさで私に向かって攻撃を仕掛けて来た。
すぐに神獣との戦いに戻って集中しているけど、私に対する敵意を感じる。
危ないなぁ。私はこの貴方の子供の命の恩人なんだよ。その私に対してこんな奇襲攻撃を放ってくるとか、失礼じゃないですかねぇ。
一応直後に白い魔物が私の前に立って庇ってくれたけど、あの怖い親魔物が素直に応じてくれるだろうか。
『バウ……』
白い魔物も、心配そうに私と親魔物を見ている。
私は貴方たち親子に何もする気はないんだけどなぁ。狙いは神獣だけであり、無害だ。むしろ援護してあげても良いくらいの想いでここにいる。
「……」
やはりここは、味方であると示すためにも戦いの中に身を投じる必要がありそうだ。
破軍滅珠を手に、魔法を発動させる。
「炎獄・烈火刃」
破軍滅珠が、けん玉から炎の剣に姿を変えた。
更には魔力噴出を発動せておく。髪色が輝く銀髪に変化し、白い魔物と黒い魔物が少し驚いている。
これによってMPの消費が始まるも、私のMPは現在最大で35万ほどある。何もしなければ一日中発動させていられるくらいのMP量に到達しており、長期間の戦闘にも対応出来るようになった。
「さて」
準備も整ったので、私は白い魔物の前に出る。
魔物が心配そうに見つめて来るも、私は頭を撫でてから大丈夫と伝えておく。黒い方の魔物も、私を通して白い魔物と並んで座って私の行動を見守っている。
近づいて来た私に対し、親魔物が一瞬睨みつけて来た。
しかし直後に神獣の斬撃を飛ばす技が飛んできて、回避行動のために目を逸らす。親魔物は私と同じように、空中で魔力を噴出させて足場を作り出し、それによって空中を自在に動き回っている。
更には神獣に向かって、自らの鋭い爪で斬りつける攻撃を見せた。
素早く動き回る親魔物の攻撃に、神獣は対応しきれず背中を斬りつけられてしまう。斬られた箇所が、パックリと割れて中身が見えた。
その際に見えた神獣の中身は、真っ黒で何もない空間だった。本来であれば、血や肉があるはず。それが神獣にはない。しかもパックリと開いた傷は、すぐに再生して元通りになってしまう。
斬られた傷がすぐに治ってしまうなんて、反則だ。もしかして肉片からも再生できるのだろうか。そんな不安が脳裏をよぎる。自分がそういう存在なので、同じ能力を持つ者がいたとしてもあり得なくはない。
更に、親魔物の攻撃が続く。素早い動きで次々と神獣に向かって爪での攻撃を仕掛け、神獣の身体が削れて行く。あの巨体で、この素早い動き。やはり親魔物も神獣に負けず劣らずの化け物だ。
神獣は全ての攻撃を、無反応で受け続けている。体中が削られていると言うのに、不気味なくらい反応がない。
そしてある時、突然動き出した。何の前触れもなく、向かって来た親魔物に向かって爪で斬りつけたのだ。
金属同士がぶつかり合った時のような、高い音が響いた。
反撃を受けた親魔物が地面に着地すると、親魔物の片方の手の爪が削られ、ボロリと地面に落ちた。
一方で神獣の爪も、折れている。折れた爪は地面に落ちると、霧のようになって姿を消した。だけど、神獣は再生した。斬られた身体も、折れた爪も、その全てが何事もなかったかのように生えて来て、元通り。
一見すれば、両者に実力的な差はほとんどないように見える。だけど再生能力がある分、神獣の方が有利だ。
爪を折られて怯んだ親魔物に対し、神獣が身体を霧に変える魔法を発動させて攻撃を仕掛けようとする。
「──聖鐘・光律結界」
その瞬間、私は神獣に対し、魔法を放った。
放った魔法は、光属性の魔法だ。神獣の足元から光のバリアが発生し、光が壁を作って神獣を包み込む。
この魔法はアスレベにも出て来た魔法を参考にさせてもらっている。敵の動きを光の中に封じて、数ターンその場から動けなくさせる魔法だ。
神々しい光は、神獣の身体を包み込むとその真っ黒な体を明るく照らす。まるでその光に浄化されるかのように、霧状になった体の一部が消滅した。消滅したのは胴体部分のほんの一部だけだけど、これは予想外の効果だ。
更には私は神獣に向かって駆けだした。魔力噴出の効果で、ほんの3回ほど地面を蹴っただけで神獣を間合いに捉える。光の壁をすりぬけた私は、神獣に向かって炎の剣を纏った破軍滅珠を振り抜いた。剣は神獣の後ろ脚を斬りつけた。
手ごたえはあったものの、反撃を恐れた私はすぐにその場を後にした。
直後に私が作り出した神獣を包み込む光の壁が、破壊された。神獣がバリアの中で、口の中から吐き出した黒いドロドロとした液体が、壁を侵食したのだ。更にその液体は、神獣を中心として周囲に広がって地面を侵していく。
この闇のドロドロは、見るかにヤバそうな感じだ。迂闊に近づけなくなってしまった。しかも段々と広がっていくのでどんどん足場が無くなっていく。
まぁ、魔力噴出の効果で地面に足をつかずに移動する事は可能なので、大丈夫。
それよりも今の私の攻撃、見てくれたかな親魔物さん。光で浄化された神獣の一部は、未だに再生出来ていない。浄化された部分はまるで固まった砂が崩れ落ちたかのように脆くなっていて、ポロポロと身体が崩れ続けている。もしかしたら、もしかしなくとも、光属性が弱点なのかもしれない。
ちなみに神獣を斬りつけた私の炎の剣は、未だに神獣の足で傷跡を燃やしているものの、再生すると同時に炎も消え去った。
それはそれで、別に良い。一連の攻撃で分かったのは、やはり神獣が闇に対する強烈な耐性を持っている事。光属性が弱点という事と、闇属性以外の攻撃ならすぐに再生されてしまうもののダメージを与えられる。物理的な攻撃も、ダメージは与えられるけどすぐに再生してしまうっぽい。
『ガウ!グルルルル』
黒く染まっていく地面を見守っていたら、親魔物にさんに吠えられ唸られた。
あれ、おかしいな。今の攻撃で私は味方だよって意思表示したはずなのに、殺気を感じる。
やっぱり魔物と共闘なんて、無理なお話なのだろうか。それじゃあ戦いに参加せず、終わるのを待てはよかった。でもこのままでいけば、恐らく負けるのは親魔物だよ。
二匹の子供がいるのに、それでいいの?
「私の敵は、神獣。貴方達の敵ではない」
親魔物に対し、私はそう声を掛けた。
先程は白い魔物に対してそれで通じたけど、どうだろう。完全に理解されるのは難しいかもだけど、なんかこう、言葉のトーンと言うか、空気で察してほしい。
『グルルルル……』
親魔物は未だに気に入らないと言った様子で唸り続けてはいるものの、私からプイっと目を背けて神獣を睨みつけた。
これは、親魔物さんとの共闘の許可が下りたと言う事だろうか。
かつて私の頭を潰して来た親魔物さんと、協力して神獣を倒すと言う展開。けっこう熱いんじゃないだろうか。
それじゃあここから本格的に、神獣狩りといきますか。




