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親心


 やっぱりこの広い洞窟の中から適当に歩いて神獣を見つけ出すのって、無理だわ。

 歩き出してから数日が経ち、遭遇する魔物を倒してレベルを上げながら思った。


 名前:ヒメノ

 種族:魔族

 レベル:52


 HP:34018 / 34018

 MP:347189 / 349518


 現在のステータスはこんな感じ。

 MPが少し減っているのは、魔物に魔法を使って倒したばかりだからである。


 このレベル帯になると、『破軍滅珠(はぐんめつじゅ)』を用いない闇属性以外の魔法も、かなりの威力を持つようになってきた。例えばよく遭遇する蜘蛛の魔物、『カラグルスパイダー』だけど、最初は『炎獄・火球』で400くらいのダメージしか与えられなかった。それが今では、命中した蜘蛛の身体を爆散させる威力を持つようになったんだから、最初とは威力が桁違いとなっている。ダメージ量的に言えば2万くらいのダメージ。

 自分の成長速度が恐ろしい。


 まぁそんなのはどうでも良くて、良くはないんだけど今はそっと端の方に置かせてもらう。


 神獣、どこですか。


「……」


 立ち止まって、周囲を見渡す。耳を澄ませる。匂いを嗅いでみる。

 私は犬じゃないんでね。勿論そんな事をしたってどこにいるかなんて分かりやしない。

 神獣と遭遇したときに感じた、ヤバそうな気配もどこにもない。そもそも神獣の気配ってなんだって話になる。


 さて、どうしたものか……。


 考えてみたら、私にはユニーク魔法のスキルがある。このスキルは好きな魔法を開発出来ると言う便利スキルだ。このスキルを利用して神獣の居場所を突き止める魔法を開発したらどうだろう。

 いやでも神獣を探し出す魔法って、どんなだ。ピンポイントすぎるだろう。


 悩んで立ち止まっていても、始まらない。歩いたって始まらない。どうしろっていうの。

 ま、とりあえず歩きますか。神獣はちょっと諦めムードになってしまった。


 そしてまたしばらく歩いた所で、私はとある魔物に遭遇した。

 遭遇したと言っても、魔物は地面に横たわっている。4本足の、白色の毛を生やした狼のような魔物だ。あれ、どこかで見た事がある。でも記憶の中のその魔物より、かなり大きくて私2人分くらいの大きさだ。

 よく見れば、全身から血を流して白い毛を赤く染めている。

 私に気が付くと、狼は歯をむき出しにし、唸って私を威嚇して来るも身体は動かせないのか特に何か行動するような気配はない。


「……」


 私はその狼の魔物から、自分の血と肉を感じた。


 間違いない。この魔物は、再生中の私を食べて再生を遅らせた魔物だ。


 何故そんな事が分かるのだろう。自分でも説明はできないけど、とにかくこの魔物からは自分の気配を感じる。私を食べたからだろうか。

 それしか心当たりがない。


 それにしても、大きくなったねぇ。私の血と肉を糧にして、以前よりも一回りも二回りも大きくなった姿を見せてくれて、感涙に浸る。


 はっ。そうだ。この狼は、毛の長い親狼と一緒にいたはず。親狼はとても狂暴で、子供狼に『鑑定』のスキルを使おうとした瞬間、キレて頭を潰された。

 恐ろしい存在を思い出した私は、周囲を警戒するも他に魔物の姿はない。


 とりあえずは安心。そして恐る恐る、倒れている魔物に対して『鑑定』を使ってみる。


 名前:ダイタルフォス

 種族:魔物

 レベル:50


 HP:2349 / 140782

 MP:8890 / 100437


 どうやらこの子は鑑定阻害を持っていないようだ。ちゃんとステータスを見る事が出来た。

 HPもMPも、だいぶ減っている。HPはこの血の量だからそりゃ減るだろう。というかこの魔物の胴体についた、まるで3本の爪で切り裂かれたかのような傷、心当たりがある。

 そう。神獣だ。深く傷つけられて内臓までもが溢れ出ているこの傷は、きっと神獣にやられたに違いない。

 周囲には激しい戦闘が行われたような跡があり、この魔物は神獣と戦った末に傷を負い、放置されたのだ。


 つまり、神獣がこの近くにいる。


 適当に歩いて来ただけなのに、どうやら探り当てる事が出来てしまったようだ。私ってもしかして天才か。


「……」


 自分の勘を褒めそうになったけど、たぶん違うな。この魔物に流れる私の血と肉が、私を引き寄せたのだ。

 そんな気がする。


 ところでこの子、美味しいのかな?丸焼きにしたら、どうだろう。

 いや、無理だ。見た目的に食べる気になれないのもそうだけど、そもそも自分の血と肉が混じったこの子を食べるのって、自分を食べるようでなんか嫌だ。


『グルルル……』


 死にかけだと言うのに、未だに私に向かって唸っている。


 なにガンつけてんだこのヤロウ。て感じだろうか。


 そんな事していいのかな?今の状態の君なんか、私の手にかかれば一撃も良い所だよ。


 私はスタスタと歩いて魔物へと近づいていく。この魔物には、生きたまま食べられると言うおぞましい体験をさせられた。その仕返しに殺すのは、当然の権利と言える。それ以前に相手はただの魔物だ。せっかく弱っているし、殺して私のレベルの糧となってもらうのが良いだろう。

 魔物に向かって手を伸ばす。魔物は噛み付こうとする仕草を見せるも、身動きはやはり取れない。

 抵抗は無駄だと悟ったのか、唸るのをやめてそっと目を閉じた。


 そうそう。潔さは大切だ。


 そして私は伸ばした手を……魔物の頭の上に乗せた。

 ふわふわの毛が、私の手を迎え入れる。暖かいのかなと思ったら、思ったより暖かくない。むしろ冷たい。この大量の出血のせいだろうか。

 そのまま頭を撫でてみる。何度か繰り返すと、魔物が目を開いた。


 何をしているんだお前はという目線を感じる。


「……聖鐘・祝癒(せいしょう しゅくゆ)


 魔物の頭を撫でる私の手から、魔法が放たれた。私の魔法によって、魔物の身体が優しい緑と白の光に包まれる。これは癒しの魔法だ。アスレベの回復魔法をイメージしたので、発動はしやすい。

 魔物の出血がとまり、HPは回復を始めている。だけど飛び出た臓物はどうなるんだろう。さすがにこのままじゃ、どう考えてもどうにもならないよね。HPの回復も、数千回復した所で頭打ちとなってそれ以上は回復しなくなった。


 ならばと私は、魔物の臓物に向けて掌を向けた。


闇夜・闇風刃(あんや やみふうじん)

『クゥン!』


 私が放った魔法は、飛び出た臓物を魔物から切り離した。魔物の臓物が地面ごと大きく削れた事により、痛かったのだろうか。魔物が子犬のような叫び声をあげた。


闇夜・再生(あんや さいせい)


 すかさず私は、頭の中でイメージした魔法を発動させる。

 頭の中で自分が長い時間をかけて再生した時の体験を思い出す。本当に、長い時間をかけて再生した。時間をかけて再生したので、その時の記憶は嫌と言うほどに鮮明だ。何もない所から自分の臓器が出来て脈打ち、それを覆うように血管と肉や骨に皮膚が出来上がっていく。今思えば気持ちが悪いけど、その時はそんな事を思う余裕すらなかった。

 その時のイメージを流す事により、同じように魔物も身体が再生していく。無くなったはずの臓器ができ、肉や血管に皮膚が出来て、毛までもが生えそろってあっという間に元通りだ。


 にしても、かなりのMPを消費した。13100。今までで一番大きなMP消費だ。闇属性で成功出来て良かった。闇属性MP削減の効果が無かったら、どれだけのMPが持っていかれたのだろうか。


『グルルルルル……』


 臓器が再生し、魔物が元気になった。最初戸惑っていたものの、自分が元気になったと気づいた途端に立ち上がり、私と少し距離をとって歯をむき出しにして唸って来る。


 おいおい、随分恩知らずな魔物だな。せっかく私が傷を治してあげたと言うのに。


 でも身体は再生しても、HPはそれほど増えていない。再生しても、かなりの体力を消耗した状態なのは変わりないようなので、まだ一撃で倒す事が出来そう。


「……貴方に何かするつもりはない。でも、そちらがその気なら対応する」


 魔物に言葉が通じるとは思えないものの、一応は言葉で敵意がない事をアピールした。


 そもそも殺すつもりなら、治したりしないって。でもどうして魔物にこんな事をしたのだろう。まぁちょっとした親心かもしれない。この子、私の血と肉を食べて育ったんだぜ。

 つまるところ、ただの気まぐれだ。

 そっちがその気なら、勿論自衛のためにやらせてもらう。


『……』


 見つめていたら、やがて魔物が唸るのをやめて、伏せをした。どうやらやる気がない事をアピールしているようだ。

 よしよし、それでいい。


水月・水流(すいげつ すいりゅう)


 更に私は魔法で手から水を出して、魔物の身体についた血を洗っていく。

 すると、元の真っ白でキレイな毛並みに戻った。

 それにしても、本当にキレイな毛並みだ。もふもふだし、触り心地も良い。今は濡れているからアレだけど、乾いたら抱きしめたい。


 魔物はブルブルと身体を震わせると、水気を弾き飛ばして私の前でちょこんとお座りをした。


 本当にもう、敵意は感じない。

 こちらのアピールが通じたようだ。

 こうしていると、可愛いな。手を伸ばすと警戒されつつ、私は構わず頭を優しく撫でる。すると魔物もなでなでを受け入れ、警戒をといて気持ち良さそうにしてくれる。


 と、こんな事をしている場合じゃなかった。


「神獣の居場所を、知らない?」

『……』


 言葉で尋ねた所で、通じる訳がないか。魔物は黙ってお座りをし続けるだけだ。


 しかし、突然立ち上がった。そしてソワソワとし始めてその場でくるくる回転。まるで早くこの場から去りたいとアピールするかのよう。

 もしかしたらなんだけど、家族の下へ行こうとしているのだろうか。家族というと、あの怖い毛の長い親と、この白い魔物とは対照的な黒い魔物の方か。


 更にもしかして、家族が神獣と戦っていたりとか?あるいは既に勝負は決し、家族か神獣が敗けているとか、それとも逆か……なんにしても、確かめる価値はある。


「私も一緒に行っていい?」

『バウ!』


 その言葉は通じたのか、魔物が私に向かって頭をさげ、乗れと言っているかのような仕草を見せて来た。

 それを受けて私が背中に飛び乗ると、魔物は勢いよく走り出す。


 凄いスピードだ。分かれ道も迷わず進んでいき、途中で遭遇した魔物も華麗にスルーして他の魔物を寄せ付けない。

 そうして進んでいくと、遠くから爆破音が聞こえてくるようになった。爆発と同時に洞窟内が揺れ動き、とてつもない力と力がぶつかっているかのような印象を受ける。


 この感じは、間違いなく神獣だ。そして神獣と戦っているのは、恐らくこの子の親。

 この子の親じゃないにしても、神獣と何者かが激しい戦いを繰り広げているのは間違いない。


 上手く行けば、漁夫の利的に神獣を倒す事が出来るかもしれない。


 私は心の中で、悪役のようにほくそ笑んだ。


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