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鋼の月と白兎  作者: さかはる


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修学旅行:後編 22

 異形のヴァンガードに斬り掛かるエレンの背に、別の異形のヴァンガードが襲い掛かる。そうはさせまいと、すかさず突撃していく自動運転車両。触手が自動運転車両を薙ぎ払うその数秒の間に、エレンの大太刀は異形のヴァンガードをスクラップに変える。


「あと5体!」


「いや4体だ! あいつらやっと1体倒したみたいだ!」


 2体1でずっと異形のヴァンガードと戦っていた12式のパイロット達は辛くも勝利を手にしたようだった。


「"ウォーカー09、遅くなったな! 今援護する!"」


「遅い!」


「"その声は東雲特佐! ご無事でしたか!"」


 いつの間にか回復していた無線から聞こえる仲間の声に飛鳥は微笑む。


 エレンが跳ねて、青空の中で身を翻したかと思うと、白刃が一瞬煌めいて、触手を広げて襲い掛かっていた異形のヴァンガードがバラバラになる。


「あと3体!」


「”1体は我々が!”」

「"おおおおおっ!"」


 エレンの背に迫っていた異形のヴァンガードに、自衛隊員達が飛びかかる。


 エレンは残る2体を見据……飛鳥とエレンは目を見開いた。


「1体いない……!」


「あと1体はどこだ!」


 エレンと飛鳥の目に映るのは、眼前の1体のヴァンガードだけ……どこかへ消えた異形のヴァンガードを探す暇を与えず、目の前の異形のヴァンガードは空へ飛びあがり、エレンに飛び掛かってくる。太刀を構えるエレン。そんなエレンを挟み撃ちにするように、アスファルトの下から突然、6本の触手が飛び出てくる。


「下だ! 潜ってやがったのか!」


「あの巨体で……」


 エレンの太刀が閃き、地面から襲い掛かってきた触手が5本千切れ飛ぶ。しかし、残る1本は左脚に絡みついた。ミサイルのサイレンが鳴る。空に飛び上がっていた異形のヴァンガードは、青空を覆い隠し、触手を広げてエレンに今まさに激突しようとしている。息を飲む飛鳥。


(絡みついた触手を切るには、いくらクソガキでも時間がない。脚を切るしかない。でも、片脚で、あの限界まで広げられた触手を躱せるのか?)


 エレンは飛鳥の目の前で迷わず12式の左脚を切断し、その場から急いで飛びのいた。しかし──


(ダメだ! 避けられない!)


 エレンを庇おうと、飛鳥がシートの裏から身を乗り出した、その時だった。


「確かに避けられないかもね──ミサイルの爆風は」


 博物館の陰から姿を現したのは、日差しを受けて輝く、1発のトマホークミサイルだった。イージス艦おおみねが居る相模湾から、低空飛行してきたのだ。


(君はとんだ狼少年だ。ヒビキ)


 ミサイルが異形のヴァンガードに命中し、爆炎が弾ける。爆風に瓦礫が、電線が揺れる。炎に包まれたスクラップが地面に激突し、再び爆発が起こる。眩く白むモニター、爆風で転倒した12式の体勢を、エレンはすかさず立て直す。しかし、片脚が無いせいで立て直しにほんの、数秒もないような遅れが生じた。その遅れを、その隙を逃すまいと、地面の下に潜っていた異形のヴァンガードが姿を現して襲い掛かる。


 猛烈な土煙を纏って、異形のヴァンガードが飛び上がった、その時だった。エレンの目は捉えた。ミサイルが飛んできたのと同じ方角から一直線に、異形のヴァンガードを貫いて、鋭い光が走ったのを。速すぎて、エレンの動体視力ですら光線にしか見えないほどのそれは、異形のヴァンガードを貫通し反対側に飛び出た。


 それは弾丸だった。金属の弾丸だ。イージス艦おおみねから放たれた、極超音速の、レールガンの弾丸だった。


 撃ち落とされ、ボロボロになったアスファルトの上でもがく異形のヴァンガード。エレンは体勢を立て直しながら微笑んだ。


(ヒビキ……!)


◆◇◆


 数分前、イージス艦「おおみね」ブリッジ。


「艦長! い、いつの間にかシステムの制御権が帰ってきています!」


「あぁ、だがよく見ろ、全てじゃない」


 システムが復旧したと思った矢先。今度はレールガンとトマホークミサイル1発の制御権が奪われていた。


「こ、これは……」


「1発よこせということだろう。やれやれ、わがままな奴だ」


 初老の男は窓の外、北東の空を見つめた。


「構わんよ。くれてやれ」


◆◇◆


 レールガンに撃ち落とされ、なおもエレンに向かって迫る異形のヴァンガードを、エレンは一太刀で真っ二つに切り裂いた。


「次でラスト!」


 エレンは自衛隊員達が押さえ込んでいる最後の異形のヴァンガードを見た。


 片脚で走るのは難しかった。エレンは、アスファルトが剥げてしまった地面を蹴って跳ねた。太刀を握ったまま、頭から地面に飛び込んで、腕で再び跳ねる。


 続けざまに、目にも止まらぬ3回半後方宙返りで50m程の距離をあっという間に詰めたエレンはその勢いのまま、高く、高く飛んで太刀を構えた。


 眼下の異形のヴァンガードと目が合う。エレンの太刀が陽光を受けて輝く。鋭い閃きは青空諸共に最後の異形のヴァンガードを両断した。

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