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鋼の月と白兎  作者: さかはる


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修学旅行:後編 21

(頼む! ()()()()くれ!)


 ヒビキは凄まじい情報処理に瞼を痙攣させながら、瓦礫の隙間から檻を睨んだ。


◆◇◆


 ノイズが鳴りやんだ、薄暗いコックピットの中で、飛鳥は上着から引きちぎったトランシーバーに叫んでいた。


「どっかのミサイルシステムが動いてるぞ! もしもし!? おい! 応答しろ! クソ! ダメだ! 回線が遮断されてる!」


 飛鳥はトランシーバーを投げ捨てると壁を殴った。拳が切れて血が滲む。12式の身体が締め付けられて軋むのが、振動として拳から伝わり、モニターが不規則に点滅する。


(クソ! 何かの間違いで檻から出られたとしてもミサイルの雨が降ってくる! 上は何考えてるんだ!)


 顎に手を当ててじっと何か考えているエレンに舌打ちして、飛鳥は無理やり上着を被せにかかった。エレンはその手を止めて、ふと飛鳥の方に振り返る。


「わかったよ。君が何を考えているのか」


「は?」


 エレンはパイロットスーツの上着に袖を通すと、操縦桿を握った。


◆◇◆


 イージス艦「おおみね」ブリッジ。


「艦長! ミサイルが発射されます! 命令を! 作業員は既に位置についています! いつでも物理的に止められます! 艦長!」


 サイレンが鳴り響き、甲板のミサイル射出口が開く。


「艦長!」


 初老の艦長は淡々と声を張る。


()()()()()()()()()()()()()()()()


 トマホークミサイルがキャニスターを突き破って打ち上げられる。眩いロケットの光が、青空に白煙を引いていく。それとほとんど同時に、艦上の弾道ミサイル迎撃用レールガンが唸りを上げる。軽快な発砲音と共に砲口が眩く輝き、秒速2200mの極超音速の弾丸が放たれ、トマホークを猛追する。そのコンマ数秒後。トマホークミサイルは、おおみねの上空1220mで撃墜された。


◆◇◆


 トマホークミサイルが打ち上げられたその瞬間、異形のヴァンガード達は一斉に檻を解き、散り散りに飛び去った。エレンはすかさずその場から飛びのき、体勢を立て直す。コックピットの中を、モニターに映る青空が照らす。


「油断するな、ミサイルが来る! とにかくここを離れるんだ!」


「いや飛鳥、ミサイルは来ないよ」


 エレンがそう言うのと同時に、博物館の陰から数十台の車両が姿を現した。自動運転の無人バスや無人タクシーだ。ハメられたことに気づいて戻ってきた異形のヴァンガード達に向かって、自動運転車両は、戦闘で凸凹になった地面を跳ねながら突撃していく。


 触手を振り回し、自動運転車両を薙ぎ払う異形のヴァンガード達、エレンはその隙に攻勢に出た。アスファルトを蹴ってボロボロの12式は走り出す。動きに合わせて二人の髪が揺れる。


「なぜだ! なぜそんなことが分かる!」


「わかるんだ! ヒビキは、街を火の海にするなんてことはしない!」


 大破して静かに燃えている飛鳥の12式の傍に落ちていた太刀を拾い上げると、エレンは手近な異形のヴァンガードに斬り掛かっていった。


「ヒビキ、そいつがコレを仕掛けた奴の名前か……! 何者だそいつは! そして! そんなのとつるんでるお前は何者だ! クソガキ!」


「言ったでしょ! 私は──」


◆◇◆


 同時刻、イージス艦「おおみね」ブリッジ。


「そのまま、トマホークをレールガンで撃墜しつづけろ」


「どういうことですか艦長、なぜレールガンの制御権だけ生きて……」


「信じがたいことだが、奴は味方だ。それだけのことだよ」


 初老の艦長は制帽を脱ぐと若い船員に微笑んだ。若い船員は、制帽を脱いだ男を見て視線を落とした。


「艦長、なぜ、奴を信用できたのですか? 奴の実力なら、トマホークを撃った瞬間にレールガンを無力化することだってできるはずです。賭けに負けていたら、大惨事でした」


 男は首を横に振った。


「逆だ。奴の実力なら、我々に抵抗の隙も与えず、レールガンも何もかも無力化して、8発全てのトマホークを撃つことができただろう。だがそれをしなかった……おそらく奴にとって必要なものは、『ミサイルが発射された』という事実、それだけだったんだ。敵を欺き、退けるために」


◆◇◆


 エレンの太刀筋が冴えわたる。瞬く間に異形のヴァンガードを1体無力化し、次の標的を見定める。


 街中に鳴り響く、ミサイル着弾の警報は鳴り止まない。エレンの操縦の様子を見ながら飛鳥は心の中で一つ、ため息をついた。


(はぁ、私より悪い条件で、私より強いのやめてくんないかなほんと……お姉さん萎えちゃうよ)


 少しオーバーサイズのパイロットスーツを羽織る背中は、あまりにも小さく。


「……ごめんな、エレン」


 ぽつりとそう零した飛鳥に振り向いて、エレンは赤い舌をべっと出した。飛鳥は顔をしかめた。


「クソガキ!」

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