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鋼の月と白兎  作者: さかはる


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修学旅行:後編 18

 触手がゾフィー達を血の飛沫に変えようとした、まさに直前。


 崩れた壁の陰から、白く輝く、H2Aロケット13号機の先端が飛び出してきて──


「”ロケット・パンチだ”」


 異形のヴァンガードの横っ腹をぶち抜いて、吹き飛ばした。エレンが、博物館の庭にあったロケットの模型を持って突っ込んできたのだ。12式には50mのH2Aは重すぎることもあり、エレンはその勢いのままロケットを投げ捨てて、殴り飛ばした異形のヴァンガードに飛び掛かっていった。


 暴風が砂煙を吹き飛ばし、ヒビキの黒い髪を揺らす。


「うおっ!?」


「くっ……急ごう! 巻き込まれないうちニ!」


 3人はぐったりと気を失っている熊谷を担ぎあげると、ヒビキの横を通りすぎながら博物館の奥へと逃げて行った。サクラは通り過ぎ様に、ヒビキに目を合わせないまま言い捨てた。


「一人で歩け、早く逃げろ」


 壁の向こうに覗く青空を呆然と見つめたまま、ヒビキは震える膝をついた。


「あ……あぁ……」


 殴られて、ひしゃげた顔をぐちゃぐちゃにして、額を床にこすりつけて、涙と、血が混じった鼻水を垂れ流しながら、ヒビキは背を戦慄かせた。


「う……あ……あぁ……あ」


 不規則に震える両手が、砂で汚れた床を這いずって、項垂れる黒髪に触れる。


(あぁ、よかった、みんな無事だ、よかった、本当によかった……よか──)


 口に混じった砂粒と血を、牙で纏めて嚙み砕く。両手が軋んで、指に絡んだ髪が引きちぎられるのとほとんど同時に、怒りは、絶頂に達した。


◆◇◆


 エレンは殴り飛ばした異形のヴァンガードに飛びかかって行った。しかしそれを妨げるように、別の異形のヴァンガードがエレンに襲いかかる。やむを得ず攻撃を中断し、エレンは跳ねて、宙を舞いながら触手攻撃を躱す。


(攻撃をしようとすればすかさず妨害が飛んでくる! 触手を躱すだけなら何とかなるけど、これじゃジリ貧だ!)


 エレンは半壊した博物館を横目に見た。エレン達が対処しきれない異形のヴァンガードが、絶えず博物館を攻撃している。


(さっきからヒビキの連絡が無い、こっちに気を使ってるのかもしれないけど……)


 エレンは幻視した。瓦礫の下で血溜まりになってしまったヒビキを、シェルターだった箱の中で、合い挽きになってしまったゾフィーやサクラを。


 触手が掠めて、火花と共に右肩の装甲が引きちぎられ、関節が露になる。


「"クソガキ! 集中しろ! 余計なことは考えるな! 耐えるだけでいい! これでいい!"」


 飛鳥は2体の異形のヴァンガードの攻撃を太刀で捌きながら叫んだ。コックピットの激しい揺れに合わせて、飛鳥の黒いポニーテールが揺れる。


「"仲間を信じて今は耐えろ! 避難が終われば増援が来る! そうすれば、逆に奴らを挟み撃ちにできる!"」


 しかしエレンの返事はなかった。


「"返事しろクソガキ!"」


「いやそれじゃダメだ!」


 エレンは折れたナイフを投げ捨てると、背中に格納されていたハンドガンを取り出し、単身、異形のヴァンガード達の中に突っ込んで行った。


「"そんな豆鉄砲は効かない! 戻れクソガキ!"」


「お前と一緒にするな!」


 エレンは走りながら、触手を振り回す異形のヴァンガードに向けてハンドガンを乱射した。


(クソガキ! ヤケを起こしたか!)


 やむを得ずエレンを追う飛鳥。エレンを先頭に、陣形が崩れていく。エレンが放つ弾丸は全て触手の網に阻まれて、火花になって飛び散る。


「"本体に当たってない! デタラメに撃っても無駄だ!"」


 飛鳥がそう叫んだその瞬間であった。突然、異形のヴァンガードの触手の1本が、千切れ飛んだ。


「──は?」


 エレンは千切れた3m程の触手を空中でキャッチすると、それをちょうど鞭のように操り始めた。エレンが触手をキャッチする、その一瞬に飛鳥は目撃した。触手の奇妙な切断面を。それはまるで、撃ち込まれた弾丸の上にさらに何発も弾丸を撃ち込んで、穴を開けてそこから千切れたような、そんな切断面だった。


「いくらこの触手が硬くても、傷一つつかないってわけじゃない。傷がつくなら、壊せる」


(ありえない! 弾丸が当たってできた微かな傷を、正確に、執拗に連続で狙撃することで破壊したとでもいうのか!? 超音速で動く触手だぞ!?)


 エレンは次の瞬間には、触手の網を、まるで改札でも通り抜けるように当たり前のように通り抜けて、異形のヴァンガードに肉薄していた。当然、別の異形のヴァンガードからの妨害が入る、しかし、今のエレンの手元には先程までにはなかった武器があった。


 エレンは降り注ぐ触手の雨を躱しながら、触手の鞭で応戦した。だが、12式の力で振り回す鞭が超音速の触手に敵うはずもなく、鞭は容易く弾かれる。しかしその"弾かれる"という当然の結果こそがエレンの狙いであった。


 超音速の触手に弾かれた鞭は、エネルギー保存則に従い、凄まじい運動エネルギーを触手から受け取る。その運動エネルギーで亜音速にまで加速された鞭は、その鞭のかつての持ち主であった異形のヴァンガードの頭部を正確に捉えて、一撃で叩き潰した。

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