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鋼の月と白兎  作者: さかはる


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修学旅行:後編 16

 博物館地下シェルター。ひとしきり続いたパニックは、パニックによる怪我人が出たことと、人々が疲れ始めたことで落ち着き始めていた。


「折れてはいないみたいだケド、ヒビが入ってるかもしれないから、落ち着いたら必ず病院で診てもらってくださイ」


「ありがとうございます。ほら、お姉ちゃんにお礼言いなさい」


「ぐす、ありがとう」


 シェルター備え付けの救急箱と、スマホのライトで、ゾフィーは怪我人を手当して回っていた。手当てと言っても簡単な診察と処置をして、当たり障りのないことを言うだけだったが、そうでもしなければ落ち着かなかった。


 サクラ達はシェルターの隅に座って、そんなゾフィーの様子を遠目に見つめていた。


「猫宮さんって、ホントに医者だったんだな……」


 感心する朱雀を龍一は鼻で笑った。


「医者って……あんな当たり障りのない応急処置、医者じゃなくたってでき──痛って!」


 サクラは龍一の鼻を間髪入れずに裏拳で殴った。顔を押さえて悶える龍一を庇うように熊谷が割って入る。


「それ、自分で応急処置しなさい」


「サクラ! こんな時に何やってるんだ!」


「弟弟子を躾けるのは姉弟子の役目よ。部外者が構わないで」


「状況を考えろと言ってるんだ!」


「くそ! 離れろよ!」


 龍一は血の付いた手で熊谷を押しのけた。


 怪我人が増えているとは知らず、一通りの処置が終わったゾフィーは救急箱の蓋を閉じてため息をついた。


(大神君、戻って来ないな……)


 シェルターにまた衝撃が走り、天井からパラパラと埃が落ちてくる。


 ゾフィーは首を横に振った。


(これでいいんだ。ボクは映画に出てくるバカなヒロインとは違う! ここでできることをするんだ!)


 ふと、ゾフィーのスマホから着信音が鳴り響く。画面に写る名前は──


「大神君、何かあったノ!?」


 ゾフィーは慌てて電話を取った。


「"敵の狙いは博物館だ。まもなくここが戦場になる。絶対にシェルターから出ないでくれ"」


「な、なんだっテ!? あ、ちょ──」


 一方的な電話が切れて、呆然としてスマホを見つめるゾフィー。そんなゾフィーに背後から話し掛ける者がいた。


「ゾフィー、今の電話は?」


「ひっ……!」


 ゾフィーはぎょっとして飛びのいた。サクラはそんなゾフィーを睨んで詰め寄り、壁際に追い詰めると、壁にドンと手をついた。


「サ、サクラ?」


 目を白黒させるゾフィーをよそに、サクラはシェルターの中をじっくりと見渡して、はっとしてゾフィーの方へゆっくりと振り向いた。それを遠目に見ていた熊谷と朱雀も、状況を察して、血相を変えて立ち上がった。ゾフィーはひきつった愛想笑いを浮かべるしかなかった。


(ごめん大神君……ボクやっちゃったかも……)


◆◇◆


 瓦礫だらけの館内を走りながらヒビキは思考を巡らせた。


(博物館の破壊が目的なら、とっくにここは瓦礫の山だ。でもそうなっていないということは、異形のヴァンガードの目的は探し物、そして、その探し物は俺の探し物と同じ『何か』の可能性がある!)


 深くフードを被り、目の前を薄暗い通路を睨む。


 みつけた


『異形のヴァンガードは、エレン以外には操縦できない』


『大事な探し物を見つけたのなら……その探し物をどうしたいと思うかな?』


 ヒビキは激しく首を横に振った。


(エレンと連中との関係は今は考えるな! とにかく今は、連中より先に『何か』を見つけ──)


 ヒビキは固唾を飲んだ。


(こ、こんな時に何を考えているんだ俺は。今はそんなことを言ってる場合じゃない、『何か』の捜索だって!? 皆が危険な目に遭っているときに、誰にも危害は加えさせないと宣っておきながら、それは、いくらなんでも無責任なんじゃないか?)


 飛鳥の無線が耳を伝う。


「"私が仕掛ける! ウォーカー9、隙を見てお前が仕留めろ! 他は退路の確保だ! 囲まれたら1分と持たない!"」


「「"了解!"」」


 散開する隊員、飛鳥は高周波ナイフを抜き放ち、エレンに投げてよこした。エレンは黙ってナイフを受け取るとひび割れたモニターに映る異形のヴァンガードを睨んだ。


「"エンゲージ!"」


 飛鳥の12式が深く身を屈め、博物館の異形のヴァンガードに斬り掛かる。攻撃に気づいた異形のヴァンガードは飛鳥に応戦し、博物館に背を向ける。


 それとほとんど同時に、市内に散らばっていた全ての異形のヴァンガードが、一斉に博物館の方を向いて、空へ飛び上がった。


(始まってしまった……! つまり、やはり、連中の目的はこの博物館にある!)


 ヒビキの心臓が跳ねる。『何か』に近づいているという直感が汗になって頬を伝う。


 飛鳥が太刀を振るい、異形のヴァンガードと切り結ぶ戦闘の音が、ヘッドホンを貫いて直に耳に伝わる。激しい振動に足を取られながら、ヒビキは気づけば博物館の館内地図の前にたどり着いていた。


(探し物は何だ? 展示品か? バックヤードにあるものまで含めるとキリが──)


 その時ふと、ヒビキの目に止まる文字があった。


「特別展示室……」

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