建国伝説『聖女ルーヴェリア』外伝
―――
建国六三二年。
ルーヴェリア帝国は、“神”によって創られた国である。
それは、祝福と聖約。
そして、厄災と呪いによって成り立つ国だった。
遥か昔。
まだ人と悪魔と神が、今よりも近く在った時代。
世界には、一人の聖女がいた。
名を――ルーヴェリア。
神に最も愛され、不死を与えられた女。
白銀の髪を持ち、その祈り一つで病は癒え、荒野には花が咲いたという。
だが。
大悪魔サタリウスは、その聖女に恋をした。
それは禁忌だった。
悪魔が聖女を愛することも。
聖なる存在へ欲を抱くことも。
まして、それを己のものにしようと望むことなど。
けれど、サタリウスは止まらなかった。
悪魔は聖女を攫い、犯し、そして子を成した。
生まれ落ちたのは、悪魔と聖女、決して交わるはずのない血を宿した忌み子。
――トリニード。
だが、ルーヴェリアは逃げた。
神へ祈りながら。
己の子を抱き締めながら。
そして。
愛に狂った悪魔は、ついに聖女を見つけ出した。
不死であったはずの聖女ルーヴェリアは、その日、“消えた”。
殺されたのか。
喰われたのか。
あるいは、神へ還ったのか。
今となっては、誰にも分からない。
ただ一つ確かなのは。
聖女を失った人々が、悪魔へ激しい怒りを向けたことだけだった。
悪魔を殺せ。
聖女の仇を討て。
その憎悪は、やがて世界全土を巻き込む戦争へ変わっていく。
悪魔と人間の大戦。
血は大地を染め、空は焼け、幾つもの国が滅びた。
そして、その戦争の終焉へ立ったのが。
聖女ルーヴェリアの息子――トリニードだった。
彼は自らの父である大悪魔サタリウスを封印し、その功績によって王より一つの名を賜る。
――グレイル。
それこそが、後に“北の死神”を代々生み出すこととなる、グレイル公爵家の始まりであった。
以来。
グレイル家は代々、悪魔の血を継ぎながらも、地下深く眠る“大悪魔”の封印を守り続けている。
そして。
聖女ルーヴェリアが消えたその日から。
長い長い時の中で。
“聖女”は、ただの一人も現れなかった。
―――建国伝説『聖女ルーヴェリア』外伝より




