第22話 知り合いと友人の境目は難しい
今回のお題:知り合いと友達の境目
何度か話したら友達?
一緒に遊んだら友達?
それとも、お互いに友達だと思って初めて友達?
あなたは、どこからが友達だと思いますか?
友達と知り合いの違いは何だろう。
顔と名前を知っていれば知り合いで、何度か話したことがあれば友達なのか。それとも、一緒に食事をしたり、遊びに出かけたりするようになって、ようやく友達と呼べるのだろうか。
そんなことを、昼食の途中で真剣に考える羽目になるとは思わなかった。
◇
「ハジメ、さっきから何を見てるの?」
向かいに座るミナが、食事の手を止めて尋ねてきた。
ここは教育艦の食堂。午前の授業を終えた俺たちは、いつもの四人で昼食を取っていた。
「軍からアンケートが届いたんだよ。軍内交友関係に関する標本調査、だってさ」
「へえ。どんなこと聞かれるの?」
「まだ開いてない。何か、無作為に選ばれた人に届くらしいけど」
通知の説明を読む限り、軍内での交流状況を調べるためのものらしい。回答は任意で、所要時間は五分程度と書かれている。
「面白そう。私もやってみたいな」
「でも、俺にしか届いてないよ?」
「ちょっと調べてみる」
ミナは自分の端末を操作し、ほどなく同じアンケートを開いてみせた。
「あった。希望者も参加できるみたい」
「そんなにやりたいものか?」
「だって、ちょっと気になるじゃん」
まあ、ミナらしい。
隣ではケイロが四本の腕を器用に使って食事をしている。ポルカは青白い炎を静かに揺らしながら、栄養補給用の容器を傾けていた。
「ケイロたちはやらないの?」
「俺はいいかな。終わったら結果だけ見せてくれよ」
『私もいい。今は食事中だ』
「それもそうだな」
俺も食事を続けながら、片手でアンケートを開いた。
◇
最初の質問は、軍内で普段どのくらい人と話すか、食事を共にする相手はいるか、といった簡単なものだった。
適当に、というわけにもいかないので、思い当たる範囲で答えていく。
そして、七番目の質問で手が止まった。
《現在、軍内で友人と認識している相手を登録してください》
友人、か。
俺は少し考えてから、三人の名前を入力した。
ミナ、ケイロ、ポルカ。
入隊してから何かと一緒にいるし、休みの日には四人で出かけたこともある。少なくとも、この三人については迷う必要がなかった。
《登録人数:3》
これでいいだろう。
回答を終えて顔を上げると、ミナはまだ端末を操作していた。
「ミナ、まだ終わらないの?」
「うん、もうちょっと。あ、この子もいた」
彼女の指が動くたび、画面の数字が増えていく。
二十七、二十八、二十九。
……二十九?
「えっ、そんなに友達いるの?」
「え? うん。まだ途中だけど」
「まだ途中なの?」
「授業で一緒になった子とか、文化交流会で知り合った子とか。あとは食堂でよく会う子もいるし」
ミナは当たり前のように答え、また一人追加した。
「……すごいな。そんなにたくさん覚えてるんだ」
「ハジメだって、結構いろんな子と話してるじゃん」
「まあ、話すことはあるけど」
「何人くらい登録したの?」
「三人」
ミナの指が止まった。
「……三人?」
「うん」
「ちょっと見せて」
画面を向けると、ミナは登録された名前を確認し、なぜか俺の顔を見た。
「私とケイロとポルカだけ?」
「そうだけど」
「えっ、それだけ? もっと仲のいい人いるじゃん!」
今度は俺が驚く番だった。
◇
「ほら、この前、実習が終わったあともずっと話してた子がいたでしょ」
「ああ、いたね」
「あの子は?」
「同じ班だったから話してただけだよ」
「でも、別の日にも向こうから声かけてきてたよね?」
「それは、まあ」
「あと、休憩時間によく話してる子もいるじゃん。あの子は?」
「知り合い、かなあ」
ミナは不思議そうに首を傾げた。
「ハジメって、友達になるのに何か条件でもあるの?」
「別に条件なんかないよ」
「じゃあ、何で友達じゃないの?」
「いや、友達じゃないってわけでもないんだけど……」
自分で言っていて、何だかよく分からなくなってきた。
仲が悪いわけではない。会えば普通に話すし、一緒に何かをすることもある。ただ、友達かと聞かれると、少し迷ってしまうのだ。
「ミナは、一回話しただけでも友達なの?」
「さすがに一回だけじゃ、知り合いかな。でも、何度か話して仲良くなったら友達でしょ?」
「そうなのかなあ」
「そうだよ。たぶん」
「たぶんって」
「だって、そんなの人によるじゃん」
それを言われたら、もう何も言えない。
俺が悩んでいると、ケイロが食事の手を止めた。
「そういえば、俺の故郷だと、友達になった記念日を祝う奴がいたな」
「へえ、楽しそう!」
「最初に友達になった日を覚えてないと怒られるんだよ。あれは結構大変だった」
「それは大変そうだな……」
「しかも、向こうは覚えてるんだ。こっちが忘れてると、しばらく機嫌が悪くなる」
ケイロは苦笑しながら食事を再開した。
四本腕の彼にも、友達付き合いの苦労はあるらしい。
「でも、友達になった日ってどうやって決めるんだろうね」
「本人たちが決めるんじゃないか?」
「それだと、二人で違う日を覚えてたら困らない?」
「実際、揉めてたな」
ミナが笑い、俺もつられて笑った。
銀河には色々な文化があるものだ。
もっとも、俺だってこの三人といつ友達になったのか、正確には覚えていない。
「ポルカはどう思う?」
何となく聞いてみると、ポルカの炎が小さく揺れた。
『何を?』
「どこからが友達なのかって話」
『難しいな』
「ポルカでも難しいのか」
『お前たちは友人だ。それ以外は、よく分からない』
「……ああ、俺もそんな感じ」
『なら、同じだな』
ずいぶん簡単な答えだった。
でも、何だかそれでいい気もした。
◇
結局、俺は三人のまま回答を送信した。
ミナは四十人を超えたところで、ようやく入力を終えたらしい。
「……本当にすごいな、ミナ」
「そう? でも、何人か忘れてる気がする」
「まだいるのか……」
二人で回答を送信すると、端末に新しい画面が表示された。
《回答を受理しました》
《軍内交友関係の独立判定を開始します》
「……独立判定?」
「何だろうね」
ミナも首を傾げている。
画面には小さな文字で、本人の申告とは別に、軍のシステムが交流状況を分析した参考値を表示すると書かれていた。
へえ、そんなことまでやるのか。
しばらくして、結果が表示された。
《本人申告:3》
《システム判定:4.0000001》
《判定区分:社会的個体数換算・暫定》
「…………」
俺は画面を見つめた。
「……何これ」
「えっ、四人? ほら、やっぱり三人じゃないじゃん!」
「いや、そこじゃなくて」
四人。
いや、四人と、ほんの少し。
「何で小数点があるんだよ」
「私に聞かれても分からないよ」
「ちょっと見せてくれ」
ケイロが身を乗り出し、画面を覗き込んだ。
「社会的個体数換算……?」
「分かる?」
「いや、初めて見た。人数を換算するって、何をどう計算してるんだ?」
「俺が聞きたいよ」
画面の端に説明用の小さな印があったので、押してみる。
《複数身体・群体意識・複合人格等の存在形態を考慮した統計上の換算値です。実際の友人数を保証するものではありません》
……なるほど。
いや、分からない。
「友達って、小数で数えるものだったんだな」
「普通は数えないと思うけど」
「でも、銀河には一つの身体に何人もいる種族とか、逆にたくさんの身体で一人の種族とかいるんでしょ?」
「いるね」
「じゃあ、そういうことなのかな」
「そういうこと、なのか?」
俺とミナは顔を見合わせた。
ケイロも分からないらしく、しばらく画面を眺めてから肩をすくめた。
ポルカは静かに炎を揺らしている。
『四人目が誰か、聞けばいいのでは?』
「それが分からないんだよ。名前が出てないから」
『不親切だな』
「本当にそう思う」
せめて誰なのか教えてくれれば、俺だって考えようがあるのに。
もっとも、勝手に友達だと判定された相手の名前が表示されるのも、それはそれで困る気がする。
他人の人間関係を、軍が全部教えてくれるというのも妙な話だ。
「そういえば、ミナの方はどうだった?」
「あ、そうだ。私の結果も見てみよう」
ミナが画面を開き、少しして眉をひそめた。
「……減ってる」
「え?」
「私が登録した人数より、少なくなってる」
「何人?」
「それは秘密」
「何でだよ!」
「だって、何か悔しいじゃん」
さっきまで俺の三人を少ないと言っていたのに、自分の結果は見せてくれないらしい。
「ほら、ミナだってシステムと意見が違うじゃないか」
「私は友達だと思ってるもん」
「俺だって、三人は友達だと思ってるよ」
「じゃあ、やっぱりハジメの方が厳しいんだよ」
「何でそうなるんだ!」
ケイロが笑い始めた。
どうやら、どちらが正しいかを決めるのは無理そうだ。
◇
食事を終える頃には、アンケートのこともすっかり雑談の一つになっていた。
ミナはまだ自分の判定結果に納得していないらしく、時々端末を見ては首を傾げている。
「ねえ、ハジメ。今度、実習で一緒だった子も誘ってご飯食べようよ」
「いいけど、急にどうしたの?」
「別に。楽しそうだから」
「……友達を増やそうとしてない?」
「違うよ。仲良くなれたらいいなってだけ」
それは、確かに悪くない。
知り合いと友達の境目なんて、考えてもはっきりした答えは出ないのだろう。それなら、あまり難しく考えずに話してみるのもいいかもしれない。
「分かった。今度声かけてみるよ」
「うん!」
ミナが嬉しそうに笑った。
その横で、ポルカがぽつりと言った。
『ハジメは友人の審査が厳しいな』
「審査なんかしてないって!」
『では、私たちは合格だな』
「だから、試験じゃないんだよ!」
ケイロまで笑っている。
まったく、好き勝手なことを言ってくれる。
でも、まあ。
少なくとも、この三人については迷わなくていい。
そう思いながら、俺たちは食堂を後にした。
結局、軍のシステムが判断した四人目については分からずじまいだったし、最後の小数点についても謎のままだ。
ただ、銀河には数え方の難しい種族がいくらでもいる。
たぶん、そのせいだろう。
……たぶん。
◇
《軍内交友関係標本調査:処理完了》
《対象者:ハジメ》
《本人申告:3》
《通常交流対象:4》
《未分類交流対象:1》
《未分類対象の社会的個体数換算:0.0000001》
《対象識別情報:取得不能》
《接触履歴:存在》
《初回接触日時:特定不能》
《相互認識照合:応答あり》
《応答元:特定不能》
《対象者への通知:不要》
《継続観測:承認》
◇
【TIPS:銀河統合軍における交友関係調査】
銀河統合軍では、訓練生の生活環境や社会的孤立の傾向を把握するため、定期的に交友関係の標本調査を実施している。
調査対象者は無作為に選出されるが、希望者による任意参加も認められている。
調査では本人の申告に加え、交流頻度や継続性などを基に、システムが独立した判定を行う。ただし、判定結果は統計上の参考値であり、本人の認識を訂正するものではない。
また、銀河には群体知性や複数人格など、多様な存在形態を持つ種族がいるため、判定人数が整数にならない場合もある。
なお、本人が認識していない交友関係が検出されることもあるが、その大半は文化的な認識の違いや記録上の問題によるものである。
ごく稀に、交流の事実だけが確認され、相手の存在を特定できない事例も報告されている。
これらは《未分類交流事象》として管理されており、公式には特に危険性の高い現象とはされていない。
少なくとも、現時点では。
お読みいただき、ありがとうございます!
感想や、この銀河に存在してほしい「変なもの」も募集中です。
種族、能力、魔法、超科学、怪異、都市伝説、謎の物体――なんでもどうぞ。
いただいたアイデアは、作品世界に合わせてアレンジして登場するかもしれません。
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それでは次回。
今日も銀河は平和です。
たぶん。




