↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も銀河は平和である。たぶん。~宇宙軍訓練生の俺は、今日もよく分からないものを習っている~  作者: 優耀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/24

第17話 名前と本人は別の話

今回のお題:本名以外で呼ばれている名前


あだ名、ハンドルネーム、役職、昔からの呼び名など。


本名よりそちらで呼ばれる方が多い、というものがあれば教えてください。

今日の《基礎身体操作Ⅰ》は、いつもの訓練区画ではなかった。


 師匠に連れられて来たのは、複数の訓練科目で共同利用されている身体能力測定区画だった。広い室内には大小さまざまな測定機器が並び、俺たち以外にも何人もの訓練生が順番を待っている。


「今日は測定ですか?」


「ああ。前回からどれだけ変わったか見る」


「変わってます?」


「それを今から測るんだ」


 それもそうだった。


 受付端末へ近づくと、自動で俺の情報が表示される。


《個体識別:確認済》


《登録呼称:ハジメ》


《対象科目:基礎身体操作Ⅰ》


《担当:ガルド・ゼン》


 普段なら、そのまま通り過ぎるところだった。


 だが今日は、隣の受付端末が目に入った。


《個体識別:確認済》


《登録呼称:セイ》


《名称表現:発光》


「……発光?」


 思わず口に出した。


 端末の前にいた訓練生がこちらを向く。細い身体の表面を、淡い光の線がゆっくり流れていた。


「珍しい?」


「すみません。名前のところが気になって」


「別にいいよ」


 翻訳された声は普通だった。


「セイって名前なんですか?」


「君たちが呼ぶときはね」


「呼ぶときは?」


 相手の身体を走っていた光が、一瞬だけ複雑な模様を作った。三本の線が交差し、色が変わり、短く明滅して元へ戻る。


「今のが、僕の名前」


「……光るんですね」


「そういう名前だから」


 もう一度見せてもらっても、俺には正確に再現できそうになかった。そもそも発光する身体を持っていない。


「音声を使う相手には、セイで通してる。軍でもそれで登録してる」


「なるほど」


 俺が表示を見直していると、師匠が横から言った。


「呼べれば困らん」


「でも、セイって呼び名だけで本人だと分かるんですか?」


「それは別だ」


 師匠が端末を指す。


《個体識別:確認済》


「本人かどうかは、もう確認が終わってる」


「ああ」


 言われてみれば、その通りだった。


     ◇


 測定は順番に行われた。


 筋出力、関節可動域、重心制御、神経反応。俺の場合はだいたいヒト向けの項目で済むが、別種族の順番になると、同じ測定装置が脚を増やしたり、床へ沈んだり、空中へ測定枠を展開したりしていた。


 待ち時間には、いろいろな登録情報も目に入る。


《個体識別:確認済》


《登録呼称:リト》


《所属共同体:アシュ=レム第三群》


 別の端末。


《個体識別:確認済》


《登録呼称:オル》


《名称情報:一部非公開》


 さらに別。


《個体識別:確認済》


《登録呼称:第七枝》


「第七枝……」


 変わった呼び方だった。


 ちょうど本人が近くにいたので、邪魔にならないタイミングで声をかける。


「それって、名前?」


「今はそう」


「今は?」


「次の成長段階になったら変わる」


「名前が?」


「枝が増えるから」


 身体を見る。


 確かに、腕とも触手ともつかない細い器官が七本伸びていた。


「八本になったら?」


「第八枝」


「分かりやすいな」


「そう?」


 本人には普通らしい。


 名称情報が一部非公開になっていた訓練生にも、別の事情があった。


「外で使うのは登録呼称だけ。契約用の名は普段使わない」


「契約って、魔法の?」


「そう」


 それなら聞かない方がいいだろう。


 以前の講義でも、魔法は術式だけでなく、何を対象として指定するかが重要になる場合があると習った。名前を契約上の識別に使う文化なら、必要もない相手へ公開しないのは不思議ではない。


 それでも端末上では、


《個体識別:確認済》


 である。


 名前の一部を知らなくても、本人かどうかには何の問題もないらしい。


     ◇


 俺の測定が始まった。


「腕を上げろ」


「はい」


 師匠に言われた通りに動かす。


「肩」


「またですか?」


「まただ」


 腕を動かしているだけなのに、相変わらず余計なところへ力を入れているらしい。


 一度やり直す。


「今度は腰が固い」


「肩は?」


「さっきよりましだ」


「一個直すと別のところに来るんですよね」


「だから練習してる」


 反論できない。


 何度か繰り返したところで、測定装置が動作を解析し、前回記録との比較結果を表示した。


《基礎身体操作Ⅰ・運動解析報告》


《上肢運動軌道一致率:前回比+四・七%》


《不要筋群同時収縮率:前回比-一二・三%》


《動作時重心偏位量:前回比-八・一%》


《全身運動連鎖効率:前回比+三・九%》


《総合評価:改善傾向》


「前より良くなってる」


「ああ。もう一回」


「はい」


 同じように腕を上げる。


 今度は途中で肩に力が入り、さっきより少し軌道がぶれた。測定結果も、それに合わせて少し落ちる。


「……まだ安定しないな」


「そうだな」


「もう一回?」


「当然だ」


 ですよね。


 その後も何度か同じ動作を繰り返した。


 完全に同じ結果にはならないものの、最初の頃のように大きく崩れることもなくなっている。測定装置は各試行のばらつきまでまとめて処理し、しばらくして新しい表示を追加した。


《基礎動作安定性:規定値到達》


《反復動作再現性:規定値内》


《次段階訓練移行条件:適合》


「お」


 今度は師匠も少し長く表示を見た。


「次から少し変える」


「何をです?」


「次にやる」


 教えてくれないらしい。


 数字は地味だったが、前より良くなったと機械にまで言われると、少しだけ嬉しい。師匠は褒めなかったけれど、少なくとも次へ進むことだけは決まった。


 測定台から降りると、さっきのセイが別の装置へ向かうところだった。


「セイ」


 呼ぶと、相手が振り返る。


 当然だが、ちゃんと通じた。


 あの光の模様を再現できなくても、会話には何の問題もない。


     ◇


 休憩に入ってから、自分の登録情報を改めて開いてみた。


《個体識別:確認済》


《登録呼称:ハジメ》


 俺の場合は単純だ。


 少なくとも自分では、そう思っている。


「師匠」


「なんだ」


「名前って、本人確認にはあまり使わないんですね」


「使わないわけじゃない。確認材料の一つにはなる」


「でも、それだけじゃ足りない」


「ああ。同じ名前の奴もいるし、名前を変える奴もいる。複数使う奴もいる」


 師匠は少し間を置いた。


「そもそも、お前が名前だと思っているものと同じ仕組みを持たない奴もいる」


 さっき実際に見たばかりだった。


「だから登録呼称がある?」


「そうだ。呼ぶだけなら、それで足りる」


「かなり割り切ってますね」


「銀河中の命名文化を統一したいのか?」


「絶対嫌です」


「俺もだ」


 珍しく意見が完全に一致した。


     ◇


 測定の後半では、他の訓練生と組んで簡単な反応訓練も行った。


 俺の相手は、端末上では《登録呼称:ノア》となっている訓練生だった。


「よろしく、ノア」


「よろしく」


 しばらくして、少し離れた組から声が飛ぶ。


「ノア、次こっち!」


 二人が同時に振り向いた。


 俺の相手と、第五区画にいた別の訓練生。


「同じ名前?」


「登録呼称が同じなんだと思う」


「困らない?」


「今ちょっと困った」


 本人も困っていた。


 だが、俺たちが考えるより先に補助表示が切り替わる。


《ノア/第三区画》


《ノア/第五区画》


「分けられた」


「これでいいか」


「いいんじゃない?」


 それで終わった。


 本人確認の方には、最初から何の問題も起きていない。単に、同じ場所で同じ呼び方をする者が二人いたから、呼び分けが必要になっただけだった。


     ◇


 訓練終了。


 帰り際、端末へ表示された師匠の情報が目に入った。


《個体識別:確認済》


《登録呼称:ガルド・ゼン》


 普通の名前だった。


 少なくとも、俺にはそう見える。


「師匠」


「なんだ」


「そういえば、俺も師匠のこと登録呼称で呼んでないですね」


「今さらか」


「いや、知ってはいましたけど」


 師匠はガルド・ゼンという名前だ。


 でも俺がこの人を呼ぶときは、ずっと師匠である。


「じゃあ『師匠』も登録した方がいいですか?」


「いらん」


「即答ですね」


「お前しか呼ばん」


 それもそうだった。


 端末ではガルド・ゼン。


 俺が呼ぶときは師匠。


 どちらでも、振り向く相手は同じである。


 考えてみれば、名前が何であるかと、目の前にいるのが誰なのかは、最初から別の話だった。


【TIPS:名前と呼称】


 銀河社会では、個体や集団を示す名称の形式は非常に多い。


 音声による名前だけでなく、光、色、匂い、身体模様、電磁信号、精神波、動作、位置関係などが名称として機能する文化も存在する。


 一個体が複数の名称を持つことも珍しくない。


 家庭内で使う名、社会生活で使う名、職務上の名、契約に用いる名、成長段階によって変化する名など、その役割は文化によって異なる。


 銀河統合宇宙軍では、それらを一つの形式へ統一することはしていない。


 本人を確認するための《個体識別》と、通常の意思疎通で他者が使用する《登録呼称》は、別々に管理されている。


 登録呼称は、必ずしも本人の文化における唯一の名前でも、最も重要な名前でもない。必要なのは、相手を適切に呼べること。


 本人確認は、また別の仕事である。


 なお、同じ登録呼称を使う者は普通にいる。


 銀河が広くなっても、名前がかぶる問題まではなくならなかった。


お読みいただき、ありがとうございます!


感想や、この銀河に存在してほしい「変なもの」も募集中です。

種族、能力、魔法、超科学、怪異、都市伝説、謎の物体――なんでもどうぞ。

いただいたアイデアは、作品世界に合わせてアレンジして登場するかもしれません。

面白かったら評価・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは次回。


今日も銀河は平和です。

たぶん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。