第15話 チームワークは大切です
今回のお題:チームワークで「言わなくても分かると思っていた」こと
自分では伝えたつもりだった、相手も知っていると思っていた、善意で手伝ったら少し噛み合わなかった――。
大失敗ではないけれど、「一言あればもっと楽だったのに」という経験があれば教えてください。
《小規模班行動実習》
昨日は超能力について習った。魔法と超能力は何が違うのか、未来を見る手段がなんであれカンニングは駄目だとか、壁を越えられても立入禁止は立入禁止だとか。
そして今日は、
《指定物資を第三保管区画から第七実習区画へ移送してください》
《指定位置への配置完了をもって課題終了とします》
《制限時間:三十分》
《自律搬送設備:使用不可》
《登録済みの個人能力・許可済み魔法:使用可》
「荷物運びか」
昨日との落差がすごい。
今回の班は五人だった。俺とケイロ、それから魔法を扱える訓練生が一人と、少し変わった予知能力を持つ訓練生。もう一人は特別な能力はないらしい。俺と同じである。
「始める前に、使えそうなものだけ確認しとく?」
魔法を扱う訓練生が言った。
「俺、この訓練で使えそうなのは《滑走補助》《仮固定》《衝撃緩和》あたりかな」
「何する魔法?」
「《滑走補助》は物を滑らせやすくする。《仮固定》はその場に一時的に留める。《衝撃緩和》は名前の通り」
「便利そうだな」
「荷物運びならね」
今度は予知能力を持つ訓練生が口を開いた。
「俺のは説明しづらい」
「昨日の授業みたいな未来視?」
「一応、未来を見る能力ではある」
本人が端末を操作すると、能力の概要が表示された。
《分類:時間・認識複合系》
《登録名称:次回接触知覚》
《対象:視認中の物体》
《知覚内容:対象へ次に接触する物体または個体》
《有効予測時間:約三十秒》
《接触時刻・接触位置:知覚不能》
「……使いどころある?」
「あるときはある」
「ないときは?」
「何も分からないよりは面白い」
実用性より本人の感想が先に来た。
「ケイロは?」
「見れば分かるだろ」
四本の腕を軽く広げる。
「運ぶ」
「分かりやすい」
「ハジメは?」
「運ぶ」
「俺も」
もう一人の訓練生が言った。能力のない二人は同じ担当になった。
「じゃあ、大きいのはケイロ中心。必要なら魔法で補助。俺たちは残りを運ぶ。何か見えたら教えて」
「了解」
「それでいこう」
かなり大雑把ではあるが、何も相談していないわけではない。
「開始」
教官の合図で実習が始まった。
◇
課題そのものは、本当に荷物運びだった。保管区画から大小さまざまなケースを出し、指定された通路を通って第七実習区画まで運ぶ。
ケイロは四本の腕を使い、形の違うケースを器用に抱えていく。
「便利だな」
「四本あるからな」
「前にも聞いた気がする」
「何度聞いても四本だぞ」
それはそうだ。俺も運べそうなケースを一つ持つ。
少し先では、魔法担当とケイロが大型ケースの前で相談していた。
「これ滑らせる?」
「持ち上げるより楽そうだな」
「じゃあかける」
《滑走補助》
ケースと床の摩擦が弱まり、ケイロが軽く押すだけで動き始める。
「軽いな」
「曲がるところだけ気をつけて」
「了解」
そのまま二人で大型ケースを運んでいく。俺たちは後ろから残りを運んだ。
途中、細長い機材ケースを台車へ載せようとしたところで、例の予知能力者がケースを見た。
「それ、向き変えた方がいいかも」
「何か見えた?」
「次に触るのが壁」
俺たちはケースを見る。
「どこの壁?」
「そこまでは分からない」
「いつ?」
「それも分からない」
「相変わらず微妙に不親切な未来だな」
「俺に言うな」
ただ、わざわざ無視する理由もない。
「じゃあ横向きにするか」
「その方が通路も通しやすそうだな」
ケースを九十度回して積み直した。その後は何事もなく通路を抜けたので、本当に壁へ当たる未来だったのかは分からない。
本人にも分からないらしい。
別のケースでは、《仮固定》が使われた。
「上のやつ、ずれそう」
「固定できる?」
「できる。下のケースに留める」
「頼む」
《仮固定》
積み重ねたケースが動かなくなる。
「こういう魔法もあるんだな」
「むしろこういう細かいのの方がよく使うよ」
「火とか出さないの?」
「荷物運びで?」
「出さないな」
俺でも分かった。
少なくとも、班としての相談はできていた。誰が何をするかも大体決まっているし、魔法を使うときも一応声はかかっている。
作業はかなり順調だった。途中で持ち方を変えたり、担当を入れ替えたりはしたものの、大きく止まることはない。
最後のケースを所定位置へ置く。
《移送対象:全数確認》
《配置:正常》
《物品損傷:なし》
《制限時間:基準内》
《課題達成:合格》
「普通に終わったな」
能力同士がぶつかったり、誰かが大失敗したりするのかと思っていたが、そんなこともなかった。昨日の講義内容を試す実習だと思っていた俺が、考えすぎだったのかもしれない。
◇
「課題は合格だ」
教官もそう言った。
「移送時間、物品管理ともに基準内。手順上の重大な問題もない」
やっぱり普通にできていたらしい。
「ただし、共同作業の記録は確認しておけ」
正面へ実習ログが表示された。
最初に出てきたのは、大型ケースへ《滑走補助》を使った場面だった。魔法担当が術式を使い、ケイロが押し、ケースが曲がり角を抜ける。
さっき見たままの光景だ。
表示の端に、小さな記録が追加された。
《床面姿勢補正:作動》
《横方向移動量:自動補正》
「……何これ」
ケイロが首を傾げた。
「訓練区画の安全設備だ」
教官が答える。
「ケースの横方向速度が設定値を超えたため、床面側が補正している」
映像が低速再生される。曲がり角へ入る直前、ケイロはケースの速度を落としており、魔法担当も「曲がるよ」と声をかけていた。
それでも、普段より摩擦が小さい状態で大型ケースを動かす感覚までは、二人の間で完全には一致していなかったらしい。ケースがわずかに外側へ流れ、安全設備がそれを抑えている。
「言われたから減速したんだけどな」
ケイロが言った。
「俺も、そこまで滑るとは思ってなかった」
魔法担当も映像を見る。
「どちらも対応はしている」
教官は言った。
「だから事故にはなっていない。安全設備の補正も、本来そういうためのものだ」
そこで映像を止める。
「ただし、同じ床面補正が存在しない場所でも、同じ動かし方で問題ないとは限らん」
二人が頷いた。
明確な失敗ではない。ただ、上手くできていたと思っていた部分にも、機械に助けられていたところはあったらしい。
次の記録は、細長い機材ケースの向きを変えた場面だった。
「これは?」
予知能力者が聞く。
「判断に問題はない」
教官が答える。
「接触の可能性を予測し、事前に配置を変更している」
「じゃあ成功ですよね?」
「そうだ」
そこは普通に成功だった。
教官が映像を少し進める。ケースの向きを変えたあと、班の最後尾にいた訓練生が一度だけケースへ手を伸ばしかけ、すぐ引っ込めている。
「何してた?」
俺が聞いた。
「向き逆じゃないかと思って、戻そうとした」
「俺たちが変えたんだよ」
「それは途中で分かった」
予知能力者が首を傾げる。
「壁に当たるって言ったぞ」
「前にいた俺たちにはな」
ケイロが言った。
「ああ」
本人も気づいた。
相談はしていたし、判断も共有したつもりだった。ただ、その情報が班員全員まで届いたことを、誰も確認していなかった。
「今回は途中で気づいている。問題にはなっていない」
教官が言う。
「だが、共同作業では、自分が伝えたことと、必要な相手へ伝わったことは同じではない」
表示には、作業に必要な範囲だけ共有された各人の能力と術式が並んだ。知っていることと、共同作業で使えることは別だった。
「……だから先に、あの講義をやったのか」
思わず口に出た。
教官がこちらを見る。
「その時点では、まだ必要なかったからな」
「あ」
覚えていたらしい。
最終結果は変わらなかった。
《課題達成:合格》
失敗したわけではない。物を壊してもいないし、誰も怪我をしていない。相談だってしていた。
ただ、俺たちは思っていたほど、相手と同じものを見ながら動いていたわけではなかったらしい。
◇
数日後。
《仮設観測点設営実習》
「今度は設営か」
模擬地表区画へ、観測機器を展開する訓練だった。前回とは別の課題だが、班員の一部は同じだった。
設営するのは、観測基部、環境測定装置、通信中継器、それから複数の観測ノード。
作業開始前、魔法担当が自分から口を開いた。
「今回使えそうなのは、《滑走補助》《仮固定》《衝撃緩和》。あとは位置合わせ用に《微動補助》も使える」
「それ何?」
「重いものを数センチ単位でずらす術式」
「それ便利そう」
「大きく動かすのには向かないよ」
ケイロが配置図を見る。
「じゃあ大型基部は俺が運ぶ。最後の位置合わせだけ頼む」
「了解」
予知能力者も、自分の担当になった機材を確認している。
「何か変なの見えたら言う」
「今度は後ろまで聞こえるようにな」
「分かったよ」
少しだけ学習していた。
◇
基部を指定位置の近くまで運ぶ。
「ここから滑らせる?」
「頼む」
「最後は《微動補助》に切り替える」
「了解」
《滑走補助》
大きな基部がゆっくり進む。
「そろそろ解除する」
「分かった」
止まる。
「あと三十二センチ」
「じゃあ微動」
今度は数センチずつ位置が変わる。
「そこ」
「解除」
ケイロが固定位置を確認した。
「これならいける」
《仮固定》
前回より会話が少し細かくなった。といっても、何でも報告しているわけではない。
歩く、物を持つ、置く。そんな普通の動作まで、いちいち宣言する必要はない。
ただ、他の者が扱っているものの状態を変えるときは一言。自分だけが知っている理由で予定を変えるなら一言。それくらいだった。
俺は小型の観測ノードを持って、取り付け位置を確認する。基部の側面にある固定部へ差し込み、ロックすれば終わりらしい。
「これでいい?」
「向き合ってる」
ノードを近づけたところで、予知能力者がこちらを見た。
「待って」
「ん?」
「それ、次に触るの床」
俺の手が止まった。
「取り付け口じゃなくて?」
「床」
「それ、落ちるってこと?」
「たぶん」
嫌な予知だった。
ケイロも寄ってきて、取り付け部を覗き込む。
「固定爪が出てないぞ」
「本当だ」
見ると、ノードを保持するための爪が収納されたままだった。この状態でも差し込むこと自体はできるが、手を離せば固定されない。
「危な」
「《衝撃緩和》かける?」
魔法担当が聞いた。
「いや、落とさないようにしよう」
「それがいいな」
固定爪を展開し、もう一度位置を合わせる。
「今は?」
予知能力者がノードを見る。
少し待ってから頷いた。
「次は基部」
「よし」
差し込む。
今度は固定音がして、表示も正常に切り替わった。
《観測ノード固定:正常》
「こういうときは便利だな、その能力」
「あるときはあるって言っただろ」
「本当にあるんだな」
「お前が聞いたんだろ」
少し怒られた。
その後も作業は続いた。少し離れた場所では、魔法担当が精密機器を確認している。
「これは設置が終わるまで《衝撃緩和》かける」
「了解」
今回は近くにいる全員へ聞こえた。
◇
もちろん、急に完璧になったわけでもない。
「それ、まだ固定してない」
「あ、危な」
「こっち接続した?」
「今やる」
「そのケーブル俺の足元通ってる」
「ごめん」
普通に間違えて、普通に直す。俺も何度か指摘された。
それでも前回より、誰が何をしようとしているのかは分かりやすかった。
「ハジメ、そこ押さえて」
「はいよ」
俺は基部を押さえる。反対側では魔法が使われ、ケイロは四本の腕で複数の部品を固定している。
最後の観測ノードを接続すると、正面の表示が順番に切り替わった。
《観測系統:正常》
《通信系統:正常》
《環境測定系統:正常》
《仮設観測点:設営完了》
《課題達成:合格》
「よし」
前回も合格だった。今回も合格。
ただ、今回は自分たちで何をしていたのか、前より少し分かっていた気がする。
そして表示が切り替わった。
《続いて撤収手順を開始してください》
「…………」
完成したばかりの観測点を見る。ケイロも、魔法担当も同じものを見ている。
「今、完成したところなんだけど」
「仮設だからな」
ケイロが言った。
「分かってる」
《撤収後、使用機材を所定位置へ返却してください》
つまり、全部外して持って帰る。
少し沈黙。
「……先に分担決める?」
誰かが言った。
「そうしよう」
今度は、全員ほぼ同時に答えた。
【TIPS:仮設設備と自動化】
現代の銀河社会において、設備の建設や展開は高度に自動化されている。規格化された基地設備であれば、自律作業機、自己展開構造物、現地製造設備などを用いることで、人員が一つずつ部品を運んで組み立てる必要はほとんどない。
では、なぜ宇宙軍では設営訓練を行うのか。
自動化設備が使用できない場合があるからである。
通信が成立していない。地形情報が不足している。既存設備が損傷している。現地の規格と互換性がない。
自律機械へ干渉する未知の現象が存在する場合もあれば、魔法的、精神的、電磁的、情報的な影響により、自動制御をそのまま信用できない場合もある。あるいは単純に、必要な機材がまだ到着していないこともある。
銀河では、理由はいくらでも存在する。
また、自動化された機械が実際の作業を行う場合でも、「どこへ設置するか」「何を優先するか」「現地条件に合わせて標準手順をどこまで変更するか」といった判断まで、常に完全自動化されているとは限らない。
そのため宇宙軍では、自動設備を利用する訓練と、それらを制限した状態でも最低限の展開・確認・撤収ができる訓練の両方が行われる。
なお、実際の任務で問題なく自動化できる作業を、訓練で手作業をしたからという理由だけで人員にやらせることはない。
機械で済むなら、機械で済ませる。
お読みいただき、ありがとうございます!
感想や、この銀河に存在してほしい「変なもの」も募集中です。
種族、能力、魔法、超科学、怪異、都市伝説、謎の物体――なんでもどうぞ。
いただいたアイデアは、作品世界に合わせてアレンジして登場するかもしれません。
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それでは次回。
今日も銀河は平和です。
たぶん。




