第14話 超能力は魔法と同じくらいややこしい
今回のお題:便利そうだけど、使い方を考えると意外と面倒そうな超能力
未来予知、瞬間移動、テレパシー、念動力など。
実際に使えるとしたら、どんな決まりが必要になりそうでしょうか。
《特殊個体能力運用基礎》
講義名を見て、俺は以前受けた魔法の授業を思い出した。
俺は魔法を使えない。それでも、事故が起きたときの対処や、知らない術式へ不用意に近づかないことなど、使えない側にも必要な知識は結構あった。
なら、超能力も似たようなものだろう。
念動力で物が飛んできたときの対処とか、精神感応を受けたときの注意とか。
そんな内容を想像していた。
「最初に、この講義の目的を説明する」
教壇に立った教官が資料を表示した。
《特殊個体能力の分類、登録、安全管理および共同運用》
「今日扱うのは、超能力への対処法だけではない。この中には、自分の超能力をすでに登録している者がいるだろう。そういう者は、自身の能力について、使用可能な範囲や禁止事項の説明を受けているはずだ」
教室の何人かが頷いた。
「魔法を扱う者も同じだ。自分が使う術式や《生得魔法能力》《魔法性生理機能》について、必要な規則は知っているだろう」
今度は別の場所で何人かが反応する。
「だが、自分が使わない能力体系まで詳しいとは限らない。超能力者が魔法側の運用規則をすべて知っている必要はないし、魔法を扱う者が超能力者の登録制度に詳しいとも限らん」
教官が教室を見回した。
「軍では、その両者が同じ艦で生活し、同じ部隊で行動することがある。だから今日は、自分が使わない側も含めて知っておくべき共通部分を扱う」
なるほど。
そういう授業か。
「それ、前の魔法講義のときに一緒に教えてくれてもよかったんじゃないですか?」
「その時点では、まだ必要なかったからだ」
「……なるほど」
反論できなかった。
必要になったから、今日やるらしい。
どちらも使えない俺には、初めて聞く話が多そうだった。
◇
「では、分類から始める」
教官の背後に資料が表示された。
「超能力という言葉は非常に広い。地域や研究機関によって細かな定義も異なる。銀河統合宇宙軍では、既知の装備や通常の魔法体系によらず、個体固有の機能として発現する特殊能力を、便宜上まとめて超能力と呼んでいる」
《念動系》
《精神感応系》
《認識系》
《空間系》
《時間系》
《物質・エネルギー干渉系》
《自己作用系》
《その他》
「ここで二つ注意しておく。一つ目は、ヒトから見て珍しい能力だから超能力、というわけではないこと。二つ目は、生まれつき持っているから超能力、というわけでもないことだ」
表示が切り替わる。
《精神感応による通常会話》
「ある種族にとって精神感応が通常の意思疎通手段なら、それはその種族の通常機能だ。一方、その種族の一般的な機能を超えて、一部の個体だけが他者の記憶まで読み取れるなら、その部分は個体固有能力として超能力に分類される可能性がある」
「生まれつき魔法を使える場合もありますよね?」
前の方から質問が出た。
「もちろんある。生得的かどうかと、魔法か超能力かは別の話だ」
新しい資料。
「魔力、術式、契約、触媒その他、既知の魔法体系として分類される作用によって現象を起こしているなら、生まれつき使えるものでも魔法だ。逆に、後から発現したものでも、魔法体系を介さず個体固有の機能として発現しているなら、超能力に分類されることがある」
画面に一つの現象と、複数の発生経路が並んだ。
《対象物を発火させる》
《術式魔法》
《生得魔法能力》
《魔法性生理機能》
《発火系超能力》
《科学技術》
「最終的に起こる現象は同じでも、原因が違えば止め方も事故調査も再発防止策も違う。術式を停止させるのか、魔力供給を遮断するのか、能力者本人への対処が必要なのか、装置の電源を落とせば済むのか。だから発生経路を区別する」
燃えている側からすれば大差なさそうだが、消す側にはかなり重要だった。
教官は、《生得魔法能力》と《魔法性生理機能》も区別した。意思で発動する能力と、体温維持や常時浮遊のように生命活動として働く機能では、管理の仕方が違う。
「呼吸するたびに申請書を書かせるような制度は成立しないからな」
ただし、生理機能なら何をしても自由という意味ではない。翼があっても飛行禁止区画へ入る権利はなく、精神感応が通常機能でも、他者の記憶を勝手に読む権利はない。
「腕を動かすのは自由だが、それで他人を殴れば問題になる。それと同じだ」
一個体が魔法性生理機能、術式魔法、個体固有能力を併せ持つ場合も、それぞれ別に管理される。
「まとめて事故原因が分からなくなる方が困る」
◇
今度は、魔法を扱うらしい訓練生が手を挙げた。
「超能力の方は、術式みたいに使用区分ごとの許可を取るんですか?」
「基本的な管理方法が違う。魔法では主に、何の術式を、どの程度の出力で、どこで、何の目的で使うかを見る。一方、超能力ではまず、その能力者が何を、どこまでできるのかを登録する」
人体図の横に項目が並ぶ。
《現象分類》
《有効距離》
《作用範囲》
《最大出力》
《発動条件》
《制御精度》
《無意識発動可能性》
《他者への影響》
《停止条件》
《既知の副作用》
「超能力には、本人から切り離せない機能として働くものが多い。常時周囲の感情を感知する者に、感情を感じ取るたび申請させることはできない。危険を察知すると反射的に発動する能力へ、毎回事前許可を求めることもできない」
超能力を登録済みらしい訓練生たちは普通に聞いている。
反対に、魔法を扱う側の何人かが表示を見ながら頷いていた。
「そのため、能力特性を先に検査して登録する。登録された通常範囲内の低危険度使用については、原則として都度申請を求めない。ただし、登録されていれば何に使ってもよいという意味ではない」
念動力で自分の筆記具を取るのと、他人の身体や権限のない設備を動かすのは、同じ能力でも別の行為だ。精神感応や透視も同じである。
「見えることと、見ていいことは別だ」
「能力登録の内容は、同じ部隊なら全部見られるんですか?」
別の訓練生が聞いた。
「いや。能力情報も個人情報だ。詳細な検査結果や医療上の情報まで、関係のない隊員へ公開することはない」
表示が切り替わる。
「共同作業に必要なら、任務上必要な範囲だけ共有する。例えば最大作用力、有効距離、使用不能になる環境条件などだ。仲間の能力を知っておく必要はあるが、好奇心で登録情報を全部見ていいわけではない」
その辺も普通だった。
◇
「未来情報については、少しややこしいのでまとめて説明する」
《未来情報の取得と利用》
「未来を知る方法は一つではない。未来視系の超能力もあれば、未来観測術式もある。魔法性生理機能として本人の意思とは関係なく近未来情報を受け取る種族も存在するし、高度な予測機器によって将来状態を推定することもできる」
《未来視系超能力》
《未来観測術式》
《魔法性未来知覚》
《未来予測機器》
「ここで特に区別する必要があるのが、本人の意思と無関係に未来情報が入る受動知覚と、自分から情報を取りにいく能動観測だ」
《受動知覚》
「危険が迫る直前に数秒先の情景が感覚へ混ざる種族もいる。本人の意思に関係なく知覚するなら、『見るな』では解決しない」
気になって手を挙げた。
「試験中にそういう情報が入ってきたら、どうするんですか?」
「まず、通常の試験なら不必要な情報が入らないよう、試験を実施する側が対策する」
「試験側で?」
「試験側は、問題を直前まで確定しない、未来観測を遮蔽するなど、受験者の能力に応じて環境を調整する。制御できない知覚を本人の努力だけで止める前提にはしない」
「それでも見えたら?」
「受動的に入ってきた情報だけを理由に、直ちに不正扱いはしない。監督者へ申告し、必要なら問題や試験条件を変更する。ただし、偶然知覚した情報を意図的に利用し続ければ、そこから先は別の判断になる」
見えてしまったこと。
見えた情報を利用すること。
そこも分けるらしい。
「一方、自分から情報を取りにいけば話は変わる」
《能動観測》
「未来視能力を意図的に使って試験問題を確認する。未来観測術式を起動して答えを見る。予測装置を持ち込んで解答を先読みする。発生経路は違うが、自分から試験情報へアクセスしている点は同じだ」
「未来観測の魔法なら?」
「駄目だ」
「超能力なら?」
「駄目だ」
「予測装置なら?」
「駄目だ」
全部駄目だった。
教官は当たり前のことを確認するように言った。
「未来を見る手段がなんであれ、カンニングは駄目だ」
分かりやすい。
「分類は現象を安全に管理するためにある。試験でその情報を使ってよいかは、起こした行為として判断する。手段が違えば安全管理は変わるが、やっていいことまで変わるわけではない」
「さらに、未来視そのものにも種類がある。確率的に発生しやすい未来を見るもの、現在の行動を続けた場合の未来を見るもの、観測したことで結果が変化するものなど、性質は大きく異なる」
時間分岐の図がいくつも表示された。
「軍務上は『未来が見えた』という報告だけでは不十分だ。何秒先なのか。確度はどの程度なのか。観測したことで結果が変わるのか。第三者へ情報を伝えた場合にも同じ未来になるのか。能力や術式の性質を把握して初めて、情報として評価できる」
未来が見える。
その一言だけでも、ずいぶん面倒だった。
◇
休憩時間になると、さっき話に出ていた未来視能力を持つ訓練生の周囲へ何人か集まった。
本人は能力登録を済ませているので、自分の未来視についてはほとんど知っていたらしい。今回初めて知ったのは、むしろ未来観測魔法や試験側の対策の方だという。
「普段も未来を見るの?」
「使うよ。俺の場合、安定して見えるのは二十秒くらい先までだけど」
「何に?」
「食堂」
「食堂?」
「列を選ぶとき」
二つの列で迷ったとき、二十秒ほど先を見て、どちらが少し早く進みそうか確認するらしい。
「当たる?」
「条件が単純なら結構。ただ、俺が列を変えたことで人の動きが変わったり、前の奴が急に注文を変えたりすると外れる」
「未来見たのに?」
「見たから変わることもある」
「面倒だな」
「予知ってそういうもんだよ」
それでも、混んだ食堂で少し早い列を選べるなら十分便利だと思う。
俺でも使う。
◇
後半は空間系能力だった。
魔法でも超能力でも、転移そのものの管理方法は異なる。だが、権限のない機関部や他者の私室へ勝手に入ってよいことにはならない。
「鍵の代わりに魔法を使っても、立入禁止は消えない。超能力で壁を越えても同じだ」
食堂にも指定転移地点はあるが、席へ直接出るのは禁止だった。
「保安上ですか?」
「それもあるが、食事中の者の横へ突然出現するな。邪魔だ」
そっちだった。
広範囲精神干渉や大規模空間操作などの高危険度能力には、事前承認や指定区域といった別の条件が付く。
危険になれば、ちゃんと規則が増える。
「最後に、能力評価について触れておく」
表示が切り替わる。
「本日の実演協力者から、登録情報の一部を教材として使用する許可を得ている。今見せるのは能力全体の記録ではなく、今回の講義に必要な項目だけだ」
前方に座っていた訓練生が軽く手を上げた。
その横へ能力情報が表示される。
《分類:念動系》
《最大持続作用力:四・八ニュートン》
《有効距離:二・四メートル》
《精密操作適性:高》
《危険度:低》
《特別使用制限:なし》
「特殊能力を評価するとき、派手さだけを見るな。最大出力が大きくても制御できなければ、実際に使える場面は限られる。逆に出力が小さくても、精度と再現性が高ければ非常に有用な場合がある」
教官は《有効距離》と《精密操作適性》を強調した。
「本人が自分の能力を理解するのは当然だが、一緒に行動する者も、任務に必要な範囲で特性を把握しておけ。何ができるのかだけではなく、どこからできなくなるのかまで分かっていれば、最初から無理な役割を任せずに済む」
そこで講義は終了した。
◇
教室を出たあと。
さっき登録情報を見せていた念動能力者が、飲み終えた容器を持ったまま立ち止まった。
少し先に回収口がある。
本人が容器へ意識を向ける。
手を離れた容器が浮かび上がった。
空中を滑る。
回収口まで、
あと少し。
止まった。
「届かない」
俺はさっきの表示を思い出した。
「二・四メートル?」
「二・四メートル」
本人が二歩だけ前へ出る。
容器も再び動き、そのまま回収口へ落ちた。
「結局、歩くんだな」
「二歩だけな」
便利ではあるらしい。
【TIPS:再現性】
同じ条件で、同じ結果を繰り返せる性質を再現性と呼ぶ。
特殊能力の評価でも重要な指標の一つであり、一度だけ大きな出力を発揮できることと、必要なときに同じ能力を安定して使用できることは別に評価される。
非常に大きな力を発揮できても成功率が低い能力と、出力は小さい代わりに毎回ほぼ同じ精度で使用できる能力では、適した用途が異なる。
特に軍務では、
「できたことがある」
より、
「必要なときにできる」
ことが重視される。
なお、
「今日は調子がいい」
は正式な性能保証として認められない。
お読みいただき、ありがとうございます!
感想や、この銀河に存在してほしい「変なもの」も募集中です。
種族、能力、魔法、超科学、怪異、都市伝説、謎の物体――なんでもどうぞ。
いただいたアイデアは、作品世界に合わせてアレンジして登場するかもしれません。
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それでは次回。
今日も銀河は平和です。
たぶん。




