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今日も銀河は平和である。たぶん。~宇宙軍訓練生の俺は、今日もよく分からないものを習っている~  作者: 優耀


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12/24

第12話 知らなくても困らないことは知らされない

今回のお題:自分には関係ないけど、なぜか気になってしまうお知らせ


校内放送、館内放送、町内放送、掲示板のお知らせなど。

別に自分が対象ではないのに、妙に内容を覚えているものがあれば教えてください。

朝食を食べていると、食堂内に放送が流れた。


《連絡します。本日、第六食堂第二配膳口の点検を行います。点検中は第一、第三配膳口をご利用ください》


 パンをちぎりながら聞き流す。


 昼には終わるらしい。


 たぶん俺には関係ない。


 周囲を見ても、反応した訓練生はほとんどいなかった。何人かが配膳口を見た程度で、食堂はそのまま朝食を続けている。


 その直後。


 向かいに座っていたケイロの端末へ通知が届いた。


「今日、第四運動区画が使えないらしいな」


「そうなのか?」


「点検だと。午後に使おうと思ってたんだが」


「そんな通知、俺には来てないぞ」


「今来た」


 俺の端末には何もない。


 隣を見ると、ミナも別の通知を確認していた。


「こっちは恒星光利用区画の一部制限。設備調整みたい」


「俺だけ何も来ないんだけど」


「使わないからじゃない?」


 確認する。


 第四運動区画には予約を入れていない。


 恒星光利用区画も普段は使わないし、今日の予定上、近くを通る必要もない。


 つまり、


「知らせる必要がないのか」


「そういうことじゃない?」


 考えてみれば当たり前だった。


 《ながと》には大勢の人員が乗っている。


 生活環境も違う。


 使う設備も違う。


 訓練内容も違う。


 艦内で起きることを全部、全員へ通知していたら、一日中端末が鳴り続けることになる。


 俺たちがまとめて「艦内放送」と呼んでいるものも、実際には対象ごとに分かれている。


 全員に必要なら全艦へ。


 特定の区画や設備を利用する者だけに必要なら、その対象者へ。


 それ以外の情報も公開範囲に応じて記録されており、必要なら自分で確認できる。


 仕組み自体は知っていた。


 ただ、


「どれくらいあるんだろ」


「何が?」


「俺に来てない通知」


 ミナが少し考えた。


「たくさんあるんじゃない?」


 その答えは正しかった。


     ◇


 朝食を終えてから、端末で艦内情報を開いてみた。


 自分宛てではない。


 公開されている通知全体だ。


《居住区環境調整》


《格納庫機材搬入》


《訓練区画予約変更》


《設備点検》


《通路一時閉鎖》


《食事提供場所変更》


「多いな」


 想像していたよりずっと多い。


 そして、そのほとんどは俺に関係がない。


 第八環境区画では、現地時間十四時から降雨が予定されていた。


 船内で雨を降らせるのかと思ったが、湿潤環境を必要とする種族向けの区画らしい。


 大型個体用通路では搬入作業。


《一時的な利用可能高:十二メートル》


「十二メートルで制限される側か」


 銀河は広い。


 世の中には、知らなくてもいいことがある。


 さらに眺めていると、少し前の日付に見覚えのある時刻を見つけた。


《外部大型生物接近に伴う航路微調整》


「……これか」


 ラジオ体操をしていた日だ。


 あのとき、足元の感覚が一瞬だけずれた。


 師匠は訓練ではないと言っていたが、それ以上は気にしていなかった。


 詳細を開く。


《大型宇宙生物が本艦周辺で一時的に活動を休止》


《敵対行動:なし》


《船体損傷:なし》


《航行への影響:軽微》


《対象:自然離脱》


 そこまではいい。


《確認個体数:四》


「四匹いたの?」


 知らなかった。


 一個体でも推定全長は三千キロメートルを超えている。


 そんなものが四匹も《ながと》の周囲で休んでいたらしい。


 その間、


 俺はラジオ体操をしていた。


 通知対象を確認する。


《対象:航法、機関、外部作業担当ほか》


《一般乗員の行動変更:不要》


 俺は入っていない。


 危険なし。


 行動変更の必要なし。


 俺が知ったところで、何かできるわけでもない。


「それでいいのか」


 少し考える。


「……いいのか」


 少なくとも船は無事だった。


     ◇


 そこから先は完全に興味だった。


 自分には届かなかった通知を眺めていると、同じ船の中とは思えない情報が次々に出てくる。


 ある区画では気圧が変わり、別の区画では照明波長や重力方向が変わる。用途すら分からない設備の点検もある。


 《ながと》は一隻の船だ。


 でも、中にいる全員が同じ環境で暮らしているわけではない。


 俺が毎日使っている食堂や訓練区画なんて、この船全体からすればほんの一部なのだろう。


 そんなことを考えながら流していると、見覚えのある単語が目に入った。


《地球系統文化圏》


 通知元は、艦内の食事提供を管理する部署だった。


《本日予定していた地球系統文化圏由来の発酵食品特集は、搬入および保存環境の都合により、第八環境区画内の提供設備へ変更します》


「へえ」


 少し興味がある。


 給料をもらってから、標準提供以外の食事にも少し手を出すようになった。


 地球系統文化圏由来なら、ネットで見た古い地球料理に近いものもあるかもしれない。


 発酵食品。


 豆。


 乳製品。


 その辺りなら、そこまで変なものではないだろう。


 詳細を開く。


《発酵鉱物》


「そっち?」


 もう一度見る。


《発酵鉱物》


 読み間違いではない。


「鉱物って発酵するのか?」


『種類による』


 横から声がした。


 いつの間にか食事を終えたポルカが、俺の端末を覗き込んでいる。


「食べたことある?」


『ある。美味しいものもある』


「美味しくないのもあるんだ」


『食べ物だからな』


「それはそうだ」


『行く?』


 提供場所を確認する。


《第八環境区画》


 さっき、雨を降らせると書いてあった場所だ。


「なんでそこで出すんだ?」


 詳細によると、食品の保存環境だけではなく、今回の特集を主に利用する種族の生活環境も考慮した結果らしい。


 さらに注意書き。


《当該区画への入場には、環境条件に適合しない種族の場合、適切な環境適応装備が必要です》


「飯を食いに行くだけなんだけど」


 そこまでして食べたいかと言われると迷う。


 料理の画像を見る。


 発酵鉱物。


 どう見ても鉱物だった。


「いや。今回はやめとく」


『そうか』


 ポルカは普通に行くらしい。


 地球系統文化圏は広い。


 たぶん、俺が思っているよりずっと広い。


     ◇


 夕方。


 今度は俺の端末へ通知が届いた。


《第六食堂利用予定者へ》


《夕食時間帯の混雑が予想されています》


「俺宛てだ」


 今日は第六食堂で夕食を取る予定にしている。


 だから届いたのだろう。


 少しして更新。


《混雑予測を上方修正しました》


《時間をずらすか、代替食堂の利用を推奨します》


「何があるんだ?」


 朝から区画閉鎖だの巨大宇宙生物だのを見ていたせいで、少し身構える。


 詳細を開いた。


《本日の限定デザート》


 予定数に限りがあるため、利用者が集中すると予測されているらしい。


「それは混むな」


 納得した。


 三千キロメートルを超える宇宙生物が四匹、《ながと》の周囲に集まった。


 俺には通知が来なかった。


 限定デザートで食堂が混む。


 俺には通知が来た。


 どちらもシステムとしては正しい。


 俺に関係があるのは、後者だった。


 とりあえず。


 今日は少し早めに夕食へ行こうと思う。


【TIPS:艦内情報伝達】


 多数の種族が利用する艦船では、情報を伝える方法も一つではない。


 音声。


 文字。


 光。


 色彩変化。


 振動。


 匂い。


 温度変化。


 電磁信号。


 精神波。


 受信する種族に適した方法が使用される。


 軍用自動翻訳システムの非言語情報処理とも連携しているため、同じ「放送」であっても、全員が同じものを見たり聞いたりしているとは限らない。


 特に全艦一斉放送や緊急放送では、対象者が確実に認識できる形式へ変換されたうえで伝達される。


 なお、伝達手段が音声でなくても、艦内ではまとめて「放送」と呼ばれることが多い。


 匂いで届いても、放送である。


お読みいただき、ありがとうございます!


感想や、この銀河に存在してほしい「変なもの」も募集中です。

種族、能力、魔法、超科学、怪異、都市伝説、謎の物体――なんでもどうぞ。

いただいたアイデアは、作品世界に合わせてアレンジして登場するかもしれません。

面白かったら評価・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは次回。


今日も銀河は平和です。

たぶん。

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