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第五話 拝見、あなたの本棚 後

 ぼそっと呟かれたので、「え?」と聞き返す。

 おこがましい? さすがに調子に乗りすぎた?

 俺がショックを受けて固まったら、先輩は急に表情を和らげてじっと見つめてきた。


「みずきが弟だったら、俺溺愛しちゃう自信あるから困る」

「は、はい?」

「同じ家の中にいたらヤバいでしょ。みずきのことずっと抱えて歩くよ、俺」

「せ、先輩……?」

「あ、ごめん、浮かれた妄想が。忘れて。本棚共有できて、それはそれで楽しいかもね」


 先輩が咳払いしてから気を取り直したように笑った。


「そ、そうですね」

「うん。お菓子食べる? 喉渇いたでしょ」


 先輩が立ち上がって、机に置いたままだったお茶とお菓子を取ってきてくれる。

 先輩は妹がいるらしいけど、弟もほしかったんだろうか。

 俺も一瞬、先輩が俺のお兄さんだったらっていう想像をしてしまって、うわ、と赤面しそうになった。

 

 それはちょっと、困るかもしれない。先輩が家にいてリビングでテレビとか見てるの? 

 どうしよう、テレビじゃなくて先輩見ちゃう自信がある。

 でも、お互いが好きな本を一緒の本棚に埋めてくって考えたら、絶対楽しいな。


 俺が脳内で妄想を繰り広げていると、先輩はすっかりいつもの顔に戻ってお茶を飲んでいる。

 コップを勧めてくれたので、お礼を言って受け取った。顔が熱かったから、冷めたお茶がちょうどいい。


「脱線したけど、何かあったら話してほしいっていうのはほんとだから。俺じゃなくても、誰かに話すと楽になることあるし、一人で悩まない方がいいよ」

「はい。ありがとうございます」


 話していたら、もうすっかり気分が晴れていた。

 先輩が俺よりも年上だってことを実感する。

 話してみてよかった。頼りになるっていうか、年上の包容力を感じて安心する。


 けど、同時にそう感じるのは先輩だからなのか、同じことを誰かに言われても同じように感じるのか、どっちなんだろう。なんて思った。

 そんでそう思う俺は、どっちだったらいいと思ってるんだろう。


 考える俺の横で、先輩がスマホの通知を見て口を開いた。


「さっきの子が、ドバイチョコ見せてくれるって。明日もしもらったらみずきの分もとっとくね」

「……なんでしたっけ、カダ?」

「カダイフ」


 先輩はしっかり覚えたらしい謎の呪文を口に出す。


「もらえなかったら、俺がバレンタインに用意するよ」

「手に入りますか?」

「わからん。全てが謎に包まれてる」

「気になるんで、俺も探してみます」

「うん、持ち寄ったお互いのカダイフを戦わせよう」

「チョコの話ですよね……?」


 カブトムシみたいなこと言ってません? と堪えきれなくなって俺が笑う。

 先輩も画面を見ながら笑っていた。

 さっきの答えはまだわからないけど、一つだけはっきりしていることがある。


 自分一人でじゃ、こんなに早く笑えなかったなって。


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