8話 『導き』
「ん……あーつねむらあ」
「起きたかい」
センパイがここに運んでくれたのだろうか。あのバカみたいに知り合いにはやさしい先輩のことだ、傷を気にして、抱えるときに触れてしまうようなところだけ、しっかり上着やらタオルやら巻いてあった。しかも軽ーく。
「――細かいこと気にしますねー……」
昔から変わらないなと思う。まあセンパイは覚えてないみたいだ。折角一度「これで会ったのは二度目とか思ってますか?」……ってこないだ聞いたのに警報が鳴ったから分からなかったし。まあその後はぐれちゃったのは災難だったけど、探してくれたみたいだし? 多分覚えてないってことはまだ会って二度目の女の子を? 正直結構うれしかった。それでシェルターで会った時も無意識だったみたいだけど思わせぶりなこと言ってくるし。もうどっちでもいいやと思って最近はぐいぐい絡んでいたのだけど。
「痛いなあ……」
どうしてこんな目に。ただ、もっといっぱい傷があったような気もしなくもない。うろ覚えだけど、元々購買で倒れてなんかいなくて、誰かに運んでもらった気がする。センパイが来る前に。
「血、ほとんど致死量抜けてたんだから。しばらくは入院確定ね」
「えー」
センパイと会えないのかー。っていうか地頭で生きてきたし、授業出れないとそこの範囲教科書読んでもあんまり分かんないんだけどなー。テストやば。
「当たり前でしょ。そもそも何なのこの切り傷」
「不可視ざる力に刻まれし我が身の咎?」
「適当なこと言わない」
まあ、見えない何かに切り刻まれたことはぼんやりと。いやー、なんでトラウマになってないどころか思い出しても無心なんだろう。都合のいい頭だ。相変わらず。
「搬送です」
「えー」
人とロボットがぞろぞろ現れ、器用に運び出されていった。
◆┃◆┃◆┃◆
「いつまで寝てんだよばかやろーっ!」
「っ!?」
耳が痛い。急に起こされて脳がまともに動作しない。ちびっこ?
「今失礼なこと考えやがったな」
「真っ赤な。っていうかクリスマスかお前」
赤い瞳、赤くて短い髪、緑のローブ、低い背丈、ひんny……
「……おい待て立て続けに失礼なこと考えただろ」
「いや、ローブのエンブレムみたいなののデザインが車輪」
時計回りに、上から『T,י,A,ה,R,ו,O,ה』と八文字並べられている車輪。『י,ה,ו,ה』って何、何語?
「あのなあ、あたしだって暇じゃないんだぞ。もう日付変わるからいい加減連れて来いって言われてな」
「日付変わるタイミングにたたき起こすのって……」
「それはあたしもそう思う。けどなー、うちのボス馬鹿だからさ。ちょこっと」
ちょこっとなのか??
「あーそうだ。ルマって今いるの?」
「……」
「?」
もしやまずいこと言ったか? あいつあんなだしあぶれてんのかな。仲間の意見に押し負けたとか言ってたし。そんなに強い立場にいないのか?
「急にため口にすんな。適応力馬鹿め」
「そっちかよ。いいだろもう」
「よくはない」
細かい。普通に。いいじゃんそのくらい。
「……が、まあそれは一応うちのルールだしな。可能な限りタメっていう」
じゃあいいじゃん。なんでダメ出しされたわけ。そしてその後酷いこと言われた。
「たーだぁ。お前はやっぱり色々おかしいよ。自分じゃ分かってないみたいだけどさ」
ひどい。最近変な奴によく変って言われるんだよな。何が?
「ま、仲よくやろね。先戻ってるけど早く来いよー。一応もっかい言うと、出て右手にまっすぐの大きな扉、食堂ね。んじゃー」
変な奴だった。
「まあそろそろ向かうかな」
気分も少し落ち着いてきたし、何となく、まあ敵ではなさそうな気がする。
ベッドから降りて、よっと起き上がると、別段体に異状は感じられなかった。あれ? 異常だっけ。ただ、あれだけの、いやあの人たちにはちっぽけかもしれないがあれだけの戦闘をしておいて異状がないのも異常な気はするが、たぶん変だというのはそこじゃない気がする。きっと多少治療? そんな大それた怪我でもなさそうだったが手当くらいはしてくれたのだろう。
特に持ち物も心残りもなかったので部屋を出た。
「うっわ」
天井が高い。そしてなんか日本らしくない。白を基調にした壁に、赤と金の布で何やら装飾してあるし、床も赤い絨毯? カーペット? が広がっている。花瓶もいくつか見当たるし、ランプもあるし、天井には所々シャンデリア。洋館や宮殿という感じだ。それと、二階なのか片方側の壁にはこちら側に突き出すように足場と手すりがくっついている。
「何ここ。いつの時代だよ……」
なんだか、右の突き当りと言われたが。ふと右を見やる。
「遠い」
何この距離。あと食堂って端に設置するもんなのか?
とりあえずひたすら歩いた。広い。さっきまでいた部屋は左端寄りに位置していたらしい。歩いていくと、螺旋状の階段が右手に、左手に玄関? いやこれ玄関って言っていいのかなって感じの広々した玄関がある所でふと歩みを止める。
(外? そういやここの立地ってどうなってんだ?)
ガラスの扉が四つ並んでいた。そちらへ少し近寄って外を眺めてみる。
「うわっ。何ここー……」
辺り一面霧の海。なんなの? 足元は土って感じだったし木もぼんやり見えたんだが。えー。不気味ー。
「まあ食堂に向かうしかないのかな」
螺旋階段は上りのみだった。下へは行かない。何もなさそうだし一旦向かうしかないようだ。その後は特に目立つものもなく、ただ歩くだけだった。
◆┃◆┃◆┃◆
はーい着いたんだけどドアが大きすぎて今若干怖気づいております。ノックって何回? ここが日本かどうかで変わる気がする。えーどうしよう。
すると、なんか中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。こっちに向かう足音と共に。
「おっそいなー何してんのホントにさあ」
「いってらー」
あれこれもしかしてドア外開き? このサイズで?
「うっさーい」
考えてる間にドアがバンと開いた。避けられるはずもなく。
「でッ!」
「あれ? あーもう居たの。おいでおいでー」
何その軽いノリ。結構な高火力ですけど。痛かったんですけど。
痛む鼻のあたりを押さえながら顔をあげると人がいた。ただ食堂がだだっ広くて、少なくは見えるのだが、ルマを含め5人?
「急遽っていうかまあね。全然揃わなかったんだけど、っていうか君遅いし帰っちゃった人もいるんだけど、まあとりあえず、これが『マヒルレンゴウ』だ。どうかな?」
いやどうかなと言われても。ああ、来てしまったって感じです。




