17話 『為す術なく』
頭痛が治るまで多少の時間を労したが、ルマを探しに行ってみよう。教えてくれるかはともかく、色々知っているのは確かだ。何か分かるかもしれない。根拠はない。だが確信はあった。突然また痛み出す頭を片手で押さえつつ、屋内に戻る。
結局のところ、先に水を飲もうと食堂に向かうと例の如くルマはそこにいた。何か握っている。
(これは……インカム?)
見覚えはなくはない。パープに似ているのだ。白ベースのカラーリングといい、クリアブルーのラインといい。似たような製品といわれれば……分からなくはないのだが。どうしてか、パープは回収されたし。足がつく可能性は否めないが、道行く人に疑われはしないのだろうか。
いやそうか、二ホンなんてもう人口は減少傾向だしな、大して昼間は人がいない。夜中にももちろん大して外出する人もおらず、朝夕さえ気をつけていれば大丈夫ではある。でもそれはアイツらにとってであって学生の身としては誤魔化すのに苦労しているんだが。
「ん? 何か用?」
「寝てるかと思った」
「起きてるんだけどな」
机に伏して伸びたまま、ルマはさも興味ありげに話しかけてくる。暇人め、妙に頭が回るのか何か聞くべきことがあってここに来たのは分かっているらしい。
「『世界』って何が得意?」
「端的だけどそれパワーワードだなあ。ま、君次第だよ。大体知ってるでしょ? 世界に関して前例はあてにならないの。生憎、ざっくりとやれることが分かる人は今外してるし」
そういう鑑定みたいなことができる人もいるのか。座によって扉も変わるならそういう座があるということで、つまりはそういうことができる人は当然少ないわけで、重宝されているのかもしれない。
しかし、今いないと。そうなってくると今何すればいいのかよくわからなくなってくる。
どういう仕組みか溜め息までパネルに描画して、ルマは呆れるように言う。
「とでも言いたそうな雰囲気だけどさ。仕事進んでやりたいわけじゃないんだし良くない? 世界は尖ったのしか出ないから分かっても変わんないよ。もーDEMとかああいうの参っちゃうししさ」
DEMってなんのことか説明してくれてもいいじゃない。だがまあ、説明する気は……なさそうだ。どんどん巻き込むのが嫌いというわけでもなさそうで、よく分からない。何がしたいんだか。
「何がしたいんだか」
「口に出すな」
怒ってるのか疲れているのか顔が見えないせいで相変わらず分からない。本当に。
「なんなんだか」
「くちに。だすな」
「あ、今のは分かった怒ってるだろ」
「……」
何その沈黙。ルマが黙ってふらっと立ち上がって、そのすぐ後のとっと床を蹴った音までは覚えていた。
◆┃◆┃◆┃◆
知らない天井だ。目を覚ましたら知らない天井。……目を覚ます?
「あ、起きた」
「あ、シュテルン」
風呂上がりなのか知らないが、頭にタオルを巻いて髪をまとめパジャマを着ていた。あとのぼせたのか頬が赤い。ベッドに座ってこっちをしばらく見つめてきた。
あれ、ここ床か。どうりで背中がひんやりするなと。
「……何?」
「今何時だと思う?」
そういえば確かに。今の状況は一体どういうことなのかも碌に把握してはいないが、大体の予想はつく。理解はしがたいが、どういうわけか部屋に放り込まれたのだろう。俺の部屋にベースはない。装飾もこんな感じではない。
「7時くらい?」
窓から見える外は暗いが、夏場なのだから6時はないだろうなと予想を立ててみる。妥当ではないだろうか。ルマに会いに行ったのだって五時少し前……。
「11時」
「……」
「11時」
「……」
「じゅ、う、い、ち、じ」
「そこじゃないわ!」
聞き取れなかったわけではないのだが、そんなに遅くまで寝て? 気絶? してたのか。とりあえず状況確認、ルマに会って、怒らせて、一撃でやられて、その後しばらくしてシュテルンの部屋で目が覚めたと。しばらく何があったんだ。
「ルマがいきなり無言で部屋にアルキを投げ込んできた時は驚いた。何の説明もなしでバンってドア閉めてったし」
「ちなみにそれは……」
「7時前」
二時間も何があったんだ。
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「一応聞くとシュテルンは四時間も何を?」
「何をって……自分の体に聞きな?」
別に何もしていない。いや起こそうとはしたが、特にそれ以外は何も。放置。
アルキは自分の体に聞けというのがいまいち理解できないらしく、変な結論にたどり着いていた。
「……根性焼きでもしたのか?」
んなわけないだろ。何? タバコ吸ってるように見えるのか? 失礼な発言をしておいて当の本人は本気でその線あるかのような顔をしている。悪意がなきゃいいわけじゃないんだよアンポンタンめ。
「なんとなく。ルマが殴った理由が分かった」
「やっぱあれ殴られてたんだ」
「顎を蹴り上げるのムズくない? ってか見てないことある?」
見えない速度で殴るのは見たことないんだがどういうことか。『塔』と稽古してた時もギリギリ見える速度でやってたはずだし、見えないってことはないと思うけど。ルマがちょっと怒らせたぐらいで稽古でも見せないような攻撃するとは思えない。死に戻りでも偶に消えるとは言っていたけど、一体全体どこにアルキがルマを殺す理由があるのだろう。野心に燃えて、みたいな奴には見えない。ズレたところがよくあるけれど、人を殺すようなことはしない、と思いたい。
あり得るとすれば、適応の暴走だけど……
「おい。おーいどうしたー急に別世界行って」
「いいやなんでも? ちょっと考え事」
寝転がったままアルキは怪訝そうな顔をした。いい加減起きろ。げしげしと蹴るとへいへい、と言いながら上半身を起こした。
「ま、相当特殊じゃない限りはありえないか」
「……?」
「なんでもない」
だってそうだ、暴走するのは脳に何かしら影響を与える異能で、直接死なせるのは難しいんだから。
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「ほんと、手のかかる……」
「何があったんだ?」
ぐでーっと机に突っ伏す。疲れた、色々。
「聞いて~ルパップ~」
「はいはい」
氷の入ったグラスをカラカラと揺らしながらルパップは返事した。無駄に長かった時間を、その苦労を吐露する。
「まさかあんなよく分からないのだとは思わないしさ~何なのホントもー」
「暴走でもあったのか? それはまたご苦労な、今度はどんなだった?」
今までも審判や女教皇や色々と苦労していた。その度というか、毎度文句を聞いてもらっている。よく飽きないものだ。今回は少し、今までのと違ったが。
「いやさ、それは結局分かんなかったけど。まさか死ぬとは思わないじゃん?」
「……それは」
「もう二つ目まで開いてるのか、あるいは。あーあ、これは流石に、引き戻すしかないか」
「アレは……恐らく引き戻す必要はないと思うな」
まあ確かに。何もアイツがウチに戻る必要はない。少し手荒にはなるが仕方ないか。
「んじゃ、明日でいいよね」
「俺の決めることじゃない」
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「いい加減出てけ」
「夜中なのにっ」
「夜中だからだ。もう寝るんだよ」
閉め出されてしまった。
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「死神の導く世界……けれど私は肯定しよう。盛大な歓迎をもって。審判者として」
ちなみに、今の時点で登場している(名言している)座は
愚者・魔術師・女教皇・法王・力・隠者・運命の輪・死神・星・審判(今回の最後)・世界
こう見ると、一応半分はもう出ましたね。ちょこっと出ただけの人も多いですが、
登場の速さと比べて出番の遅さとかがあるのは扉の都合です。(言い訳ばっかり)
今後ともなにとぞ。




