16話 『座』
「おーきーろーーーーーー!」
「は、ははは。どうしよ……」
そういえば、ハシゴが送るのは森の中で、シュテルンは寝たまま、つまりそんなによくない状況では? と思い至り様子を見に来たら。
案の定大の字に転がって寝ていた。そしてまだ起きない。
「どうしようか」
うなされているのか冷や汗がすごいのだが、その割にはでへー、という言葉がぴったりな笑顔だ。起こすべきか起こさぬべきか。
とりあえず声をかけてみる。
「おーい」
「……すぅ……すぅ」
反応なし。
しかし何やら顔色が悪くなってきた。これは流石に起こすべきか。放置するのは居た堪れない。デコピンしてみる。
「えいっ」
「に゛っ!? ……あ、あー。あはは。おはよ」
デコピンでもやっぱり起きるんだな。疲れたように笑ってこちらを見るシュテルンはすこし心配だった。
「大丈夫か?」
「いや、うん。ちょっと夢を見ただけだから」
なんの夢か……と聞くのは多分野暮なんだろう。過去なのか、変な怖い夢なのか、どちらにしろ、追求してもいいことはない。
「ごめんね。ほんと」
「……何が?」
「いいから。ほら行った行った」
ずいずい背中を押されて前に進まされる。
「え? 何結局なんなの? えーー」
◆┃◆┃◆┃◆
広大な空島の、森に囲まれた洋館につく。最初に来たところ、つまりアジト。名は『ドーン』。これまた夜明け。タウルスが居たからあの日は結局ろくな説明も受けていない。
所属しているだけ。頼まれたことをやるだけ。理念も、方針も、理由も、規則も、内情も、何も知らない。トップって誰なんだろう。
まだ会ってないのかな。とか考えながら歩く。脳裏に変な仮面のロリが過ったがあれは……ない。多分ない。いやあったら……えー。
「あーあ。ルマに報告か……」
「ん?」
マジ? 嘘だよな。いやあ流石に。
えっ? って顔をしていると、はあ? みたいな顔をシュテルンがこちらに向けてくる。
「いや、あんだけ壊したんだから報告しなきゃ。ホウレンソウ大事だよ?」
あーはいはい。会計係。そっかー。それならあり得る。しかし、シュテルンは心の平穏なんぞ守ってくれない。
「ボスだからさ」
「えーーーーーー」
理解に苦しむ。アレが? あんなふざけた人間が? 失礼を承知でこう思う。この組織ダメだ。
あんなヘンテコ仮面のちびっ子が長ってどういうことだか。何代か続いていると聞いたが、当代で終わりだ。お疲れさまー。
「失礼なこと考えてんな?」
「お疲れ様です」
「…………セカン」
「待てい」
至近距離で狙撃しようとしないで。普通に死ぬと思う。短縮でも詠唱してくれたのはせめてもの情けだろう。シュテルンが溜め息とともに手を下ろす。
しかし、ルマが?
「あのな。アレ異常に強いからな。『2nd』までしか使ってるの見たことないけど、それでもエレミティス以上。いくつ鍵があるのかは知らない、あと『1s t 』がほんとにインチキ」
「それって?」
前に『女教皇』は『知識』、さっき『隠者』は『認識阻害』と聞いた。二つで断定するのは苦しいが、多分、一つ目は何かしらゲームでいうステータス関係のものだ。
ステータスの伸び幅が馬鹿みたいに大きい、とかだろうか。
「『永久の旅』って言ってた。死んだら時間が戻るってさ」
わー。ズルじゃん(小並感)。つまりは死に戻り。実際に勝っていたとしても、向こうは何度でもやり直す。だから少なくとも今ルマの生きているこの時間軸においてアイツは負けなしということで、絶対に負けることがないような異能ではなく、負けたことをなかったことにしてしまえるようなものということなのだ。だが死に戻り、いわゆるこの世界という名のビデオゲーム。そうなると当然気になるのが。
「どの時間に戻るのか。セーブ地点は?」
「…………知ってると思ってんの?」
そらそうだ。
◆┃◆┃◆┃◆
『いつかの夜明けを目指してお仕事中です』
「今居ないってさ」
「何この書き置き」
理解できないわけではない。やけにそういった単語が多いし、何か目指すというのは分かる。……がしかし、そうなるとどういう用件で外出しているのか全く分からないのだ。
謎解きでもなんでもなくそのままの意味だとしたら、本当にテキトーすぎる。
「じゃ、部屋こもる。そっちは?」
「まだ全然交流ないし散歩してくる」
了解、とシュテルンは言い残し、螺旋階段を上がっていった。
その直後、人が通りかかった。運がいいのか悪いのか、知らない人だ。けっこう、アルカナのどれか分かりやすい見た目をした変人。
「よっす」
「ん? よっすー」
口以外を覆うドクロのお面、ボロ布のようなローブ、右だけ裾を出したボロボロのTシャツ。ダメージジーンズに指ぬきのグローブ。そして背中に背負った大きな鎌。さらにまたもや。
「一応言っとくけど女ねー? 声も中性的でわかんなーいってよく言われるんだけどねぇ」
「女子率高くないすか」
ルパップ、マグス、エレミティスしかこっち側で男と遭遇していない。ルマ、フォルツァ、ヨハンナ、ロタ、シュテルン、そしてこの人。およそ2倍。
「やだなあ。会ってないだけだと思うよ? わーりと五分五分だしー。少しくらい差はあるけどネ!」
「どこに行けば会えますかね」
男の人とも仲良くしたい。見た感じ男の人達には気に入られてると助かりそうだし。媚びまくるつもりは毛頭ないが。
「おいおい、目の前に女性が居るってのにんなこと聞くー? 暇でしょ? どうせ用事もないでしょ? お喋りしよーよ」
あーららー。女性が居ても聞くと思うんだけどなーそのくらい。女性の前で他の女性の話するなみたいな話じゃないんだし。いやそういう話なのか? わからん。
「まあいいですけど、俺特に話題ないんでそっちからふってくれれば話し相手にはなれます」
「あっはは。変なのー」
また言われた。これに関してはどうしようもない。特に話せることもない、変わらない日々しか送らないから。開き直るのが変だというのも認める。ただここまで変だと言われるとなんだかな。
テラスに連れていかれ、丸い机を挟んで席に着く。
あーそうそう、とその人は名乗りを上げた。
「自己紹介しなきゃ。コードネームっていうの? 死神だけど、メメントモリね。死神じゃないじゃんって言われてもどーしよーもできないよー」
メメントモリ。死を忘れるな、か。死神と言っても分からなくはない。
『内なる魂の座に至れり。汝の『世界』を、この地に刻まん』
「がっ!? な、なん……」
激しい頭痛を伴い、聞いたことのない声が頭に響く。普段なら、今までなら意味もわからず切り捨てた。でも今なら分かる、その言葉が。
何を意味しているのか、いや、何が目覚めたのか。
「あれ? あーそれ痛いよねー。で? で? どのアルカナ!?」
バン、と机を叩いて身を乗り出すメメントモリ。
「せ、『世界』、って」
「………」
沈黙。厄介だとか早死にだとか言われたら悲しい。対してメメントモリは大きく息を吐いてこう言った。
「空いてる席もあるのにわざわざ『世界』かー。珍しいけど、珍しいからこそ大変だね」
「へ?」
馬鹿みたいな声を出してしまう。正直その辺は理解できていない。ありがたいことに聞かずとも説明を続けてくれる。
「前例が只でさえ少ないのに、『1s t 』から全員違うんだよ。当然条件も違う。どの座でも、一つ目は絶対最初から鍵を持ってるけど、君のはどんなだろーネ」
めんどくさい。なんでそんなに尖ったものが当たってしまうんだ。適合者というからにはどれになるのかは元々決まっていたのだろうし運などではないが、強いて言うなら生まれた時その型になってしまったことが不運なのかもしれない。
「あーあ、誰も当てらんなかったけどこの場合はどうなるんだろ。賭け自体パーかな。はぁあ」
何か意味のよくわからないことをブツブツ言いながら、メメントモリはどこかへ歩いて去っていった。追いかけようかとも思ったが、立ち上がろうとすると鈍い痛みが頭に走り、結局その場で頭痛が落ち着くのを待つしかなかった。




