一章 幕間1
『ねえねえ! ──ちゃん! ほらぁ……ピー……ガガッ』
あーあ。また昔の夢を。もうほとんど思い出せなくなったな。まあもともとだけど。
「なに」
夢。夢とは言ったけれど。正直追憶だ。こっちから話しかけたってなにも起こらない。第三者の位置にいるのに、身体は。……気分が悪い。
『あの………ピー…さ……』
あーダメだ。また歪み出した。いつもどこかで歪み、その度に忘れていく。最初からハッキリしていなかったのに、今ではもう何がなんだかわからない。
「ん?」
いつもと違い、なぜか歪みが落ち着いた。
「??」
ありゃ? なんかふわふわと。ぐわんぐわんと。
「お、起きた」
「……」
途中で揺すられて起こされたらしい。
「……起こすなよ」
「え??」
◆┃◆┃◆┃◆
「おっ、発見」
目を凝らすと自動でズームしたりできる色々便利なゴーグルを通して、目標を発見した。タンっ、タンタンっ、タタタタっと段々早くしながら小刻みにブレーキをかけ緩やかに速度と高度を落としていく。
「ヒィィイハァアアア!! ……おわっ!」
突撃を仕掛けるも計算をミスった。壁にぶつかりそうになりソイツの目の前で急停止する。
「お疲れみたいだなあ? エレミティス?」
「お前……は……」
◆┃◆┃◆┃◆
「どこ行ったんですかね。外ですかね」
一通り探したが、死んだのか逃げたのか分からない。あれだけの爆発だ。そう遠くへは行けないと思うが。
「むむむ……」
どうしようかな。探しに行くか、アルキと星の保護を優先するか。
「むむむむむ………」
まあいいか。深追いせずともどこかで処理できるだろう。保護が最優先だ。
「ていうか散らかりすぎです。何があったんですかこれ」
焼け跡と、棚から落ちて焦げた商品達と、ひしゃげた棚、壁や天井、柱へのダメージは少ない。さすがにその辺りは頑丈みたいだが、多少は焼けたり少し凹んだりは見当たった。
「経費が……」
戦闘後の整備は基本『秩序の翼』主体だ。費用はなぜかこちら持ち。当事者は散らかすだけ散らかすのである。
「商品補充、修理費、あとこのライトですか? 一回の全部壊れてるじゃないですか……まったく」
大体で見積もりながら、戻ることにした。
◆┃◆┃◆┃◆
ヘルメットとゴーグルをとったソイツはニヤリと笑った。銀髪、ツンツン頭、ギザ歯、黒のレザージャケットに黒いジーンズ。
「ってかお前シュテルンにやられたのか? はっ! ランク下のヤツに負けるの? マジかよダッセ」
「黙れ……」
「やー。どうするべきかなぁ。瀕死の雑魚を虐める趣味はねえんだが」
「黙れ黙れ黙れ黙れェ!」
「……っとォ危ねえ」
見えざる刃が不適に笑う男の頬を切った。依然ニヤついていて不愉快きわまりない。
「んま、ヨシとするか。別に早急じゃねえよなァ」
「何の話だ」
「相変わらず察しがお悪うございますなァ。ボスが言ってる訳じゃあねェんだが、お前まだその座にいるだろ? どっちでもいんだがヨォ、ただ気がかりではあるからな」
なるほど、処分というわけか。それもそうだ、しかし死んではやれない。がしかし今の状況で勝てるわけでもない。ニヤついた不愉快な顔を睨みつける。
「待て待て早急じゃねーって言ってんだろうが」
「はあ?」
何が狙いで引き伸ばすのか。まあ大体の予想はつくのだが。
「いんやあ? あのルーキー共がどこまでやれるのか気になるしな。満足するまでお前は保留だ。収穫もあったしここんところは勘弁してやる」
どうせそんなことだろうとは思ったが。馬鹿なのかコイツ。
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「えむぴーぶそくとやらですか? 哀れです」
「あっははは……かもなぁ」
MPってなんだよ聞いてないんだけど。もしやまたルマの説明不足か?
「冗談に応じる余裕があるなら平気そうですね。タウルスとしても人的被害は好ましくないので」
なるほどねえ。帰ってきたと思ったら突然変なこと言い出すもんだからマジかと。というかルマ。アイツ絶対話してないこと多いよな。適当にしてるけど、多分わざと話してないのが多い。なぜかは知らん。
「いやあ毎度お世話になるな……助かるよ」
「正直、物的被害もない方が助かるんですが、……まあ無理でしょう。せめて修理費少しは出してほしいんですがね」
出してないんだ。ぶっ壊しといて経費負担しないんだ。へーー。シュテルンを見やる。
「悪い悪い。いやでも個人の問題じゃないって」
そういうことじゃない。
「まあ、どこの結社も金は出さないのでもういいんですがね。できるだけ街区への被害は抑えてもらって」
「ああしなきゃ無理だったからさ。実力不足?」
「………」
呆れたような目でシュテルンを見た後、こちらを「コイツどうにかならないのか」とでも言うように見てくるタウルス。前髪とフードで目が相変わらず見えない。
とりあえずシュテルンに関しては気づかないふりをした。だってどうにも出来ないし。会って一日の付き合いだし。仕方ない仕方ない。
「………………ちっ」
さらっと舌打ちされた。なんだろう。シュテルンとは付き合いが長そうに見える(自分に舌打ちされたと言う事実から目をそらす)。疲れているのかずっとフロアに寝転がったままのシュテルンを、ゴミを見るような目で見る(見ていそうな空気の)タウルスと、にへー、と緩みきった顔でぐでっとするシュテルンは少なくとも浅い付き合いには見えない。だってアレでにへーってしてんのは初対面ではあり得ないと思う。シュテルンがちょっと特殊な性癖でもない限り。
「はい。貸しです」
なんか投げ渡された。キラキラしたメダルのような。なにこの模様。旗を咥えた鴉? 旗には天秤が描かれている。エンブレムだろうか。
「失くさないで下さいねソレ。関係者に渡さなきゃいけないものなので。用が済んだら小規模爆発します」
何のため!? 頭に浮かんだそんな当然の疑問を当然の如く察して追加で説明してくれるタウルス。
「いや、前までは勝手に消えるだけだったんですけど、それだと失くしたと勘違いする人が居まして。電子レンジに突っ込んだ卵くらいの爆発が起きます」
いやもっとなんか無かったのか。
「タウルスはまだ仕事ありますので。暇じゃないので帰らせていただきます」
「じゃあなー」
シュテルンは、とそちらを見ると。
「すぴぃ……んぅ」
まあ随分と幸せそうに寝ていた。忘れているのだろうか。帰るべきあの不可思議な屋敷は空にあるのを。
いや正直あの日初めて屋敷から戻るときはかなり驚いた。屋敷の玄関前の濃霧と木々は空島故のものらしい。もうなんだ、異能とか秘密結社とか出たせいで、それがあってもその瞬間こそ驚いたが、あってもおかしくないなと考えてしまった。
『デイブレイク』だの呼ばれていたはず。夜明け、黎明とかそこらの単語だ。マヒルレンゴウといいどういう経緯であんな名前になったのだろう。
どっちにしろ。俺は家に帰るのだが、シュテルンがどうかは分からないし、『マヒルエンジン』を開いた。スマホに入っていたそういう名前のアプリだ。これが意外と便利だったりする。
いくつかの機能の中から『ハシゴ』を開く。
「確かスマホの自撮り用のカメラを向ければ良かったっけ?」
シュテルンに向けると、そこにはもう何もなくなっていた。
……相変わらず、不可思議な世界だ。
一章はまだまだ続きます。変に思うかもしれませんが、ネタバレ防止の都合上、章の名前は進度に合わせて伸びます。伸びるだけじゃないかもしれませんがそれは私のせいです。




