13話 『ニコニコシュテルン×ぷんぷんシュテルン』
さっきの場所から駅舎の南側に抜け、更に南に少し向かい、総合スーパーにつく。
「なんてところに仕掛けるんだよ……」
さっき「ちょっとお手洗い」と言って、いなくなっていたシュテルンが帰ってくる。
「早かったな。具体的な方策はどうする」
今日初めて姿顔を合わせたとはいえ、見たこともないニコニコの笑みでシュテルンはこう言った。
「エレミティスは殺すよ?」
「……は?」
突然だった。何の理由があるのかも知らない。何をいきなり物騒なことを、と思ったが口に出すのは抑え込んだ。きっと、シュテルンにとっては突然でも何でもないのかもしれない。ただ、少しの曇りも翳りもない笑みでそう言うシュテルンが末恐ろしかった。
なんとなく、普通の奴と変わらないと思っていたが、やっぱりそうでもないらしい。――側の人間は、やっぱり皆おかしい。
「リミットももうそろ余裕ないと思うけど。行かないの?」
「……あ、ああ。分かった」
不思議そうな顔を浮かべて「どした?」と声をかけるシュテルンの顔を、直視できなかった。
「いや、何でもない」
「そお。行こうよ」
腕を引っ張られながら、のろのろと、爆弾探しが始まった。
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――1F 食品・生活雑貨
「あの、さ。二手に分かれるか?」
提案してみる。探すうえで効率的なのもあるが、一人になりたいのもあった。離れたい、切実にそう願う。しかし、
「いや、アルキを一人にするのは危ないでしょ?」
ご尤もだ。
「そうだな」
「右端から渦巻き状に探していってみよ。広いし」
なんでこんなに落ち着いているのか。リミットとやらが何なのかは分からないが、さっき具体的には分からないと言っていた気がする。
「人いないと楽だね」
確かにいない。電気はついているし、色々正常に作動している。まあ人間の店員なんてスーパーにおいてはほとんどいなくなってしまったが。
パン屋は動いていないみたいだ。いつもズラッと並んでいるはずのその棚にはほとんどパンはなかった。
「曲がれ左ー」
楽しそうに散策する様子が、やはりコイツは異常なんだと感じさせた。
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「あれ? 人のこと置いて突入するってやる気あんなアイツ」
お手洗いから戻るとアルキがいない。まあ駅舎の時にも随分と慌てていたし、爆弾をいち早く処理したいとでも意気込んでいるのだろうか。やる気があるのは結構だが。
「一人だと危ないんだけどな。合流するまで生きてりゃいいけど」
せいぜい片足程度しかこっちに踏み込んでいないあのアホを死なせるのは少々居た堪れない。
「体力もつか?」
ぴょんぴょんと軽く跳ね、小走りで店内に突入した。
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止まったエスカレーターを上る。
「二階は衣料品・肌着と子供のフロアだってさ」
「知ってるよ」
学校の昼休みに偶に来ているし知っている。ただ不安な、というより任せたいところがあった。
「女物は一人で探せるか? 流石に人がいないとはいえ……」
「一人は危ないんだって」
エスカレータを上りきったところで何か上から飛んできた。それを指に挟んでこちらに見せてくる。
「ほおらナイフ。一人でどうにかなんの?」
流石に無理。
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「あれ? 一階居ないか。速」
これでも走っているのだが、相当向こうも手際がいいのだろうか。あるいはアルキなら雑なのかもしれない。あまりよく知らないが、こういうことはしっかりやりそうな気もする。
「まだまだ走れはするな。代金だけおいといて貰ってくか」
現金はほとんどない。大体電子マネーやキャッシュレスだが、幸い少しの持ち合わせはあった。スポーツドリンクを引っ張り出す。
「……よかった、冷たい」
稼働しているか不安だったが大丈夫みたいだ。それより急がなければ。
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「それ前見えないだろ……」
「見えないでいいと思う」
腕を引っ張ってもらうことにした。もう片腕で両目を覆っている。女性の下着やらに混ざっているとは思えないのだが一応と連れられている。
「はあ、ここにもないな次紳士服ね」
言われてみると紳士服の店に女性がいても多かれ少なかれ変ではあるが通報モノではない。こういうところでやはり真なる平等は不可能だと思う。
通路に出る。
「やばっ」
あっ?
意識が途切れる。
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ん?
「あ、起きた。やあ。なんで寝てた?」
どうやら、隅っこに寝かされていたらしい。壁にもたれこんでだらんとしていた。シュテルンが隣で体育座りしている。
「どうしても何も、お前と一緒に居たら急に意識が途切れ……」
「?」
さっきまでの異質な雰囲気がない?
「じろじろ見んなよ」
「いや、お前なのか?」
はあ? としかめっ面になるシュテルン。いつも通りだ。そういえば先のアレは全く怒らなかった気がする。妙によく笑っていたような。
「ま、生きてたんならいいや。死んだらどうしようかと」
「……心配したのか?」
「当たり前でしょ」
怒られるかと思ったけれど、案外優しいらしい。思えば、最初から名前呼びだったし、そもそも心の距離はそんなに遠くとってなかったのかもしれない。捉え様によってはわりと親身ではあったような気もする。
なんだか安心した。
「もしかしてなんかあった? 居ない間に」
「あったよ、恐ろしいのが」
あんまり思い出したくない。結局何だったんだ? 夢? 幻?
「んーよく分からんが、まあ落ち着け。アルキはもう一人じゃないだろ?」
頭を撫でてきた。意外と落ち着きはする。するのだが。
「こっぱずかしい。やめろ」
「はいはい」
「やめろって」
しばらくやめる気はないらしい。抵抗する気にもなれずしばらく為されるがままだった。
「……落ち着いた?」
「とっくにな」
「そりゃよかった。で、何があったの? もしやもう一人の私にでも会ったかー?」
その通りなんですが。ん、と肯定した。
「いやいや、冗談キツいって」
「知り合いの姿したヤツが急に恐ろしいこと言ったからこうなってたんだよ」
えー、と言いかけて後ろをばっと振り向くシュテルン。即座に指を子供みたいに銃らしく構え唱えた。
「『2nd』、バースト!」
「なっ……」
指先から一直線に無数の八芒星がキラリと光って。爆ぜた。
「あつっ」
「ごめん。でも、アイツならまだ、短縮詠唱じゃ刈り取れ……」
カツカツ、とこちらへ迫る足音が一つ。ソレは、緑のスーツを着込んだ長身の男だった。金髪の。
「流石に挨拶しに来た人間に有無を言わさずドカンはありえないんじゃないかな」
「殺気が駄々洩れなんだよクソチキン」
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「あ、爆弾」
駐車場に仕掛けても人がいないんじゃ被害は与えられない気が。別の目的だろうか。
「てか変身外さなきゃ、んー」
ぐにゃりと歪み、ソレは本来の形を取り戻し始める。形を取り戻したそれは思ったことを口に出す。
「結局、こっちに来るんですか。おかげでタウルスの仕事が増えました。こういう回りくどいのとか大変です。タウルスは大変です」
アルキの支援も大事ではあるが、それよりもエレミティスだ。アレは、秩序において、平穏において『いらないもの』だから。消さなければ。
「というか。タウルスは人の真似は苦手なんですけどね。自我ごとコピーできたら楽なんですが。どうしても、ムリなんですよね」
嘆く。なんで『扉』はいくつかコピーできるのに性格はコピーできないのか。そのせいで不要に他者にストレスを与えてしまっているというのは望ましくない。
「どうしたら安心させられるかって考えちゃうと、どうもタウルスの基準が変みたいで」
経験をもとに実践しているはずが、うまく行かない。毎度そうだ。
「………」




