12話 『レッツ・マインスイーパー』
サイトまで絞り込めているとはいえ一つのサイトでも十分広い。隈なく探すとなれば時間はかかる。だが当てはあるらしい。その場所を今から一つずつ潰していくといった感じだ。
『近くにもう一人いるから合流してね』と言われているのだが、恐らく向かう場所は同じだ。向かえばいるだろう。
一つ目、駅舎。
大分小さめの駅舎なので大して探す場所もないが、お手洗いやベンチを軽く探してみる。この駅舎は近未来的なデザインには改修されていない。おかげで人も少なく探しやすかったのだが。
もう一人の影すら見えない。爆弾もない。どうなってんだ。
ピロン、とスマホから着信が来る。
「?」
ポッケから取り出し開くと、当然だがルマからメールだった。しかも内容は。
『今たぶん駅でしょ? もう一人が電車でそこ来るからちょい待ち。まだ話したことないだろうけど仲良くするんだよ』
「……」
言われなくともそうするのだがわざわざ仲良くと言うのだろうか。何か面倒なのが来る気がした。まもなく……と駅内放送が流れる。そして電車がちょうど来る。この駅で降りたのは一人だった。
メールには違うところがあった。
話したことあるよコイツ。
「ああ? あーアルキだっけ。アンタか。今回のって」
高い声が響く。そう、この間の。螺旋階段を上ってすぐの部屋にこもっていた少女の声だった。あの口の悪い。
黒地に紫や蛍光色の黄色の三角形が点々と散りばめられたデザインのフード付きのパーカーを羽織り、紫髪で、ハーフサイドアップだったかそういう髪型の高校生くらいの見た目の少女。斜めに緑と青のラインがクロスした黒のTシャツに青のジーンズ、白いグルカサンダル。全体的にぶかぶかしている。
首にかかったイヤーマフを右手でいじりながら名乗りを上げた。
「『XⅦ』シュテルン。一応ヨロ」
「ん、よろしく」
少し間をおいてため息をつかれた。ヒドイ。とりあえず散策に出ることにした。
したのだが。
「普通に歩くのかよ」
「うっさいな。外にあんま出ないんだよ」
それはそっちが悪いのでは……。
「……。急がなくてもタイムリミットは結構あるんだよ」
「マジ?」
ルマが送ってきた『きんきゅーです』とは。ホントにあの人何なんだ。歩きながら考える。
「……アルキはさ」
名前は呼ぶんだ。基準が分からない。全然。
「学校楽しいの?」
「なんで?」
「いいから」
じーーっと見つめてくるシュテルン。早く答えろ、といった感じの圧を感じる。緊張しつつ口を開いて返事をする。
「まあ、楽しいけど。それがどうした?」
「ふーん」
なんでだよ。
「そっちは?」
「学校行ってない。不登校で中退」
ん? まずいこと聞いたのでは? いやでも、先に話題振ったのは無効だしどうしようもなかったと思う。ここで間を空けるのもなんか嫌だったし。
ただ、想定と違った。罵られるかと思っていたのだが。
「ん? あーそれは気にしなくていい。どうでもいいから」
「いやどうでもよくは」
「あるんだよ。どうしてもソレが理解できなかったんだ。楽しくなかった。少しも満足しなかった。勉強するために行くとか言ったって、高校以降は教師が必要だったり仲間が必要な人の環境。どっちも必要なかった。退屈だった。勉強もできたし。教科書見れば大体」
それは普通にすごい。まあそんな人もいるのかもしれない。特殊ではあるが、だからと言って悪いことには思えない。それならそれでいいんじゃないかと思う。
「……昔は、楽しかったんだけど」
ぼそっと、何かつぶやいたのは聞こえたが何を言ってるかまでは聞き取れなかった。ただ、シュテルンが、何か遠くを見つめて虚ろな目をしているのだけは覚えていた。
◆┃◆┃◆┃◆
二つ目の遺跡公園にも、三つ目の公園にも、四つ目のボウリング場にも見当たらず。
こんな時代でも自販機はあるものだ。支払いの仕方は異なれど、ゴツイ豆腐としての形はいまだに健在である。喉が渇いた、とシュテルンが飲み物を買っていた。ゴトッと飲み物が落ちてくる。それを掴んで取り出しながら、ふと思い出したようにシュテルンが告げた。
「あ、そだ。ミッションなら伝えといたほうが楽だよな。星なんだけど、まだ二つくらいしか使えないから」
「そりゃどういう意味でしょうか」
いやまあXⅦが星だった気はするが、二つって何? どういう意味?
「あのさ。人が未熟だからってそれはないだろ? これでもやってけはするんだしさ」
「いや言ってる意味が」
「んー」
睨まれた。全然話が嚙み合ってない。普通にどういう意味か聞いたのに多分煽りかなんかだと勘違いされてるなこれ。二ホン語って難しいねー。
おそらく二つというのはそこまで上位に位置しないということなのだろう。数が多ければいいのか少なければいいのかも分からん。いや少なければいいってなると1,2,3とかじゃね? 3つくらいしかブロックないし使うというのもあるから多分多い方がいいのだろうか。
「そういうアルキはいくつなんだよ」
「……ん。あー、いや。そもそもいくつって何の話してんのってさっきから聞いてるんですけどね」
「ん?」
虚を突かれたご様子。でもこれは俺悪くない。
あちゃー、といった風に髪をかくシュテルン。大きなため息の後に懇切丁寧ではないがざっくり説明してくれはする。
「『扉』の話なんだけど。もしかしてそこから分からん?」
こくり、と首肯する。
「あーそういう。あーねえ。時間はかかるし歩きながらでいい?」
はいよ、と返事して歩き出す。
平日の昼間、人影はなく、特に隠れもせず、買った無糖の強炭酸水を器用に回しながら話し始めた。
「アルカナなぞってんのはさすがに知ってるよな。んで、まああんまりアルカナ事態に関係ないことも多いんだが適合者はいくつか異能みたいなもんをいくつか使える」
「それが『扉』、か?」
シュテルンがうなずく。
「ん。部屋に近いと思うけど、まそう呼ばれてんだからそういう感じ。それと使えるようになるためには何らかの条件を満たす必要がある。それが『鍵』、パスワードとも言う」
「条件って?」
さあ? とでも言うかのように困った素振りを見せる。
「アルカナによって共通しないし理屈も分からんからな。いくつかはポテンシャルによるものとされてるけど、鍛錬すれば自然と使えるようにはなる。全部じゃないっぽいけど」
「なんで全部じゃないってわかるんだ?」
あのねー、と続ける。
「システムがここまではっきりと一代で分かるわけないでしょ。前の代がいっぱいいるんだよ」
いつから聯合は、いやこちら側はこのように動き始めていたのだろう。見当もつかない。
スマホの着信音が二つ響く。画面を開く。
あまり良いとは言えない報告だった。
『あははははー。こっちでも探してみたんだけどさ。建物は分かったけどちょっとマズいかも。向こうはエレミティスだよ。いや今は別の名前かもしれないけどちょっと怠いね。気をつけるべし』
「エレミティスって?」
「……脱退した……『Ⅸ』」
「脱退? それより『Ⅸ』って確か」
「……『隠者』、か」




