10話 『秩序の翼』
『tWoO』って筆記体で書かれた茶封筒が届いたんだが。
困ったな。送り主と宛先以外に不穏なことが書いてある。茶封筒なのに。
「親展。重要書類在中。貴君の処分等。必ず確認せよ、ね」
こういうのってさ。うっすーい水色の、A4くらいの封筒っていうか、まあ規格はさておき茶じゃないよね普通。糊づけされているところには緘の文字。いやだな、なんか古風だな。正確に言えば2020年代くらい。
っていうか。説明は寝てからにします。寝てくださいといった感じのことを言われて寝て起きたら枕元にこれ。聯合の誰かなのだろうか。
「おはよー」
「ふぁいっ!」
「あはあ? 変な声出すね」
ノックもなしに入ってくんな。びくっとしたせいで多少ベッドが軋み、変な声も出たし後ろ手に封筒を隠してしまった。隠す必要はたぶんないけれど、処分とか書かれると何か危ない気がする。
まあ何か用があったらこうやって会いに来るタイプの人だしこういうことはしないだろうとは思っているのだが、なんかやだ。
だれが何のために、そんなことを考えていたら。
「tWoOから届いてない? 封筒」
「へ?」
いやありますけど。どういうこと。
何か知っている口振りでのしのし近づいてくる。いやほんとにのしのしという表現ではない気がするけれど、こちらから見ると若干の威圧感を覚える。本人にその意図はないみたいだが(口の表示見ればわかる)。
「出して」
そう言って腰に右手を当て左手をこちらに差し出してくるルマ。口がへの字。怒ってはないらしい。多分めんどくさいだけだ。
「なんかやだ」
「……」
睨まれた……気がした。無言でもう一度手を出してくる。ぐいっと。
「……ハイ」
「こっちで処分しとく」
処分? それ捨てていい奴なの?
「開けても開けないでもめんどくさいことになるんだよー。ちょっと特殊な処分方法でね、任せろり~」
「えぇ……」
封筒は中身を見ることもできず持ち去られた。
◆┃◆┃◆┃◆
部屋には冷蔵庫もついている。ペットボトルに入った水がキンキンに冷やされていた。
「ぷはああ! ……うまい。色々あった後に飲むとめちゃうまい」
こんこんこんとノックが響いた。
「はーいなんですかー?」
「まだ顔を合わせていないから、わざわざ会いに来ただけだ」
おや? 昨日(今日の午前ー深夜帯)に会ってない人?
「入っても問題ないか」
「え? あーはい」
ぎぎぎとドアが開く。
「お前の部屋は案外普通だな」
一言目それ? っていうかこれで普通なのか。スイートルームみたいなのが。
思考を読んだかのようにその男は言った。
「……他の奴の部屋に行けば分かる」
「へえー」
ガタイのいいおっさん? って感じの人だ。白髪交じりの黒髪にを後ろで束ねて、顎にはまあ立派な髭を携えていた。全体的に肌は焼けている。しわもぼちぼちだが、なんかそう、師匠? そんな感じだ。赤いマントみたいなのを羽織っている。少しだけ猫背だ。
「俺は『Ⅱ』のマグスだ。お前はどうせこっち側には来ないだろうと踏んだんだが……まあ違ったようだな。昨日残っていればよかった」
「あー。まあ焚きつけられちゃって。最初はお断りでしたけどね」
なるほど。まあそうか。入るかもわからない相手の前に顔を晒したくないという人もいてもおかしくはない。
「今日は挨拶だけだ。用があったら二階の東側の端の部屋か鍛冶場に居る。そこに来るんだな」
そう言い残すとマグスはのそのそと部屋から出て行った。鍛冶場なんてあるのかー。
◆┃◆┃◆┃◆
ほかの奴の部屋に行けば分かるといわれても。コップに注いだ先ほどの水をカラカラと揺らしながらボケっと考える。どこに誰がいるのか知らない。どうしたものか。どちらにしろ今することもほとんどなく、できることも限られているなら、行き当たりばったりもたまにはいいかもしれない。どうせ死にはしないだろう。
ぐいっとコップの水を飲みほして、シンクにコップを置いておく。壁にかかっていた鍵を取り部屋を後にした。
◆┃◆┃◆┃◆
――204号室(本棟)
昨日見た螺旋階段を上がってすぐ右手の手前側の部屋に来てみた。というか、さらに上もあったのだが、上る気にはなれなかった。
架かっている部屋番号のプレートは少し傾いていた。嫌な予感はしなくもない。
もちろん基本、ノックから。日本では基本3回だ。
コンコンコン。
「ああ? なんだ」
不機嫌そうな声が中から聞こえてくる。高い、たぶん女。そしてたぶんまだ会ってない。
「昨日っていうか今日入った新入りですけどー」
「……で?」
なんか不機嫌だ。なんでかは分からないが、こういうのはアレだ。そういうキャラなのか、原因は俺じゃないけど苛立っているかだ。
「……一般人が」
おやあ? フツーに原因が俺みたいだ。何かしたっけ?
「アホ。ルマが今日色々説明するって言っただろ。食堂行け。ニワトリが」
ひどい。だが確かにそうなので食堂に向かうことにした。
◆┃◆┃◆┃◆
「遅いよ」
「……はい」
一応、昨日の5人とマグス、それともう一人いた。
「いやあねえ。今日説明しようと思ったんだけど、ちょっと問題が発生しちゃってさ」
「問題とは失礼ですね。タウルスに失礼です」
誰だよ。白髪ロング、白のレインコート、白地のTシャツ、ベージュの半ズボン、白のエンジニアブーツ。肌は日本人っぽいけどかなり白の一人称「タウルス」さんが現れた。前髪が長く、レインコートのフードを目深にかぶっており顔が見えない。口元ぐらいしか。ルマと並ぶと高く見えるが、たぶん背は160くらい。
「タウルスに何かありますか。何か?」
なんとなく。そう。ほんとに何となく聞いてみた。
「……てぃーうぃーおーおー?」
「!、!」
ひゅっと一気に距離を詰めてきて、ぶん、ぶん、と腕を小さく振り何やら意思表示してくるタウルス。何だろう。かわいい。
「タウルスはtWoOのメンバーです。ご明察です。メンバーです」
「「「「「「……はあ」」」」」」
6人全員にため息をつかれた。
「どうしたんだよ」
「バカ」「間抜け」「阿呆」「大丈夫?」「あんぽんたんです」
ルマ、マグス、ロタ、ヨハンナ、フォルツァの順で悪口を言われた。困惑しているとルパップが説明してくれる。
「tWoOはちょっと、ね。分かってはいたんだがはっきりすると余計嫌になる真実だってあるんだよ」
こういうのをKYと呼ぶんだとしても、俺はこの不遇を認めたくない。
ふと気づく。
「秩序の……翼?」
金色の、『秩序ノ翼』とかっこよくデザインされたバッジのようなものを、タウルスが胸元に着けていることに。




