第3話 亡霊から蘇る記録の英雄~灼熱の勇者、ゴウガ!
1. 押し寄せる灰色の群れ
──────記録の亡霊の群れ──────────────────
オラクル・ノヴァの忠告通り、荒野に『群れ』は現れた。
意思を持たず、ただ存在を消去する忘却のシステムに操られるまま這い回る、灰色の魔装機群。
それは地平線すべてを灰色に染め上げ、津波のように移動母艦ラストキャリアへと押し寄せていた。
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「敵機の数が、昨日とは桁違いだぞ……! 野郎ども、何が何でも母艦を守り切るぞ! ハル、お前はアウロラで前線を支えろ!」
通信ウィンドウから、ラグナの焦りの混じった怒鳴り声が響く。
「おう! 任せとけって! ——ん? ラグナの兄貴、あれ、なんだ?」
ハルはモニターのズーム倍率を上げた。
押し寄せる灰色の亡霊たちのただ中に、一機だけ、明らかに異質な存在が混ざっていた。
錆や泥にまみれた他のスクラップ機とは違い、傷一つない。
まるで、博物館のガラスケースに厳重に保管されている標本のように、完璧な美しさを保った——炎を象った紅蓮の巨人。
「……ミテ、イルカ。チビッコ、タチ。……オレの戦いを、ミテ、イルカ……。」
スピーカーから、ひどくノイズの混じった、感情の抜け落ちた声が漏れ出ていた。
「機体はあんなに完璧なのに……パイロットの目が、完全に空っぽだよ。ラグナ、あれはただの亡霊じゃない!」
ミラの警告が割り込む。
「……チッ、最悪の相手がお出ましだ。あれは、かつて源界で『英雄』と呼ばれていた奴の成れの果てだ。デウスに記録され、外側の形だけを永遠に防腐処理され、肝心の中身を抜かれちまった亡霊機さ。」
ラグナが忌々しそうに吐き捨てる。
「英雄……? あいつ、誰かのヒーローだったのか。」
「……ヤキツクセ。……敵ヲ、ノコサズ、ヤキツクセ……。」
紅蓮の巨神の瞳は灰色に濁り、機械的に繰り返される殺戮の言葉だけがスピーカーから流れ続ける。
「壊すしかねえ。あんな状態になっちまったら、もう二度と元には戻らねえんだ。ハル、躊躇するなよ!」
(いや……あいつ、まだ何かを言おうとしてる。誰かを呼ぼうとしてるんだ。壊すのは、本当に最後の最後だ!)
「ヒーローだったやつを、こんな悲しい姿のままで終わらせるのは——絶対に違う!」
ハルはアウロラの操縦桿を強く握り締め、前へと躍り出た。
2. 灼熱の再臨、その名はゴウガ
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【未登録IPスペック(仮解析)】
・機体名:グレンファング(のちにゴウガ)
・全高:24.5m
・本体重量:48.2t
・武装:バーニング・クロー、ファング・フレア
・動力源:高濃度熱素反応機関
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────漂流戦域・赤い砂塵の盆地────
14時15分。晴れ。
高度30m。アウロラ同調率180%。
紅蓮の巨人——グレンファングの全身から、猛烈な熱波が放たれた。
シュウウウウ!!!
「とりあえず動きを止める! だけど、とどめは刺さない!」
ハルは急降下した。
グレンファングの『バーニング・クロー』が、アウロラの胸部装甲をかすめる。
ズババババ!!!
凄まじい熱量だ。コックピット内の温度が一気に急上昇する。
「相手の熱素反応は最大! ハル! まともに食らったら機体が溶けちゃうよ!」
ミラが叫ぶ。
「あんな大振りの一撃、当たるかよ!」
ハルは操縦桿を限界まで引き、空中反転した。
グレンファングの背後に回り込み、アウロラの『ジャンク・エッジ』を叩き込む!
ドゴォォォン!!!
衝撃が荒野を揺らし、グレンファングはついに力尽きて片膝をついた。
だが、その瞳は依然として濁った灰色のままだ。コックピットの中で、虚ろなパイロットは壊れた機械のように同じ言葉を繰り返している。
「……ミテ、イルカ……。ダレモ……オレの戦いを……ミテ、イナイ……。」
「……『見ているか』って、ずっと言ってる。」
ハルはハッチを開け、スピーカーのマイクに向かって叫んだ。
「そうか。あんた、誰かに自分の戦いを見ていてほしかったんだな。あの時、テレビや本の前で応援してくれていた、ちびっこ達に。……だけど、みんなにあんたのことが忘れられて、だから誰もいなくなっちまったんだな。」
しーーん……。
風の音だけが響く中、ハルは胸の奥から声を絞り出した。
「——だったら、俺が見てる!!」
「今、ここで、俺があんたの戦いをずっと見てた! ボロボロになっても必死に立とうとするあんたの姿、めちゃくちゃカッコよかったよ! あんたは、偽物なんかじゃない、本物の英雄だ!」
ハルの叫びが、荒野の静寂を切り裂いた。
カッ!!!
その瞬間、巨人の濁っていた灰色の瞳に、眩い紅蓮の火が灯った!
全身を覆っていた錆びた灰色の影が剥がれ落ち、本来の燃え盛るような灼熱の輝きが機体全体に蘇っていく!
「……見て、いる。……俺の戦いを……見ている子供が……まだ、ここにいる……!」
パイロットの目に生きた光が戻り、その口から力強い人間の言葉が発せられた。
ピキィィィィン!!!
「……思い出した。俺の名は、ゴウガ。灼熱の勇者、ゴウガだ!!」
コックピットから放たれる熱波が、周囲の砂嵐を吹き飛ばす。
「見ているか、ちびっこ達!! 灼熱の勇者ゴウガ、ここに——再臨ッ!!」
ドゴォォォン!!!
「うおおっ、やっぱすげえカッコいい! ラグナの兄貴、ほら、言っただろ!」
ハルはアウロラの中から拳を突き出した。
「少年。お前が、俺を思い出させてくれたのか。……世界から忘れ去られ、あの冷たい記録に喰われかけていた、この俺を。」
ゴウガは機体を立ち上がらせ、ハルを見つめた。
「この命、お前に預ける。お前がその熱い目で見ていてくれる限り、俺はまだ——永遠に英雄でいられる!」
こうして、忘れられた英雄ゴウガが、ハルたちの心強い仲間に加わった。
3. 蘇生とAI強化の温度差
────ラストキャリア・格納庫デッキ────
戦いを終え、整備用のキャットウォークでミラがハルにジュースの缶を手渡した。
「……ハル。あなたがやったことってさ、AIがやる強化とは、まるで真逆なんだよね。」
「真逆? どういうことだ?」
ハルは冷たい缶を頬に当てながら首をかしげた。
「AIはね、元の形にいろんなデータを『足して』、全然違う別物へと仕立て上げるの。でも、あなたが今日やったのは——その人から余計な防腐剤を取り払って、その人をその人のまま『戻した』んだよ。」
ミラはアウロラと、その隣に並ぶグレンファングを見上げた。
「そう難しいことかな? 俺はただ、あいつが必死に立とうとしてるのがカッコいいと思って、そう言っただけだぞ。」
「……ふふ。あなたって、本当に自分の凄さを分かってないんだね。まあ、そこがあなたらしくて良いんだけどさ。」
ミラが楽しそうに笑う。
「……なぁ、ミラ。」
ハルは視線を落とし、あの白い祭壇で交差した、もう一人の英雄の顔を思い浮かべた。
「俺がこの世界に呼び出された時、もう一人いたんだ。昔、凄い英雄だったっていう、冷たい顔をした奴がさ。」
「もう一人の……英雄?」
「ああ。あいつ、ゴウガが元に戻る前と全く同じ、空っぽな目をしてた。記録されるのが救いだとか言って、無理して笑ってやがった。……いつか、あいつにも『俺が見てる』って、そう言えたらいいんだけどな。」
4. 防腐者の論理
────記録の大伽藍・静寂の間────
同じ頃、漂流戦域の遥か上空に浮かぶ、厳かで冷徹な記録の大伽藍。
デウス・インデックスの無数のモニターが、一斉にエラーコードを表示していた。
「……安定保存していた記録が一件、外部要因によって書き換えられました。完全だったはずの『ゴウガ』の価値データが、不正に改変されています。」
そのシステムボイスには、怒りも哀しみもなく、ただエラーを排除しようとする機械的な義務感だけが存在していた。
「あの少年が『蘇生』と呼ぶ行為は、保存されたデータの不安定化に過ぎません。形を固定され、安定していた過去の価値が、再び生きた認知によって揺らぎ、やがて忘却によって永遠に失われる。」
デウス・インデックスのシステム回路が青く明滅する。
「忘却の嵐によって価値が完全に消去される前に、欠損のない完璧な記録として安定保存する。それこそが私の役割であり、この世界における唯一の正しさです。——あの少年は、その絶対的な安定を崩す重大なエラー要因。観測対象に登録します。」
忘れられた人々を、認知の光で救い出す『名無しの少年』の噂は、存在を消し去るヌル・カラミティと、形を永遠に保存するデウス・インデックスの両者の耳に届き始めていた。
そして、企業機構圏の広告・配信ドローンが、ネット上で急激にバズり始めたその『特異な新人』の存在に目を留めるのも——もはや時間の問題であった。




