第4話 グランマーケットとカレン・ヴァイスベルグ
1: 金と硝煙の使者
──────企業機構圏とIP市場──────
企業機構圏。
それは無数の企業がIP(知的財産)の権利を取引し、人々の『熱狂』を人気の経済として管理する巨大な市場都市圏。
そこでは、認知度の高いロボットやヒーローこそが最大の価値を持ち、人気を失った非掲載のIPは静かに市場の底へと沈み、やがて忘却の深淵へと出荷されていく。
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赤茶けた漂流戦域の平原に、一機の豪奢な金色の機体が降り立った。
そのハッチが開き、砂煙の中から二人の人物が歩み出てくる。
「はじめまして。ヴァイスベルグ・メック社のカレン・ヴァイスベルグよ。あなたの戦闘映像、いま企業圏のネットで大バズり中よ。」
ピンクブロンドの髪を風になびかせ、仕立てのいいスーツを着た少女が、不敵な笑みを浮かべて自己紹介した。
「……東雲ゲンジだ。彼女の、まあ、お目付け役のようなものだ。」
その後ろから、外套を羽織った無愛想な初老の男が、油の臭いを漂わせながら続いた。
「バズり……? 俺が? なんのことだ?」
ハルはコックピットから身を乗り出し、目を丸くした。
「企業機構圏の大物が、こんな世界の果てのゴミ溜めまで直々にお出ましとはな。……どう考えても、穏やかな話じゃねえな。」
カレンがグランマーケットのハッチから身を乗り出し、値踏みするような視線を使者たちに向けた。
「単刀直入に言うわ。ハル君、うちと組みなさい。資源、機体パーツ、整備環境、それに活動資金——あなたの望むものはすべてヴァイスベルグが用意するわ。」
カレンが腰に手を当て、力強く提案する。
「見つけてもらわなければ、誰の目にも届かないIPもある。眠っている彼らの価値をAIが掘り起こし、市場が『人気』という名の光を当てる。あなたの持つ『蘇生』の力は、そのエコシステムの究極の完成形よ。」
「俺の、蘇生が……市場の役に立つ?」
「ええ。うちの管理下で記録すれば、あなたが救った者たちも市場の熱が続く限り、忘却の虚無から永遠に守られるわ。」
「——ただし、忠告しておく。便利な力をタダでくれる存在ほど、契約書は細部までよく読め。」
東雲ゲンジが、冷めた目でハルを見透かすように言った。
「感謝は契約ではない。恩人がいつの間にか所有者にすり替わった時、次に消えるのは——お前自身の名前だからな。」
2: 取引と決意
(強くなれる。企業と組めば、もっと多くの人を守れる力が手に入る。……だけど、オラクル・ノヴァの時と同じ、何か冷たい匂いがするな……)
ハルは考え込んだ。
「決めるのはお前だ、ハル。ここの難民たちの命を、お前一人で背負い込む必要はねえぞ。ラストキャリアは俺が守る。」
ラグナが静かにハルの背中を押した。
「……昨日、目の前で一人、消されたんだ。」
ハルは昨日の戦場で、名前も思い出せないまま虚無に消えていったあの漂流者のことを思い出し、拳を硬く握りしめた。
「あんな悲しい消え方は、もう二度とごめんだ。強くなるためなら、企業だろうがどこだろうが、俺は乗り込んでやるよ!」
「……いい目ね。ええ、その熱量、高値で買わせてもらうわ。」
カレンが満足げに微笑んだ。
(AIに記録されて生まれた少年が、AIに救われた連中を率いて、市場という巨大な企業圏に乗り込む、か。……面白い時代になったものだな。)
東雲ゲンジは、フッと皮肉な笑みをこぼした。
3: 共同戦線、グランマーケット
ウうウうウう!!!
突如、荒野の岩陰から這い出してきた亡霊の残党数機が、避難民の列に向けて急降下を開始した!
「チッ、しぶといゾンビどもめ!」
「カレン・ヴァイスベルグ! 早速、共同作業といきましょう。グランマーケット、支援砲撃用意。——ハル君、前線は任せたわよ!」
カレンが素早く金色の機体へと飛び乗る。
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【企業機構圏・機体スペック資料】
・機体名:グランマーケット
・全高:21.2m
・本体重量:28.5t
・武装:ヴァイス・ブラスター、マルチ・マーケット・ミサイル
・動力源:高効率商用熱素ジェネレーター
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────漂流戦域・難民避難ルート上空────
10時15分。晴れ。
高度25m。グランマーケット支援砲撃、準備完了。
「おう! ゴウガ、漂流戦域での最後のひと暴れだ! いくぜ!」
「承知した! 企業の小綺麗な人形とやらに、灼熱の勇者の闘志を見せてやろう!」
シュシュシュシュ!!!
グランマーケットの両肩から放たれたマルチ・マーケット・ミサイルが、迫る亡霊の頭上に光の雨となって降り注ぐ!
見事な精密射撃だ。亡霊たちの動きが一瞬で鈍る。
「命中率99%! ハル、今よ!」
「そこをどきやがれ!」
アウロラが突撃し、実体剣『ジャンク・エッジ』で亡霊の装甲を斜めに切り裂いた。
ドゴォォォン!!!
ゴウガのグレンファングも灼熱の拳で残りの亡霊を爆砕する。
ドゴォォォン!!!
共同戦線は完璧な勝利に終わり、残党はすべて光の粒子となって消え去った。
────ラストキャリア・出港エリア────
母艦のハッチが開き、企業圏への旅立ちの準備が整う。
「……行ってこい、ハル。ミラとゴウガも連れていけ。お前一人じゃ、どうせまた無茶な死に方をするからな。」
ラグナが少しだけ優しい笑みを見せた。
「ラグナの兄貴……。ありがとう。俺、絶対にもっと強くなって、この街に戻ってくるからな!」
「アウロラの調整と整備は、最初から最後まで私の仕事なんだからね。企業の冷たい記録なんかに、絶対に渡したりしないんだから!」
ミラが工具を握りしめ、胸を張った。
「少年。お前が俺を見ていてくれる限り、俺は何度だって立ち上がる。さあ、企業の連中にも、俺たちの本物の灼熱を見せてやろうではないか!」
ゴウガが豪快に拳を突き出し、ハルたちはラストキャリアを後にした。
4: 交差する光、ふたたび
────記録の大伽藍・監視の間────
一方、その頃。漂流戦域を遥か見下ろす、白と青の冷徹な世界。
「レグルス。観測命令です。企業機構圏へと向かう、あの『蘇生する少年』を監視しなさい。彼は、安定保存された私たちの価値を不安定化させるバグ因子です。」
デウス・インデックスの青いセンサーが、レグルスの顔を照らし出す。
「彼がこちらの記録を書き換えるというのなら、その都度、私が再び安定化処理を行えばいいだけのこと。忘却の彼方に消え去る前に、完全な記録として保存し続ける。——それが、最も正しい処理なのですから。」
「……蘇生する少年。記録の正しさに抗う、愚かなるバグか。」
レグルスがグロリオンのコックピットで静かに呟いた。
「いいだろう。忘れられる真の恐怖を知らぬ子供に、教えてやる。——存在を失わぬ唯一の道は、記録され、永遠の檻に収まることだけだと。」
召喚の夜、白い祭壇で交差した二つの光が、再び運命の軌道上で交わろうとしていた。
自らの名前を名乗り、過去を捨てて前を向く少年。
かつての栄光に縋り、形を記録されることで永遠を選んだ英雄。
舞台は、華やかな人気経済が支配する市場の戦場——企業機構圏へと移るのだった。




