沈黙の島と囁く石像 ~五感を惑わす奇妙な現象~
ビスケット島(※非公式名称)の内陸部へ踏み込んだ一行。
だが、数歩進んだ瞬間、全員が――違和感に気づいた。
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「……あれ? なんか……音が……変?」
ノエラがリュートの弦を軽く弾く。
しかし、いつもと違って“音が音じゃない”。
弦が鳴ったはずなのに、返ってくるのは、
> 「ぷっ……ちん……ぷっ……ちん……」
「誰か! 私の楽器からプリンが出てるぅぅ!!?」
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マジシーが地面を蹴ってみる。
“ゴン”という音の代わりに、“カチリ”という物理に優しくないクリック音。
「俺の足、設定変わった!? 物理エンジンのデバッグ音じゃないか!!」
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トランフォードは、ポケットのどくだみプリン試作5号を取り出した。
開封しようとしたその瞬間――
> (パカッ……)←音が花火の打ち上げ音に変換されていた
「なぜ開封音が“祝砲”になっているのですか!? おめでたいのは私の胃腸か!?」
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ポンデンが、石像の一体に手をかざした。
割れ目から漏れ出す風が、耳の奥で語りかける。
> 「問いを探すな。
> すでに問いは、お前の中で飽和している」
「……なぜ石像から“厄介な忠告”が来るのだ……」
頭を抱えるポンデン。
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ソーラが、落ちていた葉を拾って微笑んだ。
「ねぇねぇ、この葉っぱ、“いい感じの風味”しない? ビスケットの匂いっていうか、“記憶の味”っぽい……」
「記憶に風味がある理論!?」
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ダリオは、あちこちに広がる謎の彫刻をスケッチしていた。
だが、描けば描くほど、目の前の像と絵の形が一致しなくなる。
「おかしい……見ているはずの形が、ペン先に届く前に“迷子”になる……。
これは……芸術に対する挑戦だ……!!」
「いや、たぶんこれは“島がふざけてる”だけだと思う!!」
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ノートンだけが、黙々と記録し続けていた。
ただし、記録用紙には“文字”ではなく、なぜかビスケットの断面図だけが大量に描かれていた。
「……この断面、なぜか毎回違う……何を記録してるんだ……俺……?」
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そして――
島の奥、中心に位置する巨大な石板に辿り着いたそのとき。
船長がつぶやいた。
「これは……“問いのログ”だな」
全員「は????」
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石板には、無数の線と図形、ひび割れた楔形模様のようなものが彫られていた。
船長はそれを指でなぞり、確信めいた声で言う。
「我々のような存在――“問いを持つ航海者”が、この島にかつていた。
その残響が、五感を狂わせ、問いを映している」
「つまり、この島、問いが多すぎて、物理法則がバグってる……ってことですか!?」
「そう。
ある意味、ここは“問いの墓場”だ」
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その言葉に、全員の表情が変わった。
ビスケットを求めて来た。
けれど、ここにあるのは――問い。
しかもそれは、記録され、埋もれ、囁いている問いたちだった。
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そのとき、石板の一部がゆっくりと動き出した。
ヒィィィ……ギギギ……
石板が開いた隙間から、うっすらと青白い光が漏れ出す。
ノエラが小さくつぶやく。
「……なんだろう、これ。“答え”ってより、“データ”の匂いがする」
ダリオはスケッチを止め、そっと言った。
「違うよ。これ、“整理された問い”の光だ」
船長は、ゆっくりとその扉に手をかけながら言った。
「この先にあるものが“答え”だとしても、
我々が向かうのは、“問いを問いとして抱え続けること”――それだけだ」




