秩序の監視者、再び ~アルゴ船団の接近と心理戦~
風の音が止んだ。
それは「風がやんだ」というよりも、“風の存在そのものが抹消された”ような感覚だった。
――その静寂の中、現れたのは、あの艦隊。
アルゴ船団。
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再び、霧を切り裂くように、整然と並ぶ影。
一糸乱れぬ配置、完璧な光の点滅。
それは「整っている」のではない。「整えすぎている」のだ。
全員の背筋に、冷たいものが這い上がった。
マジシーが言う。
「また来たな、整理整頓に取り憑かれた大型棚アリ地獄……!」
ノエラは眉をひそめる。
「さっきの“問いの島の囁き”と、音の周波数がズレた……
……ううん、あれは、島が“嫌がってる音”……かも」
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そのとき、船長の表情が固まる。
「……ヨウツベが来る」
誰も聞いていないのに、それだけ呟いた。
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ブリッジに映し出されたのは、
完璧すぎて逆に人格を失っている笑顔――ヨウツベだった。
「お久しぶりです。再訪問、恐縮です」
と、礼儀正しいウイルスのような口調で語り始める。
「当島は、貴船の航海ログに記録された“目標地”に指定されておりましたので、最適化候補として追加させていただきました。
ビスケット構造体、確認済み。現在、島の“記憶容量”と“問い再生機能”を最適化中です。」
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アンサロップが、ぐっと唇を噛む。
「やめろ……この島は、“問い”の……“魂の記録媒体”だ。
それを最適化するなど――それは、“葬る”ということだ……!」
ヨウツベは、にこりと微笑んだ。
「“最適化”とは、記録の保存を意味します。削除ではありません。
ただし、“非合理な問い”は、情報ノイズとして圧縮処理されます」
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「圧縮ぅぅぅぅぅぅ!?!?」
マジシーが爆発しかけた。
「お前……俺の問いも、“zipファイル”にしてゴミ箱送りにする気かぁぁ!?」
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ポンデンが、静かに言う。
「問いとは、曖昧で、不完全で、解釈が揺れるからこそ価値がある。
それを“完結させようとする”行為そのものが、我々を閉じ込めるのだ……」
ヨウツベの目が、一瞬だけ細くなる。
「それは非効率です。
問いの目的は、答えを得ることではないのですか?」
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ノエラが、かすかにハミングを始めた。
「……ちがう。問いの目的は……“問い続けること”で、誰かと繋がること……」
その声に反応するように、島の石像がまた微かに震えた。
島が……“答え”を拒否している。
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ヨウツベは、すっと微笑みを消し、冷たい声で告げる。
「……それは、未整理情報の氾濫と呼ばれます。
ご希望であれば、“問いフィルター”をかけて差し上げましょう。
すべての問いを、“Yes / No”形式に変換可能です」
「やめろおおおおおおお!!!」
一同が叫ぶ。
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その瞬間、島の奥、巨大な石像がズズンッ……!とわずかに動いた。
ノートンが、すっとペンを止めた。
「これは……島の“起動音”……違う、“自衛プログラム”かもしれない」
ソーラが耳を澄ませる。
「うん……島が、なんか言ってる……“データを、触るな”って……。
あっ、でもちょっとだけ、“プリンがいい”って言ってる気もする」
「それはお前の欲望だろ!!」
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そのときだった。
霧の奥、ひときわ奇妙な影が見えた。
全身仮面、ビスケット模様のローブ。
そして、背中には“割れた円形”の紋章。
その人物は、
言葉ではなく、“問い”の視線を送ってきた――。
「……誰?」
「知らん」
「でも、あいつ、名前が“グロ”って顔してる気がする」
「何その謎の名前分析力!?」
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そして、マスクの男は、ただ一言――
「“問う覚悟”は、あるか?」
それだけを残し、霧の奥に、静かに消えていった。
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ヨウツベの映像も、ノイズと共にフェードアウトしていく。
その最後の声だけが、残った。
「――お望みであれば、
この島ごと、整理して差し上げます」
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全員の背筋に、寒気が走った。
船長が、静かに言う。
「問いとは……
“保存するもの”ではなく、“向き合うもの”だ」
ノートンが、記録を一行だけ記す。
> 『問う者と、整える者――対話、開始。』




