がっかり? それとも始まり? ビスケットじゃない島上陸
「――見えたぞ!!!」
マストの上から、ソーラの声が響き渡る。
「黄金に、キラキラしてる島だよっ!」
「キタァァァァァ!!」
マジシーが工具箱ごと跳ね起きる。
トランフォードはカンパンを丸飲みしかけてむせた。
船長が冷静に分析を口にする。
「ダリオのスケッチ、ノエラの“つまみ食いの歌”、ソーラの光観測――
すべての情報を統合した結果、99.3%の確率で、そこはビスケットである可能性が高い」
「その0.7%は何ですか!?!?」
「心の余白だ」
「こじつけがすごい!!」
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全員の期待が、島に集中した。
空腹という名の幻想フィルターを通せば、岩も木もビスケットに見えてきた。
だが――
船が接岸すると、希望は砂糖のように溶けた。
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見渡す限り、灰色の岩、灰色の砂、灰色の植物。
そして――腐臭。
「……黄金ビスケットって、こんなに絶望的だったか?」
マジシーがしょんぼり。
「いえ、そもそも“黄金ビスケット”なる実在が確認されておりません」
ノートンが冷静に補足。
「トランフォードさん……胃が……胃が今、夢ごとひっくり返ってます……」
ノエラが震える手でプリン風味のどくだみミルクを差し出す。
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そんな空気をぶち破るように、船長が岩場を指差して叫んだ。
「見たまえ、諸君!! あのゴツゴツ感!! あの焼き色!!
あれは……最高級バターをふんだんに使った、“手焼きハード系ビスケット”の表面と完全一致だ!!」
「嘘だぁぁぁぁあああ!!」
「いや、むしろ……疑う理由がどこにある? すべての証拠が“そうであるべきだ”と訴えている!」
「訴えてねぇぇぇ!!!」
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だが――信じたくない現実が、そこに立っていた。
巨大な、石のビスケット像たち。
丸いもの、四角いもの、星型まで。
全部“ビスケット”っぽい形をしているのに、明らかに「食べ物ではない何か」。
しかも、ひとつひとつに……ひび割れがある。
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ポンデンが近づき、指でなぞった。
「……この割れ方。これは……“問い”の構造だ」
「また始まったぞー!」
「このひびは、整合性を壊された記録。おそらく、“情報の断絶”だ。つまりこの島は――記憶の化石だ」
「いや、今俺たち、ビスケット探しに来たんですよね?」
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そして、風が通り抜けたとき――
石像の割れ目から、微かな“囁き”が聞こえた。
ノエラが、耳をすませて呟いた。
「……聞こえる。“問い”が……崩れていく音」
その声に、船長がそっと頷く。
「ビスケットの形をしているものは、ビスケットとは限らない。
だが、“問い”の形は、常に割れやすい……。そして、それこそが“食べごろ”だ」
「食べごろじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
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こうして、クルーたちは“甘くない現実”のなかへと足を踏み出した。
黄金などない。
ビスケットですら、もう怪しい。
でも、「問い」はある。
それだけで、進む理由にはなる――たぶん。




