問いの果てに見えるもの
ヨウツベが去った後、船内に残されたのは、言葉にならない空白だった。
誰もが何かを言いたくて、でも言えず、
何かを叫びたくて、でも叫べなかった。
その静寂の中で、まず動いたのは――
船長だった。
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ブリッジのスクリーンを見つめたまま、彼はぽつりと口を開く。
「……“答え”というのは……便利だな」
ポンデンが、片肘をつきながら静かに反応する。
「ああ。考えなくて済む。
疑わなくて済む。
そして――間違えなくて済む」
「……でも、“問い”は、間違う自由そのものだ。
だからこそ、私は……そっちを選びたい」
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アンサロップが、唇を噛んだ。
視線はずっと下を向いたまま。
「私は……ずっと、“完璧”を信じていた。
でも……完璧な答えは、“誰かが定義した世界”を前提にしないと成立しない。
……それって、なんなんだろうな」
ノエラが、ほんのわずかに微笑んで言った。
「……だから、私は“音”が好き。
言葉にできない感情が、そこには残るから」
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ダリオがスケッチブックを閉じた。
中には、先ほどのヨウツベの映像と――それに微かに滲んだ、自分たちの“歪み”が描かれていた。
「僕たちって、バラバラだけど……その“歪み”が、同じ方向に向かっている気がするんだ。
“黄金ビスケット島(仮)”とか、ね」
「“仮”って言うなぁぁぁぁあ!!!」とマジシーがツッコんだが、その声にもどこか温かみがあった。
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ソーラが、不意に空を見上げながらつぶやいた。
「“問い”って、たまに形を持つ気がする。
でも次の瞬間には、ぜんぜん違う形になってるの。
……なんか、それが好き」
誰もが、彼女の言葉に、何かしらの意味を感じた。
それが何なのかは、誰にも説明できなかったが――それでも、確かに、響いた。
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そして、船長は立ち上がった。
「……方向性は“だいたい東”。
でも、それは“最適解”ではなく、“問いの磁場”が引いてるだけだ」
全員が、わずかに笑った。
トランフォードが、手を挙げて問いかけた。
「殿下……我々はこのまま、“問い”を追うのですか?
それとも、どこかで“答え”に、たどり着くのでしょうか?」
船長は、静かに、しかしはっきりと答えた。
「――“たどり着けないからこそ、進む”。
私は……そう在りたい」
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その言葉は、誰に強制するでもなく、
ただ、船の中心にそっと置かれた“問いの灯”のようだった。
そして、クルーたちは一人ずつ頷いた。
アンサロップは眼鏡を正し、ポンデンは湯飲みに手をかけ、
ノエラは短くハミングを鳴らし、ダリオは新しいページを開いた。
マジシーは意味もなく機械をいじり、トランフォードは、どくだみプリンの温度を再調整した。
ノートンは――一行だけ記した。
> 『第3章・完。
> 航路は定まらず。だが、問いは進行中。』
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こうして、
答えに向かわず、問いに向かって進むという、
あまりにも非合理的な航海は、再び帆を張り、風をつかんだ。
“方向だいたい東”、それで充分だ。




