表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/30

ノートンの記録と沈黙の力

 それは、ビスケット戦争の終結から、ちょうど3.14159時間後のことであった。


 クルーたちがビスケット片と胃痛と自己嫌悪にまみれ、静かに床に倒れ伏す中。

  一人、静かに、まるで“もう一つの航海”を続けている男がいた。


 その名は――ノートン・コーデックス。


 ------


 ノートンは、誰よりも静かで、誰よりも多弁だった。

  ただし、それは“ペンを通してのみ”。


 ------


 ◆Case Study: ノートンの記録(一部抜粋)


 > 『本日15:03、マジシー氏、ビスケット弾頭を半分かじった後、再度発射を検討。味覚評価により中止』

 > 『アンサロップ氏、配分計算に0.001の誤差を発見し、自己嫌悪に沈む。精神被害軽度』

 > 『ノエラ氏、♪ビスケットは~♪のリフレインを無意識に口ずさみ、皆の思考回路を一時停止させる』

 > 『トランフォード氏、プリンの捜索活動を“国家機密”と記して再開。目撃者によると、隠し冷蔵庫を3つ発見済み』

 > 『船長:本節、ノート未記録。なぜなら、彼はまだトイレの中で“プリン消化速度と問いの相関”を考えているため』


 ------


 ノートンの記録は、いつしか船内の空気そのものを映す“鏡”となっていた。

  そして、その「記録」は、ある意味で“問い”そのものだった。


 ------


 ある日、ソーラが聞いた。


「ねぇノートン。記録ってさ、全部正確に残す必要あるの?」


 ノートンは、筆を止めた。

  ほんの一瞬、空気が止まる。


「――“正確”とは誰の視点か」


 それだけ言って、また記録に戻った。


(カッコイイィィィィ!!!)


 ------


 だが、その“静かなる観察者”にも、語られぬ過去があった。


 ポンデンが、ふと呟いた。


「ノートン……昔、言葉を信じなかったんだよな?」


「……」


「すべての記録を信じることは、すべての“誤解”も記録するということだ。

  でも、お前はそれをやってる。“嘘も真実も、騒動も問いも、プリンも”……全部だ」


「……」


 ノートンは、少しだけ、手を止めて言った。


「私は……“失われた言葉”が、いつか誰かの“答え”になるかもしれないと思ってる。

  だから残す。意味がわからなくても。たとえ、それが……」


 そう言って、彼はそっと“殴り書きのようなプリンの絵”を閉じたスケッチ帳に挟んだ。


 ------


 その夜、船長が船室から出てきた。


「……ノートン、記録を見せてくれ」


 ノートンは何も言わず、厚い帳面を差し出す。

  船長は、数ページ読み、静かに呟いた。


「……これが、我々の“航路”か。愚かで、不完全で、だが……愛おしい」


 ------


 船長、トイレからの復活に伴い、次なる言葉を宣言する。


「航海とは、地図に記されない記録の集合体だ。

  それを未来に渡す者こそ、“航海者”と呼ぶにふさわしい」


 ノートンは言わなかった。

  だがその夜の記録には、こうあった。


 > 『船長:フィーリング舵の再評価中。論理と直感の間に揺れる。

 > プリンについての言及:本日ゼロ。大変珍しい。重要記録』


 ------


 こうして、ノートンの記録は――

  問いと混沌の間にある、もう一つの“航海の真実”を照らし出し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ