26.香山譲
桜子の腰に手を回して、前を見る。
「それじゃあ、飛びますよ。」
桜子がそう言うと、僕と桜子を乗せた箒は、ゆっくりと夜空へ上昇した。
先ほどまでいたヘリポートがどんどん小さく見えて、僕は年甲斐もなく興奮して、背中に軽く抱き着くと、がくりと箒が大きく揺れ、
「落ちたくなかったらおとなしくしてて下さい!」
と、耳を赤くしながらも桜子が叫び、僕は残念だなと思いつつ、体を桜子から離した。
エレベーターが開き、僕が乗っているとは全く思っていなかっただろう桜子が、僕を見てぽかんとしてるのは、正直楽しかった。
桜子は知らないだろうけれど、この病院はいわゆるセレブ向けに特化した病院で、一般的な病院ではありえないようなサービスを受けられる。
例えば、患者の部屋は、24時間監視されていて、医療関係者はもちろん、警備や家族もその様子を見ることができる。
桜子が自爆による自殺未遂を行った事件から、もうすぐ4カ月が経つ。
あの時、真名守さんにカラーボールを当てたりした僕たちのファン何人かは、楓を慕っていたスタッフに手引きされて、荷物検査を突破したらしいことが発覚し、該当スタッフもファンも逮捕された。
調べによると、吹き矢や薬品なども鞄から見つかり、爆発も彼女たちが持ち込んだ爆弾により起きたということで、テロ法にも適用されそうで、もう自由に外には出られないだろう。
事件後、桜子を抱いて会場から出て行った僕は、マスコミにその様子をばっちり撮られたが、その後出てきた蛍光塗料まみれの真名守さんやほかの魔法少女を気遣う様子のメンバーの様子も撮られ、Plutoは逃げずに被害者救助を行ったと、世間から大絶賛され、今まで以上に知名度を伸ばすこととなった。
真名守さんが会場で否定したこともあり、楓と真名守さんを批判するほうが悪という風潮が世間的に広まったことで、彼女も安寧を取り戻せたようだ。
そんな忙しい日々を送る中でも、桜子は目を覚ます気配がずっとなかった。
そのため、仕事以外はずっとモニター越しに桜子の様子を眺める生活がずっと続いていた。
家族特権で、入院先病院を決めて、僕はそれを誰にも伝えなかった。魔法少女たちは、連日家に押し掛けて、どうにか知ろうとしていたが、僕は絶対口を開かなかった。
きっと桜子は、目を覚ましたら、最初に他の魔法少女を心配するだろう。
魔法少女たちに再会したら、自爆という方法を取った自分を恥じて、また自殺を試みるかもしれない。それが心配だったのもある。
なによりも、僕と桜子は、魔法少女やメンバー、そして世間や常識といった意見なく二人で一度話し合うべきだと僕は思った。
僕たちには、言葉が足りなすぎるのだ。
そんなことを考えながら、桜子の車いすを押してエレベーターに乗せて、最上階のヘリポートに到着した。
桜子は単純に屋上へ行けると思っていたようだが、今ヘリポートに難なく入れるのも、僕が病院側に手配したからだ。
流石高層階ということもあり、冷たく強い風が吹いている。少し寒そうにくしゃみをした桜子を見て、僕が上に着ていたジャケットを脱いで渡そうとしたら、手で止められた。僕は意固地になって、桜子の手を取り無理矢理着せてしまった。
「ありがとう・・・ございます。」
桜子は、彼女にとって大きいジャケットにすっぽり包まれながら、そう小さく言った。
真夜中のヘリポートで、僕たちは対峙する。
「全部わかってますよね。」
先に口を開いたのは桜子だった。
僕が、分からないから説明して。と返答すると、
「・・・悪趣味。」
と消えそうな声で桜子は呟いた。しかし、それで引く僕ではない、何も言わず、僕はまた桜子をまっすぐ見つめた。
「貴方といるのが辛いです。魔法少女やり続けるのにも疲れました。だから巻き込み覚悟で自爆して自殺することにしました・・・・・でもなんで私今も生きてるんです?」
そう言って、桜子は僕を真正面から見た。
「もう私に生きる意思はありません。あなたも見ましたよね。あんなに大きな怪我しても、私は死ねずに再生するんです。もう私は人間じゃない。害獣と変わらない化け物ですよ。」
だから、死にます。いままでありがとうございました。そう言って、桜子は車いすを回転させて、僕に背を向けようとするので、駆け寄って後ろから車いすの押し手を握り、動けなくした。
桜子は肩をびくりと震わせたが、その後諦めたように背もたれに体を委ねた。
「・・・・・どうぞ。貴方には、その権利があります。」
桜子の言葉にを聞き、その意味を理解した瞬間、頭に血が上り、その場で叫びそうになった。
しかし、僕は大人だ。そして、演技上手の芸能人だ。
後ろから、車いすの車輪を固定し、桜子の前に周りまっすぐ彼女を見る。
じゃあ、最後に、一度箒で空を飛んでみたいんだけど。
僕の言葉に、桜子は固まって、悩み始めた。
体力を言い訳にしようにも、自分で病室から逃げてきた手前、理由にできないのだろう。
少しの間悩んだが、
「分かりました。」
そう小さく答え、桜子はポケットを探り、しまったという顔をしたので、僕は手に持っていた音楽プレイヤーを出して桜子に渡す。
一瞬驚き、懐かしい物を見る目で受け取った桜子は、そのまま目を閉じ、そして、車いすに座ったまま、桜色の魔法少女の姿になった。
その姿勢のまま、箒を出してもらい、僕が桜子を車いすから抱き上げて乗せて、そして、その後ろに僕も跨る。
そして冒頭に戻る。




