32.香山桜子
夢を見ていた。
まずは魔法少女になったころの仲間との日々で、時が流れるにつれて、もうすぐこの人たちは、自ら死を選ぶのだなとわかったけれど、それでも幸せだった。
その次は、ジョーくんが私を、あの何もない日々から連れ出してくれた時で、握られた手の温もりに、とてつもなく幸福を感じていた。
その後は、尚美や明日奈、愛梨たちと一緒に、魔法少女にも変身しないで、学校帰りにアイスを食べている光景だった。
みんな笑っていて、楽しそうで、楽しくて、だからこそ、もう自分は戻れないと分かって、顔を伏せていたら、肩を叩かれて、顔を上げたら、真剣な表情のジョーくんがいて、私に何か言おうとしてでも聞こえなくて、
必死になって叫んだ気がしたが、次の瞬間には、見知らぬ部屋に光景が変わった。
動こうとしても、重しをつけられているかのように体が動かない。
そこで、私は、自分の体にまだ感覚が残っていることに気が付いた。
自分は今ベッドに寝ていて、点滴が打たれている。
しばらく周囲を見回していると、様子を見に来た看護師が、私が目を覚ましたのを見て、医師を呼んだ。
医師からの説明では、私は3ヶ月ほど意識が戻らなかったらしい。私は今、重度の失血と粉砕骨折、しかし驚異的なスピードで骨が再生している。
医師は若干困惑しながら、そう、説明してくれた。
全身が動かなかったのは、ギプスにより固められているからで、それも欠損しなかったほうの腕はもう動かせるほど回復している。
また、死ねなかったのか。
私は小さく呟いた。
今は病室に誰もいない。
私が入院している病室は、普通の病室よりも広いのに、個室で、私一人しかいない。
きっとジョーくんが手配したんだろうなと考える。
意識が戻って数日経ったが、病室を訪ねてくるのは医師と看護師しかいない。病室にテレビはなく、スマホなど私の私物も一切ないので外の状況が全く分からない。
とうとうジョーくんに捨てられたのかと、どこか安心しながら思ったりもしたけれど、看護師に手伝ってもらいながら着替えるパジャマが、どれもパステルチックのかわいいやつなので、提供者が誰か一目でわかり、まだ私は、彼に目をかけてもらえる存在なんだなと、複雑な気持ちになった。
それからまた数日が経ち、まだ歩くまでは行かないが、起き上がれるようにはなり、腕も、片方はあまり感覚がないが、それでも使えるようになってきた。
私は自分の手を自分で握ってみる。
でも残念ながら、ジョーくんに握られたときの暖かさは、自分一人では再現できない
他人の気配とか、存在とか、今まで恐怖でしかなかったが、ジョーくんに握られた手は別だった。
私は臆病で、彼をちゃんと見ていなかったし、話もどこか壁を作っていたところがあったので、記憶から彼の声と顔が消えていっていると自覚している。
でも、彼がくれた温もりは、自分一人では再現できないけれど、泣きたいほど暖かかった。
ずっと包まれていたくて、何よりも欲しいもので、他の人にされたのならここまで思わないと思うけど、彼の暖かさをずっと感じていたいと、強欲になる自分が抑えられそうになかった。
でも、その温もりも、私は、もう手に入れられる人間じゃない。
夜間、巡回が一番長く来なくなる時間。私は、自由になった腕の力だけで体を引きずり這うようにして進んで、部屋の隅に置かれた車いすまで辿り着いて、なんとかロックを解除して開き、何回か転びながらも、乗り込むことに成功した。
転んだ時に、ガシャンガシャンと大きな音を立てたかと焦ったけれど、人が来る気配はないので大丈夫だったのだろう。
そのまま私は、夜間でも動いているエレベーターを探す。
本当は外に出たいので下に行きたいけれど、不可能だろう。
バレないようにナースステーションの前を通り、エレベーターのモーターが動く音を耳にして、やっと目的のエレベーターを見つける。
階数ランプは点滅しながら、下の階からこちらに上ってきてるようなので、誰か夜のお散歩か、それとも病院職員か。もし聞かれたらお腹空いたのでコンビニ行きたいとでも誤魔化そう。
そんなことを考えていると、エレベーターは、私のいる階にたどり着き、ドアが開いた。
「今晩は。夜の散歩なら僕も連れて行ってよ。」
エレベーターの中には、まるでドラマのワンシーンから出てきたようなジョーくんが、全てを見通したような表情の読めない微笑みを浮かべて、静かに立っていた。




