25.香山譲
他の全ての感覚を無視しながら、僕はひたすらに瓦礫を持ち上げては、よけて、一帯を探し回った。
爆発は、確かに衝撃的だったが、会場の建物が壊れるほどではなく、ホールの扉も傷がついたくらいだ。
つまり、火力はそこまで高いはずではない。
今朝、スマホアプリから、リビングに設置した防犯カメラでいつも通りに登校準備する桜子を見ていた僕は、桜子が手にしていたパイプを見て、彼女が何をするつもりなのか予想してしまった。
すぐに真名守さんに電話を掛けると、なかなか出てくれない。ラインに桜子について緊急とだけ送ると、既読が付いてすぐに真名守から電話がかかってきた。
「何?妊娠させたから堕ろす説得協力してとかなら、あたしがあんたを殺すけど」
嫌悪感を隠さず、暴言まで吐いてくるようになった真名守さん。
僕は、いずれはそうなるけどちゃんと生んでもらうからと返し、舌打ちして電話を切りそうになった真名守さんに、僕が見たものと、予想した可能性について伝えると。十分起こりえると真名守さんも判断したのか、小さく唸り声をあげた。
「桜子はあなたを神格化しすぎてて、自分を下だと思いすぎているから。そうなると、思いつめた結果、自分から消える可能性もあるわね。桜子の望みはもう叶っていると本人思ってて、未練がないような状況だし。」
真名守さんの言葉に、強く頷く。
「尚美と明日奈に、時間停止で爆弾を盗めないか相談する。でも、桜子は2人の能力も手の打ちも分かってるだろうから、絶対盗られないように対策してるはず。期待はしないで」
真名守さんから返ってきた言葉に、僕はもうちょっとがんばれないかと強く言ってしまう。桜子の命が掛かってるんだからと言うと、
「そうしたい気持ちはこっちのほうが強いわよ!でも、桜子にとっての自分の幸せかどうかは、全てあなた基準なんだからしょうがないでしょ!!私たちが必死で止めたとしても死ぬのを思いとどまってくれないのよ!!!」
と、真名守さんは突然大声で言い捨てた。
「だから、止めたいならあなたが行動して。」
そう言って真名守さんは、通話を一方的に終了した。
そして、現在に至る。
僕はあれから、桜子に何を言っていいのか分からず、何も言えないまま撮影の本番を迎え、そして最悪の事態が起きてしまった。
今は落ち込んでいられないと、とにかく桜子を探しているが、それも、事前に防げなかった責任から逃げたいだけかもしれない。
ふと、椅子と椅子の前後の間のスペースに、大きな塊があるのを見つけて、僕は駆け寄る。
飛んできた荷物などが埋もれて積み重なっただけにも見えるが、僕は不思議と嫌な予感がして。当たらないでくれよと思いながら積み重なった瓦礫を除けて行った。
そして、現れたのは、人間の頭部。見たこともないような鮮やかなピンク色の髪の毛が、乱れて振り乱されていた。
そのまま体を引っ張ろうと肩口を抱えて軽く引いた瞬間、思ったより軽い感触で体全体が飛び出てきて、僕は尻もちを打った。
思わず目をつぶって、そして開けてその人体を見た時、僕は悲鳴を抑えられなかった。
引き抜いた体は、胴体部分から下が無く、腕も両方手首から先がきれいに吹き飛び、両肘はありえない方向に曲がっている。
顔を確認すると、魔法少女状態だが、確かに桜子だと、分かってしまい。僕はその場にへたり込んでしまった。
嘘だろう、本当に死んでしまったのか。
何も考えられずに、僕はただ、桜子の体を抱きしめていた。
その時、僕から桜子の体を引き離そうとする手が伸びてきた。
僕は相手も確認せず、拒み、ただ桜子の体を抱き続けていたが、
「そのまま殺したいの!!?」
という声に顔を上げた。
目の前には真名守さんが、顔の塗料もぬぐわずに、立っていた。上空には、魔法少女姿の二人もいて、なにやら旋回しながら飛んでいる。
どういうことなのかと、真名守さんを見ると、僕から桜子の体を奪い取り、瓦礫のない近くの広いスペースに寝かせる。
そして真名守さんが手にしていたのは、手袋をした人間の手、間違えない、きっと桜子の手だ。
「粉砕してたら面倒だったけど、形状が残っててよかった」
真名守さんはそう呟きながら、断面同士を合わせて、包帯のようなもので固定する。
すると、断面から、黒く粘り気のある液体があふれ出てきた。
これは、もしかすると、再生しているのだろうか
「本当に人間じゃないんだね」
別方向から聞こえたほうに振り向くと、そこにはPlutoのメンバーが、目の前に起きていることを信じられないように見つめる光景があった。
嫌悪感を隠せず、怯えたような表情で桜子を見るメンバーの視線に耐えられなくなり、
人間だよ!!!生きてるんだよ!!!!
僕は思わず、叫んでしまった。
メンバーは、突然叫んだ僕に困惑しているようだが、僕は無視して真名守さんに指示を仰ぐ。
「今三人で足を探してる。再生に時間が掛かると、それだけ体力も魔力も消費する上に、再生にも膨大な魔力がかかるから、それに体が耐え切れない場合もある・・・」
真名守さんの説明を最後まで聞かず、僕は足を探しにまた別の場所に走り出す。
「ちょっと!最後まで聞いて!!粉砕されて原型残ってない場合もあるからそしたら破片だけでも・・・・・。」
真名守さんの言葉に、手を上げて了解の意志を示し、僕はまた捜索に戻る。
何より桜子は、意識がないはずなのに、まだ変身が解けず、身体再生も行えている。
桜子はまだ、生きたいはずなんだ。
僕はそれを確信しながら、とにかくがむしゃらに探したが、
「譲さん!爆心地から計算して、そっちの方向には多分飛んでないと思います!!」
その声に顔を上げると、飛馬が方向を指示して、メンバーがそっちで皆捜索していた。
「譲くん。探している人の特徴は持ってない?」
駆け寄ってきたハリー言葉を聞いて、僕は以前一回だけ目の前で変身してもらった時の写真をスマホに表示して皆に見せる。
「ほんっとサイテー!」
真名守さんが写真を見て吐き捨てるように言った。
それを聞いたハリーが、真名守さんの名前を呼び、しっかりと目を見る。
「確かに俺たち最低だった。危険を冒してる君たちを見ないふりしてた。これからは、もう見ないふりしないよ。だから、僕たちも仲間にしてくれる?」
ハリーの言葉に、真名守さんは虚を突かれたように固まったが、
「そんな話はどうでもいいから、とにかく桜子の足!足探して!!」
と指示を出して、また全員捜索に戻る。
一気に人数が増えたこともあり、砕けてバラバラになってた部分はあったが、足を全て探し出し、包帯を巻きつけて、桜子の体は全て元通りの形にはなった。
体がつながったからか、変身が解けて、元の姿に戻る桜子。
不思議なことに、腕や足の欠損は見当たらず、爆風の傷や、結合した関節部分が再生しきってない怪我となってはいるが、先ほどの爆風で体が吹き飛んでいた状況から考えると、危機は脱せたようだ。
その頃になって、戻ってこない僕たちを探しに、マネージャーやスタッフが会場内に入ってきた、そして、重症の桜子を見て、救急車を手配してくれる。
飛馬がマネに、真名守さんが心配になり捜索に来たのと、重症者の介抱をしていたからと説明して、怪しまれずに受け入れてもらえた。
その後すぐ、救急車の到着を知らされて、スタッフが担架を探しに行ったが、僕は待てずに、桜子を抱えて、魔法少女たちに扉を開けてもらう。
「!ダメです譲さんそのまま外でちゃ!!」
とっさの飛馬の叫びも無視して、会場外に出ると、そこには避難したファンと野次馬、そして駆け付けたマスコミで溢れていた。
僕は、抱えた桜子の顔を自分の方に伏せさせた。
顔を上げて前を見て、一斉に浴びせられるシャッター音もフラッシュも気にせず、僕は待機している救急車に向かって歩き、そして救急隊員に桜子を預けると、自分も同乗すると伝える。
「失礼ですがご家族様は・・・」
病院を探す救急隊員にそう聞かれて、
はい、家族です。僕が夫です。
そう、僕は迷わずに答えた。




