30.香山桜子
朝起きて、鏡を見る。目立つ大きいニキビにも、もう気分は落ちない。
リビングルームには、昨日ジョーくんが買ってきたダッチベイビーはもう無く、代わりに置かれていたメモには、
「今日焼きたて買って帰るから食べよう(´・ω・)」
といつも通りの良く分からない彼のキャラとメッセージが書かれていた。
昨日買ってきたものを残しておいてくれれば、今朝温め直して食べたのにと、知ることのできなかった食べ物の味に少しだけ理不尽に怒ってみる。
そのまま朝食を食べて、鞄を持ち上げた時、重さで忘れ物に気づいて、リビングに鞄を置いたまま部屋に戻り、ベッド下にしまわれた複数の太いパイプを、振らないように静かに取り出し、鞄の中でもぶつかり合わないように梱包して、鞄に詰め込む。
慌てているのか、手から一本転がり落ちてしまったが、リビングの床に落ちる前にキャッチできた。
ほっとしてそのまま鞄を持ち、玄関に向かう。
爆弾を作るのは、これが初めてではない。
私が最初に魔法少女になった時、お世話になった先輩たちは、魔法武器を持たない魔法少女も多かった。
都会ではなく武器も調達できなかったので、自作で爆弾を作り、応戦する方法しかない魔法少女たちから、知っていて損はないとその作り方を教わったことが、今回生かせたことに、もう最初からいなかったことになった彼女たちに感謝を、心の中だけだが贈る。
鞄に注意を向けながら通学路を歩いていると、後ろから声を掛けられて、振り向くと尚美と明日奈だった。私に駆け寄ってきて鞄にぶつかりそうになった明日奈に、思わず、
危ない!
と大声を出してしまった。慌てて謝るが、困惑した2人の表情に申し訳なくなり、日直があるので先に学校に向かうと、いつもならありえないことを言って一人で歩き出してしまう。
それから1日、体育や移動教室の無い日だったので運が良かったが、私は自分の席から離れずに、ずっと授業を聞いていた。隣の席の愛梨は、学校命令で自宅学習なので、私の事情を知る人は教室にはいない。お昼の時間も、用事があると言って二人とは食べずに、なんとか放課後まで過ごせた。
終業の挨拶を終えて、ほっとして立ち上がると、教室から出てすぐのところに二人が立っていて、その不安げな目に、罪悪感しか感じられず、とにかく必死に謝った。
「私達もすみませんでした。愛梨の事、桜子さん一人に任せてあいつらに苦情を言ってもらってしまったので・・・。ごめんなさい、喧嘩になってしまったんですよね、必要なら、私達が事情説明をジョーさんに行いますから・・・」
尚美たちは、愛梨の件でのPlutoへの怒りを私一人にぶつけさせたことで、私とジョーくんに亀裂が走ったことを謝ってくれている。何も悪くないのに。
思えば、こんなに事態を複雑にさせたのは、私がジョーくんとかかわりがあったからで、もし二人が私と出会って仲間にしなければ、今もただ強い「クリスマスの双子」として夜の街を駆けていただけだっただろうし、愛梨も、普通にPlutoメンバーと軋轢なく仕事が出来ていただろう。
結局全て、私が悪いのだ。不相応な願いを望んだ私が。
そんなことを考えていたら、ライブ会場のある駅へと到着し、期待と希望に目を輝かせるファンとともに歩いて会場に向かう。
今回は、Pluto全メンバーが主役のドラマのライブシーンの撮影で、ヒロインの友人役の愛梨も出演者として観客席からヒロインと共にライブを応援するシーンを撮影する予定だ。
観客は、Plutoファンクラブから抽選で選ばれたファンたちで、最悪のタイミングだが、予定は変えられなかったので、それでもきちんと仕事はする愛梨は、やっぱりすごいし尊敬する。とても強い人間だ。
いつも通り、関係者パスを使って控室エリアに入り、愛梨の控室にノックして入る。
何やら打ち合わせしていた愛梨は、それが終わってから顔を上げて、満面の笑みで迎えてくれた。
「完全アウェーだけど、どーすんの?」
茶化すような尚美の言葉にも、
「台本通りに仕事するだけよ」
と軽口とともに返す愛梨。なんとか元気なようで安心した。
私はほっとして鞄の中から配布物やノートを出す。自宅学習とはいえ、授業の進行状況を知っておきたいという愛梨の望みだ。
取り出すときに、鞄から包みが見えそうになって、すぐにファスナーをを閉める。様子を窺うように愛梨の方向を見たが、尚美に差し入れのお菓子を渡していたのかで、幸いな事に愛梨は見ていなかったようで、私がそれらを渡したら喜んでくれただけだった。
その後スタッフが愛梨を呼びに来て、一足先に会場に向かう愛梨。
不安を隠せない私たちに、
「大丈夫。帰りは一緒に帰ろうね。」
と気丈に微笑み、私に視線を合わせて、そして控室から出て行った。
そして誰もいないことを確認した後、私たちは更衣スペースに入って武装する。
私は尚美と明日奈に、スタッフの見回りをして、害獣発生源がいないか確認すると言って、先に行ってもらう。
確かにそれも行おうとは思っているが、私は誰もいなくなった控室で、鞄から包みを取り出す。
ゆっくりと包みを開け、出てきた複数のパイプを、自分の武装のスカート部分に等間隔に配置する。
いつも自分の魔法少女姿の、動きにくく似合わない桜色のこの衣装が大嫌いだったが、最後は役に立ったなと感心する。
そういえば、会場到着の連絡してなかったなと、スマホを取り出し、グループラインに書き込む。もちろん既読はつかない。今頃は本番前でスマホなんか持っていないはずなので。
ふと、魔が差したのだろう。私はジョーくんとのラインに、ハートを持った彼のオリジナルキャラのスタンプだけを送信した。
あとから何とでも取れる、そんなメッセージだ。
私はそれに満足して、スマホを鞄にしまい。控室から出て会場に向かった。




