23.香山譲
自慢ではないが、僕は仕事以外で告白というものをしたことがない。
この恵まれた顔で生まれてから、僕が欲しい、僕に一番に愛して欲しいと求めてくる女の子は途切れず常にいたので、僕はその中からできるだけ顔が良いとか、めんどくさくなさそうとか、呼んだらすぐ来てくれそうとか、そんな即物的な理由で選び。面倒臭くなったら別れるか、相手が関係性に音を上げるかのどちらか、それが今までの僕の恋愛だった。
だから、初めてだった。誰かといたいとか、誰かに自分だけ見てほしいという気持ちは。例え洗脳により作られたものだとしても、僕は今まで自分が持てなかった感情を持つことができて、感謝の気持ちのほうが大きかったくらいだ。
でも、僕を一番に望んだはずのその少女は、僕を拒絶して、他の人間の事ばかり考えて、他の人間の為に怒る。最悪な話だとは思わないか。
「譲くん、まさか前半部分もそのまま言ってないよね。」
横に座っていたハリーが、呆れた顔で僕を見ながら言った。
今僕たちは、レッスンルームでダンスの練習が終わった後だ。
今日の練習は散々で、ハリーが本気で僕を殴りそうなオーラまで見えたが、最後はきちんと形にできた。
しかし、
「この出来でステージに出られたら、僕たち全員の顔に泥塗るようなものだから。」
とハリーに事情説明を求められ、今に至る。
あの後、元々すぐ寮に帰らなければいけないスケジュール(飛馬の寝起きドッキリの撮影があって全員帰宅していなければいけない状況だった)だったため、簡潔にメモだけ残してとんぼ返りしてきた僕だ。
確かに真名守さんに起こりうることは十分想定できたことで、しかし今まで、女性側とその後関わることがなかった(みんな芸能界辞めるか売れなくなるか)から、僕たちは深く考えていなかったのだ。
今までは自分たちのことだけ考えてきたが、今回真名守さんは魔法少女として僕たち側の人間になっていたということを失念していたのだ。
意図的に利用だけして、しかし見たくないものとして無視しているのが、Pluto側の魔法少女への認識と対応で、連絡などコミュニケーション手段も、桜子とメンバーを近づけたくない僕が遮断したので、それが悪い方向に向かった一因であるとは思った。まあ、話せたからといって、それで何か変わるとは思えないけどね、昨晩の僕と桜子みたいなことになるとしか思えないし。
「俺が付き合った魔法少女のこと、何も記憶にないけど。それと比べても、miaちゃんたちは強い魔法少女だってことはわかったよ。あのモンスター達との戦いで連戦連勝、負傷しても絶対倒す気迫は彼女たちが持つ強さだね。他の魔法少女なら今頃もう消えてるんじゃないかな」
ハリーがしみじみ言ったことに僕も同意する。
僕以外のメンバーは、すぐ消えるだろうという軽い気持ちで彼女たちに共闘を持ちかけたが、桜子たちは強かった。4人の中でも特に、大鎌を操り負傷を恐れない、なんだか生き急いでるような、そんな戦い方をする桜子の強さが群を抜いているのは、ステージから見た僕も、認めたくないけれど美しいとさえ思った。真名守さんたちが懐くのも理解できる。
「でも今日のステージは来てくれるんでしょ?パス受け取ったわけだし」
ハリーの問いかけに頷く僕。それを見てハリーはまた言葉を続ける。
「ならこれまでと変わらないよ。これからもこういうことが起きるだろうけどいつも通り変わらず続くだけだよ。」
ハリーはきっと、僕を励ましてくれたいるのだろうけれど、昨日の事、認識の違いを解決せずに続けてしまったら、壊れてもう二度と戻らないそんな予感がするのだ。
「じゃあ譲くん。そういう話題作りしないでこれから僕たちやってくの?。譲くんの今いる彼女セフレ枕接待の子、本命予備関係なくみんなと別れる?」
ハリーから聞こえたあけすけな言葉に、思わずハリーの顔をまじまじと見つめてしまう。
ハリーは確か、桜子より一つ下の年齢のはずだが、その顔つきは、出会った頃の子供らしさから脱却しつつある。
彼も芸能人である故に、若いが異性関係には奔放な面もあると楓に聞いていたが、それでも、彼の年齢で出会う恋は、僕の日々処理するような男女関係からかけ離れていて欲しいという思いが、僕の中に勝手にあったとは思う。
飛馬の言葉を思い出す。彼は、ハリーももう覚悟が決まっていると言って、僕に無理しなくていいと気遣ってくれていたが、僕がやらないと僕以外がヤるだけではないのだろうか。
僕が何も答えられず、ただ見つめていると、ハリーは少し失望したような目をして、先に上がるとレッスンルームから出て行った。
僕はハリーの言葉と態度を反芻させながら、立てずにいた。
仮に僕が接待をやめたとして、他メンバーがやるようになったら、本格的に僕の居場所はこのグループから無くなるのではないか。だってそうだろう、僕にそれ以外何ができる?今までダンスでお荷物と言われ続けた僕に。
横に置いてあった水を飲み込み、頭を冷やす。
桜子について悩んでいるこんな時まで、最終的に考えるのは自分の保身で、僕自身の身勝手さに自分でも反吐が出る。桜子は洗脳して僕を自分に惚れさせたことを自身の醜い部分だと呪っているように見えるが、僕もこのザマなので、桜子が思うほど正しいわけではないのだ。
なんだ、僕たち似た者同士じゃないか。そう考えるとポジティブな気持ちに戻れた気がして、スマホを取り出し、時間の確認ついでに、日課となったGPS確認のアプリを立ち上げる。
その後、出てきた画面を見て、僕は真名守さんに連絡をすることになる。




