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22.香山譲

「初めて見るわけでもないですけど、本当にすっごいですねー。」


舞台袖でそう話す飛馬に、僕は返事もせずに空を見上げる。

客席上空、赤い魔法少女が周囲を見回し、何やら叫んでいる。内容は残念ながら舞台上のミュージシャンの曲によってかき消されているが、きっと害獣の場所を上から探して指示しているのだろう。



魔法少女に害獣退治を依頼してしばらく経った。

今僕たちがいるのは、CMを担当している企業主催のミュージックフェスで、確実に害獣が発生するとみて魔法少女達を呼んで、予想通り発生した害獣に今対応してもらっている最中だ。



桜子と僕を代表とした、Plutoと魔法少女の話し合いで、常に付き添わずに学校がないときの仕事のみ同行する事、交通費など諸経費はこちらが負担する(メンバー全員折半で話がついた)など、色々細かな取り決めがまとまり、回数は少ないが、今まで何度かこうやって仕事に同行してもらっている。


共闘といっても、桜子たちは場所を知らされ、チケットや関係者パスを入手した後は、最初から会場にいて別行動なので、僕たちには、視界に出た化け物に惑わされないという利点しかない。

グループラインに全員の連絡先が載ったので、話そうと思えばできるが、全体への連絡を僕か桜子がする以外は会話の形跡は一切ない。


まあ初対面の印象が最悪だったからしょうがないと、僕は諦めている。

真名守さんとはその後共演の仕事が増えてきているが、初対面の時以上に警戒されて、仕事中以外は完全に無視されている。それでもとびおは食事に誘い、真名守さんは本性の流出を恐れて従っているようだが、一切会話をしないし食べないでずっと下を向いていると、とびおが嘆いていた。


今日のフェスも真名守さんはゲストとして呼ばれているが、今は出番ではないからと戦闘に参加しているようだ。今も、緑の魔法少女の箒の後ろに乗り全速力で移動した後、手に現れた拳銃で二匹とも打ち抜いてヘドロ状になったのを確認し、また別の場所に飛んでいく。


「俺たちも出番ですよ」

隣の飛馬の声に気が付いて、僕もメンバーの後に続いてステージに登場する。

一気に流れこむ歓声、きっと今日一番だ。興奮した観客が通路に出ようとして、走ってきた桜子とちょうどぶつかる。桜子は転んで顔をしかめたが、観客は見えていないので不思議そうな顔をして止まっただけだ。そしてまた出ようとしてスタッフに注意されていた。


「配置」

と耳元にハリーの声が聞こえて、曲の準備に入らないといけないと慌てて動く。

そして曲がスタートするが、やはり僕の意識は客席の魔法少女達に奪われていて、でも、体に染みつくくらい練習したダンスは間違えずに踊れている。

我ながら器用なものだと自分自身感心して、横で踊るメンバーをちらりと見てみる。

彼らはもちろん、魔法少女達や害獣に眉一つ動かさない。プロ意識の高さに尊敬するべきか、鈍った感覚に恐怖したほうが良いのか、でも、芸能界、いや、大人になって生きていくのって、感覚をどれだけ鈍らせるかてところあるよなとか、そんなことを考えているうちに、ステージは無事終了した。


歓声が鳴りやまない中、戦闘終了したのか、上空の魔法少女に合図を送る桜子を見つけた。

目が合って、僕は微笑み投げキッスを贈る。

しかし桜子は、ふいと顔を逸らして、魔法少女達と合流してそのまま会場外に消えてしまった。

見えていなかったのかなと思いながら控室に戻ると、

「譲くん。今日全然集中できてなかった。間違えなかったけど、できるからってそれでいいと思わないで、お客さんはわかるよ。」

とハリーに駄目出しされてしまい、重ねて落ち込むことになった。

「譲さんは害獣がいる視界にまだ慣れていないし、俺も魔法少女がいる景色にびっくりしてるとこあるんで気にしなくていいですよ」

そう励ましてくれたのは楓だ。いいなあ、僕もお前くらいクールになりたいよと冗談めかして言うと、

「・・・この中で一番クールなのは譲さんだと思いますよ」

と静かに言われて、その後は疲れたのか、移動車の中でも何も言わなかった。


僕がスマホを確認しすると、桜子からの報告がグループラインに上がっていた。

「怪我人なし。全員このまま帰ります」

その報告に了解のスタンプを送る。

そして桜子にのみお疲れの挨拶と、この後どこかで食事でもしないかと送ると、

「今日は愛梨もこれで仕事終わりなので、全員で食事して帰ります。」

と拒否の返事を送られてしまった。


僕は座席に頭をつけて、考え込む。

桜子の秘密を知って、それを共有したことで、僕と彼女の間には、深い溝が出来てしまったようだ。

初めて会ってから秘密を知るまでの桜子は、確かに壁を感じるところもあったが、幸福そうに笑うときもあった。ここ最近は、桜子も笑顔の回数が増えたと思う。しかし、その笑顔は上辺だけのものだと僕は断言できる。一応芸能人で表情のプロだからね。

一見多くの事を話すようになり、親密になれた気がしていたが、むしろはっきりとした壁ができてしまった事に、僕は悲しみ悩んでいる。以前だったらこんな感情出てきたはずなかったけどね。




僕たちはお互い愛し合ってるはずだ、でも、めでたしめでたしで暮らせているとは思えない。


ハッピーエンドを拒否しているのだろうか、僕か、桜子か、あるいはどちらもか。


そんなことをぼーっと考えていると、マネから説明があると言われて思考を戻す。


「前から決まっていた楓とmiaさんの交際発覚写真が明日出ることになったから、インタビュー内容考えとけよ」


そのマネの説明に、メンバーは返事を一応返す。どうせ楓の本命は飛馬とか、とびおあたりが自分を捨てたのかと三文芝居するかのいつも通りだろう。




僕たちの中ではそれでいつも終わっていたから気が付かなかった。女性側に起きる事、そしてそれは桜子にも直面することに。

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