28.香山桜子
次の日私が目覚めたのはもう昼近くで、当然ジョーくんはいなかった。ぼやけた意識の中、リビングのテーブルにたどり着くと、メモが置いてあった。
「おはよう、昨日はお疲れ様。今日は帰れないけど夜にまた電話するから、今日は魔法少女活動行かないでね」
メモには、ジョーくんがサインを書くときに使うキャラが書かれていて、これ普段でも書くんだなあの人とよくわからない感動をした。
しかし、薬効期限を把握されてるから、まだ日数に余裕があることを知られていて、行動を制限することも可能である事実に、苦い思いを抱く。尚美たちの手伝いに行きたいというケースの場合でも、ジョーくんにとってはどうでもよい存在なので、却下ということか。
昨日の事さえなければ、私だけに向けられた感情に喜んでたかもしれないけれど、もう私の意志は変化してしまっている。
今日は休日なので、そのまま朝昼兼ねたご飯を適当に作り、リビングで食べて、いつも通りジャージに着替え、近所を少し走る。
マンションがあるのは、頑張れば自転車でも渋谷にいけるという恵まれた土地ながら、自然も多く過ごしやすい。普通のスーパーも見つけたので色々買い物もしたりして過ごすのが、ここ最近の私の休日の過ごし方だ。
ジョーくんの仕事は休みの日が決まっていない上、その休みもほぼ無い。前に突然のオフが出来た時には、
「今すぐ早退して学校からタクシー乗ってディズニー来て('ω')ノ」
と堂々としすぎなサボりのお誘いが来たが、それを見た愛梨がジョーくんに電話して、
「出席日数の大切さを知らないからあんたはそんなこと言えるのよ!!!」
と私の代わりに断ってくれた。
ジョーくんの芸能界デビューは大学卒業近くだったから、普通に学校に通えていたのでそこの感覚がわからないのだろう。他メンバーもそんな感じでサボってるのかもしれないけれど。
休日の街は、みな一日外に出たくないからか、思ったよりも人が少なくて走りやすい。
私は、いつものコース上にある、大学のキャンパス内に入る。ここは、大学敷地内だけれど近所の住民にも公園として親しまれている。休日なので学生は少ないはずだが、今日は人だかりができているようだ。
遠目で見ると、何かの撮影なのかおしゃれな制服を着た美男美女が、カメラや多くのスタッフに囲まれている。なんとなく見ていた私だったが、その中で一際目立つイケメンに既視感があり、目を逸らす。
慌ててその場から走り去る私だが、そこから少しも移動しないうちにスマホが振動する。
画面に表示された名前を見て、出たくはなかったが、なかなか切れないので諦めて通話ボタンを押す。
「次出なかったら直接行こうかと思ったよ。」
通話口から聞こえる声に背筋が凍るが、最悪の事態は免れたようだ。
彼、PlutoのGはそのまま話を続ける。
「昨日は突然ごめんねー。あの後みんなで話し合ったけど、確かに急な話すぎたとは思ったよーそっちの仲間に、けが人出てたわけだし。」
軽い口調で続けるGに、仕事中に通話して大丈夫なのかと聞くと、
「今俺のシーンじゃないところ撮ってるから休憩」
と返されて、まだ会話を続けないといけないとわかりため息しかでない。
諦めて用事を聞く、魔法少女関連の事は、今日の夜にジョーさんと話し合うし、その前に午後にでも尚美たちには連絡を取ろうと思っているのでまだ決まっていないと正直に説明した。
「違うよー。俺は個人的に君に興味あるんだー。事務所に反抗なんてしたことないゆずるんがそんなに一緒にいたがる子ってどんな子なんだろうってー」
みんな気になってるんだーでもゆずるん、君のこと誰にも話そうとしないからさー。
と電話口で話し続けるGに、何も話せることはないと返す。ジョーくんが自分に執着してるのは洗脳による結果でしかない事はG含め経験者なメンバーたちは分かってるはずだろうと私が首をかしげていると。
「ねぇ。なんで俺たちが魔法少女に洗脳されても、今まで問題にならなかったと思う?」
Gは突然そう話し出した。
「俺たちに惚れて洗脳して彼氏にしようとしてきた魔法少女は今まで沢山いたよ。もう誰もその正確な数は覚えていない。なぜかって?魔法少女だからって俺達に群がる女達と何も変わらない」
「特殊な力を持ってても、結局はただのイケメンに惚れる頭の悪い女てだけ。しかも、顔も若さも芸能界やその繋がり女以下。俺たちって、来るもの拒まず去る者追わずで、それでもいいって子としか遊ばないから」
「だから、恋人になってもその子だけなんて扱いしないからさ。、勝手にショック受けて消えていくんだよね。そんな何のとりえもない子たち」
「だから今回、ゆずるんが今のところ、仕事上必要なの女の人と寝る以外は君のところしか行かないのすっごく意外でさー。」
淡々と話すGの内容に、私はそのまま道の真ん中に立ち止まり動けなくなる。
分かってはいたのだ、彼らは自分たちに好意を向ける女性を性欲処理か仕事として利用する以外ないということを。
でもジョーくんはそれを言葉にも態度にも極力出さなかった。出しても昨日の写真に嫉妬してという否定を含めたかわいいものでしかなかったから。
昨日の彼らに感じた確信を裏付けるような言葉の数々に、逆に頭が冷えていく。
私は、Gの話が終わったとみられる地点で、別れてほしいですか、と淡々と口にした。
「だーかーらー。そういうのじゃないてばー。ただ本当にわかんないだけでー。」
Gの口調は、事実を言っているだけで、心の底からわからないだけなのだろう。
もう一生、この人たちにはわからないのだろうな。
私はそう思ったが、口には出さなかった。きっと言われてもわからないだろうから。
心配しなくても、害獣と戦ううちに魔法少女は消えますよ。
私は事実だけを、淡々と告げた。
「ちょっとー。それって俺らが君たちに死んでほしいて思ってるてことじゃん!!」
電話口からGの抗議の声が聞こえたが、撮影始まりますというスタッフの声も聞こえてきて、私は、話は終わりですねと言って通話を切った。
その後家に帰るまでスマホは鳴らず、撮影に入って忘れてくれたのだろうと安心する。それならば、ジョーくんにもこのことは話さなくて済む。
シャワーを浴びて、自分の長くうねった髪や、どう見てもかわいくない顔や、胸は小さいのに太い腕足を見た。何一つ魅力などない体、印象にも残らない。
でも、それが引きちぎれて飛び散り、体内の臓器がすべてはじけて、そこから出た血液がジョーくんに浴びせられれば、忘れたくても忘れられない。
私は考えたことを頭から振り払うように顔を上げたが、鏡に映る私の口元は、はっきりと笑っていた。




