27.香山桜子
「お断りします。帰ってください。」
突然現れたPluto5人。動揺した私たちに、彼らが告げたのは、正体を知っているという事実と共同戦線の提案・・・と言えば聞こえがいいが実質は個人情報を握られて脅され利用されるということだとは、私達全員理解できた。
最初に口を開いたのは愛梨で、ジョーくんに見せるような態度を隠さず、事情を話したメンバー全員を睨みつけている。
「悪い話じゃないだろ?結局あんた達はあれと戦い続けなければいけないわけなんだし、俺たちはあれを見たくない。」
そう話すピッピさんに、
「今までできてたのならこれからもできますよね?」
と愛梨は話をすぐさま切り捨てた。
「今具合の悪い子がいるんです。大勢で話せる状況ではありませんよね?」
そう言って立ち上がった愛梨は、5人を帰そうとするが、
「へぇ。miaちゃんて、先輩に対してそんなに態度が悪い子だったんだー」
と、Gくんが笑顔でスマホを見せ、いつの間にか撮っていた動画を流したのを見て、表情を凍り付かせ、動けなくなった。
私は周囲を見回す。尚美と明日奈は怯えて黙りこんでいる。メンバーは皆、なぜこの提案が断られるかわからないといった表情だ。ジョーくん以外は。
ジョーくんだけは、その恐ろしいほど整った顔面を全く動かさず、何も言わずに流れを見守っている。
一瞬、どうして助けてくれないのかと怒りが沸いたが、彼にとっては私より長い付き合いになるPlutoメンバーの方を味方するのは当然の事なんだと気づいてしまう。
「・・・・・この子たちが戦ってるの見て、それでそんな都合よく使おうとする人間のことなんか信用できるわけないじゃない。」
愛梨が絞り出すように言い切った言葉で、私は意識を戻す。
ジョーくん以外のメンバーは洗脳による恋愛の経験者で、相手の魔法少女の事を忘れていると話していた。ある日、いつの間にか思い出せなくなったという話から想像するに、その魔法少女達が消えたのは、愛する人の目の前ではなかった可能性が高い。
つまり、私が死んだら、結局ジョーくんは彼らと同じになるだけだ。
愛した人の記憶も消え、それを悲しむこともなく、目に映る非日常を迷惑行為としか捉えないほど麻痺した感情。ジョーくん以外皆そうなら、ジョーくんも必ずそうなるんだ。
思わず泣きたくなった。でも、不思議と、私の顔の形は微笑みを浮かべていることが、自分自身分かる。
ジョーくんの顔をまた見て、そして、ポケットの中にある桜のピンを無意識に触る。
こんな現実に気が付いても、私はやっぱり彼がどうしようもなく好きだ。
でも、愛梨達を守らなければいけない。
私は立ち上がり、ピッピさんの前に出る。
驚く彼に、自己紹介と、提案を受け入れる旨を伝える。
横から愛梨の驚く声が聞こえた。細かな条件を相談したいと、ラインの交換をして、そして今度こそ5人には医務室から出ていってもらう。
去り際に、ジョーくんの不審げな視線が絡みついていたのを十分感じたが、意図的に無視をした。
思えば、愛する彼にこんなことをしたのは初めてかもしれない。
「・・・ごめん。」
小さく小さく、そう言って顔を伏せてしまった愛梨を抱き寄せて落ち着くようにあやす。
私は、自分こそ勝手なことを決めたと、でも3人のことは必ず守ると、そう伝えると、
不安を感じながらもようやく笑ってくれた。
そのまま、探しに来た事務所の人に連れられて帰っていった愛梨を見送り、私たちは、まだライブが終わっていない会場から外に出た。
流石に夜の渋谷は混んでいて、
「桜子さんの家に箒で飛んで行ってそのまま泊まりたいです。」
と尚美は人込みをみてそうこぼした。
私が、別に平気だけど、ジョーくんも帰ってくるよ。と返したら、げんなりした表情でおとなしく一緒に電車に乗り込み、そして途中駅で私は降りて二人と別れた。
夜道を歩きながら、私は今日自分の思いついたことに、一人で笑いを抑えられずにいた。
ジョーくんをどれだけ愛しても、最初から全てを持ち、これからも永遠に幸せに生きられるジョーくんと、何もなく生まれ卑怯な手を使わないと生き続けることなんてできなかったしすぐ死ぬ私。
最初から幸せなんてない。
それでも、私を慕う彼女たちを騙し全てを使用してでもしあわせになる方法、最高の方法を私は今日思いついた。
例え忘れられるとしても、彼の目の前で消えて、その一瞬だけでもジョーくんの記憶に強く焼き付ける。
それが私の、人生で一番の幸福で、最高の死に方だ。




