20.香山譲
「少しメンバーだけで話させてください」
皆の瞳が僕に集まり、口を開こうとした時に、そう言ったのは飛馬だった。
マネはもちろん不服そうだったが、普段の信頼の厚い飛馬の言葉だからか、頷きそのまま控室から出て行った。
「助けてくれてありがとうございました。」
メンバーだけになってすぐ、口を開いたのは楓だった。
「譲さんが会場の喧騒を見て、僕とmiaがステージ前方に立つのは危ないと判断してあの行動をしたのはもちろんわかりました。でも、疑問はあります。」
そう続けた楓。それを繋ぐようにとびおが口を開く。
「ゆずるん最近miaちゃんと仲良しだよね。俺気になって2人で話してるときにこっそり聞いたりしたけど、なんでゆずるんとmiaちゃんステージであんなに動揺してたの?」
とびおの語り口は冷静で、しかしその眼光は鋭い。
「俺もダンスポジション後ろだから分かったんですけれど、譲さん、今日のステージでずっと空ばかりみてましたよね。客席を見ないで上をみてはいけないて、ダンスレッスンでいつも言われてて譲さん下手なりにちゃんとできてたのに」
続けた飛馬の言葉に、失礼だなあとふざけた語り口で返したが、飛馬の表情も真剣そのものだ。
「まるで、客席上空に何かいたみたい」
ハリーが静かにそう言った。
そして、4人の視線が僕に注がれる。
ここで誤魔化すことはいくらでもできるだろう。
実はmiaちゃんと付き合ってるんだよとか、関係者席に知り合いの女の子がいて目が合わないようにしてたとか、単に客席の喧騒に動揺したとか。
しかし、4人と長年の時を一緒にいた僕だからこそ分かってしまった。4人は、僕が本当に上記の理由ならこうやって問い詰めたりしないことを。同じことをしているからお互い黙認していることを。
だから、4人は何かを知っている。
深呼吸して、全員と目を合わせた。
僕は、観客の煙からウーパールーパーが誕生し、ヘドロをまき散らしながら大きくなり続けていた。そしてそれが、飛んできた三人の女の子によって倒されたと、見えたことを正直に話した。
「ゆずるんも見えるようになったんだね。」
聞こえてきた声に驚き顔を上げると、とびおが笑っていた。他の3人も、僕の話に困惑を出さず。落ち着いた態度だ。
それを見て、僕のほうが混乱を深める。どういうことなのだろうか。4人はずっと害獣を知っていた?
「譲くんと同じように僕たちも魔法をかけられたことがあるんだよ。」
ハリーがそう口を開いた。
「ハリーくんの彼女になりたいて願った魔法少女がいたみたいで、自分の頭にその子の事が浮かんで、何もかも放り投げて会いに行って、付き合った。
でもその子、いつの間にか消えちゃったみたいで、僕たちは自分が付き合った魔法少女の顔すら思い出せない。ただ、敵は見えるからその存在も無視できないそんな状況」
ハリーの言葉が頭に入ってこなかった。見渡すと、他の3人もただ頷くだけだ。
「自分の頭を疑ったこともありましたが、同じように虚空を見つめる視線で俺たちは共通の経験をしたと理解できました。それからは、観客や共演者、スタッフなどからあの化け物が発生しても無視して逃げていました。俺たちにはどうもすることできませんからね。」
達観したように、飛馬はそう言った。
確かにメンバー同士で視線のやり取りをすることは、ファンサービスにつながると社長から促進されていたが、僕以外のメンバーのアイコンタクトが多くて、一時期僕へのいじめが噂に出たこともあった。
僕本人は何も気にせず、そのまま放置だったけれど、あの時から僕以外のメンバーはあれを見て、それでも冷静にステージ上でパフォーマンスをしていたというのか。
困惑と、そして4人の本物の強さを目の当たりにして、正直に自分の劣等感が沸き上がる。
「でも譲さんは、今日俺を助けて観客の視線を集めてその隙に退場させて、怪獣のこれ以上の巨大化を防ぎました。それを見て思ったんです。俺たちできることあったんだなって。」
楓の言葉に、どういうことか首をかしげる僕、
「譲くんに注目したら、観客の怒りの感情が一瞬忘れられてそれで煙が止まったんだと思ったんだよ。だから、俺たちのステージに注目させれば、モンスターを発生させるのを防げたり、発生してもそれ以上増加しないように制限できるんじゃないかって。」
ハリーの言葉で僕はその意味を理解した。
桜子たちの戦うウーパールーパーは、人間の負の感情から誕生するというのは、その場を見ている僕も分かる。しかし、最初から負の感情を無くせたり減らせたりするとしたら、僕たちのやっているこの仕事に、今以上に大きな意味が生まれるということだ。
「それでさー。ゆずるんあの魔法少女達のことしってるんだよね?miaちゃんもその関係者?」
とびおの発言に、正直に肯定を示すか躊躇したが、分かってて言っているのだろうから諦めた。
僕が肯定すると、4人は顔を明るくする。
「だったら、あの子たちに僕たちのステージに出てくるエイリアン達の退治を頼めないかなって。」
とびおの提案は、突飛すぎるものだと思ったのだが、4人は譲らなかった。
「慣れているとはいえ、あれが出てくるとステージに集中できませんし、彼女たちもあれが役目だとしたら定期的に戦闘できる状況を提示したら喜ぶのではないかと思うんですけれど。どうですか?」
飛馬の話は確かに理にかなっている。僕も今後あれを見ながらのパフォーマンスは、しばらく動揺するだろうし慣れるだろうか心配だったのだ。
ただ僕は、桜子をメンバーに紹介することを躊躇っていた。
メンバー達も経験者だと知った今だが、他の男を見る彼女を見たくないという個人的な感情が渦巻く。
「譲さん。その気持ちも結局は洗脳ですよ。」
黙り込んだ僕の考えていることが分かったのか、楓は優しくそう言った。
「俺も、俺を愛した魔法少女を愛してたはずだけど、もう顔も思い出せない。どうせ長く生きられない子たちなんだから。割り切って付き合っていったほうがいいですよ。」
楓の言葉に、頷く他メンバー全員。
昔の僕なら、納得できたかもしれない。でも今は彼女を愛しているから、愛する人を失いたくないのだ。
だから僕は、メンバーとは違う意図で、桜子たちにこの件を提案しようと決意した。
自分の目の届く範囲で、桜子を絶対に消えさせないよう、ずっと見ていくために、メンバーも桜子以外の魔法少女も、全員利用しようと。




