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25.香山桜子

生放送歌番組がスタートして、出演者が次々に舞台に登場して歓声が起きる。

何組か登場した後、大きなモニターいっぱいにミュージックビデオの映像が流れ、それだけで歓声が上がり、司会者の呼び声により登場したPlutoと愛梨を割れんばかりの歓声が包み込んだ。

隣で尚美と明日奈が愛梨の芸名を叫ぶ。なんだかんだ言って仲が良い3人だと微笑ましくなる。


大型害獣トウバツ後、学校にまた登校した私に、尚美と明日奈は繰り返し謝罪し、愛梨との絶縁も提案してきたので必死に止めた記憶が蘇る。

「桜子さん愛梨のせいで消えかけた上に、ジョーさんに正体がバレてしまったんですよ。もっと恨んでもいいくらいですよ。」

尚美は、気にしなかった私に、安心するどころか困惑していた。

ジョーくんにバレてしまったことは、元々私が願ったせいなので、自己責任と捉えているから、他人を責める発想すら至らなかった。

私は何も気にしていないのに、今のジョーくんと3人の膠着状態は勝手に続いているので、どうにかしなければいけないが、何もできない今のこの状況のほうが、私にとって大きな悩みだ。


そんなことを思い出しながら、舞台上のPlutoと愛梨を眺める。今回のステージの意気込みを聞かれて、緊張感を隠せない様子で話す愛梨、そんな彼女を、Plutoのメンバーも観客も、かわいいと好意的な視線や歓声が向けられている。儚げで静かな美少女にしか見えない彼女が、普段はひたすらに乾燥種無し梅干しをかじりながら、私たちのおやつを食べる様子を悔しそうに罵倒してる姿など、ここにいる人達はほぼ知らない事が不思議で、知っていることに得意げになる。

これは、ジョーくんに対しても同じで、普段は物静かで会話がないほうが多い事、それを私も彼も心地いいと思っていること、でも私があまり話しかけないと勝手にすね気味になるところ、甘い物よりコーヒーが好きなこと、食べるのは実は面倒くさいけれど健康のために仕方なく食べており実は食の味にそこまで関心がないこと、彼のテレビで見る印象とは大きく違い、王子様然とした見た目に反するにぎやかで食いしん坊な弄られキャラである彼のイメージは、彼が努力して作った物だと一緒に暮らす短い時間の中でも気が付いた。



でも、それを知っているからといって、彼と私の世界が違うことは変わらない。

ステージにいる彼らは、生まれもっての『持っている』側の人間だ。努力もたくさんしたことは間違えないが、努力が実を結んで成功できるのは一握りだ。そして努力をできる環境にいられるかどうかも運しだいだと思うし、彼らはいろんな幸運を持って生まれてこれからも生きていくのだろう。

こんなことを考えてしまう自分が嫌になる。愛梨は魔法少女仲間として一緒にいてくれるし、ジョーくんも洗脳されたことを知っても態度が変わらない。彼の場合は、願いのせいで私を恨む感情すら起きないのかもしれないけれど。


そんなことをぼんやりと考えていると、歌番組のスタートが宣言され、出演歌手たちが裏に戻っていくようだ。歩きだすジョーくんを見ていると、急に立ち止まり、視線をこちらの席に向けた。同じ方向の席のPlutoファンたちは沸き、関係者席の女性たちも、自分を見たのだろうと微笑む。

彼はいったい誰を見つけたのだろうか、自分だったらいいけど、きっと違うだろうな。ジョーくんは、ここに私がいることを知るはずなんてないんだから。



暗い気持ちを隠すべく顔を伏せて、こんな気持ちを隣の2人に知られないようにしていると、

「桜子さん?」

と尚美に声を掛けられた。体調不良と思われたのだろう、なんでもないと返して顔を上げると、もう何組か歌を披露した後だったようだ。そんなに多くの時間が経っていたことに驚き、尚美の顔を思わず見る。

「まだ愛梨は出てきてませんよ。でも、次ジョーくんがMCやるみたいなので、見ておいたほうが良いですよ。」

尚美がそう言ってステージを指さすと、そこにはジョーくんと、他のアイドルグループの男性が2人司会者の位置に立ち、次に演奏するガールズバンドに、話を聞いていた。

確か今日で解散する子たちだ、客席からは野太いメンバーの名前を呼ぶ声があちこちで響いている。

その子たちのステージの後が愛梨たちのステージであると紹介されて、もう一人の司会者からジョーくんにもエールを送られる。微笑んで感謝を述べ、曲紹介をするジョーくん。そして、ガールズグループの演奏が始まった。

今回ラストステージということで、代表曲と、そしてラストシングルとしてリリースされたバラード曲が演奏され、会場は一気に盛り上がる。私も聞いたことのある曲で、ファンではないが解散が悲しくなる。

最後のバラード曲の演奏が終わり、ボーカルの女の子が感謝の気持ちを述べ、全員で頭を下げた。会場からは野太い声で、メンバーを呼ぶ声、感謝を述べる声が鳴りやまず続く。

それは、彼女たちが退場した後も続き、サブステージから出てきてスタンバイをしていた愛梨が戸惑う様子が、こちらから見ても分かった。



混乱した状況だが生放送で時間がないのか、曲がスタートする。

まだ泣きわめく声が聞こえる中、ミュージックビデオと同じ白いワンピース姿で登場した愛梨、客席の間の道を、きょろきょろと迷った様子で歩いていると、ステージ下から軍服のような衣装で登場したチャーリー君が迷わず愛梨に歩み寄り、手をとる。


その時だった、

「お前のせいだ!お前のせいで解散なんだ!!」

と観客から一際大きい罵声が二人に飛んだ。

驚いた二人は思わずそちらを見るが、曲は進行しているので、そのままステージまで歩いていく。

罵声は何人かがずっと続け、メインステージでスタンバイしているメンバーも、観客たちも、ステージに集中できずに困惑した様子だ。


その罵声を出していた数人は、先ほどのガールズバンドのペンライトを持ち、パーカーを着ていた。そしてもう何を言っているかわからないような叫び声を上げながら黒と緑の濁った煙を出している。それも一人じゃなく数人から。

隣の尚美を見ると、察したように頷く。私達3人は席を立ち、女子トイレに向かう。

誰もいないことを確認して素早く武装装着。そして会場に戻る。

ステージは、愛梨とチャーリーが登場して曲が始まっていたが、濁った緑の煙は、今まで以上に大きいオオサンショウウオとなって、ヘドロ状の液体を垂れ流しながら、ぶるぶると震えていた。

会場の扉を開け、箒に跨り飛び出す。こんなに人がいるのに他の魔法少女はいないらしい。


巨大オオサンショウウオは、いつもと違って動き出す気配がまだ見られない。

その理由は、煙を出しているファン数人が、意識を失わずに、警備員やスタッフともめ続けており、ファンたちは大柄な男性が多いので、警備員もなかなか引っぱり出すことができないようだ。煙は別方向にも向かい、そこで別個体のオオサンショウウオがまた形成されつつある。

ステージの愛梨をちらりと見ると、ダンスを踊りながらも、私達の姿を見つけ、目線を離さないでいる。今回のステージは愛梨を中心とした演出らしく、常にスポットライトを浴びているので、とても変身できる状況ではない、私達3人でやるしかない。


一瞬だけ、ステージ上のジョーくんと目が合った。信じられないような顔をして、私をずっと見ている。本人も苦手と公言しているダンスが、いつも以上に乱れるのが目に見えてわかった。

このステージの為に、愛梨もジョーくんもとてもがんばって練習していたのだ、だから守りたい。



絶対にステージの邪魔はさせないから。と、私は、他の人に聞こえないことをいいことに、2人のいるステージに向かって叫んで、そして、鎌を握り直して、害獣へと向かう箒の速度を上げた。



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