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19.香山譲

僕のスペシャルMCが問題なく終わり、そのまま裏で出番の為に着替えに入る。ミュージックビデオと同じ、白衣の医師の衣装に着替え、舞台袖で出番を待つ他メンバーと合流する。楓以外の3人がきちんといることを確認し一安心、楓は、サブステージの下から登場し、メインステージで待つ僕らの元に真名守さんをエスコートする役目がある。


異変はガールズバンドの演奏終わりから薄々感じていた。曲が流れ、サブステージから登場した真名守さんに、会場のほとんどは目線を奪われていたが、メインステージ前列を陣取っていたガールズバンドのファンたちは、もういないメンバーの名前を叫び続け、それに飽き足らず、よくわからない奇声まで上げだした。

それだけなら、顔を顰めるだけで良かったのだが、舞台下から楓が登場した途端、ファンたちは楓に罵声を上げ始めた。

「純粋なあーちゃんを弄びやがって!」

「りんりんを返せ糞野郎!!」

「お前さえいなければ!!!」

ファンたちの楓への罵声は止むことがなかった、困惑しながらも、楓と真名守さんはメインステージまで辿り着き、予定通り僕たちのパートに入る。

最初に飛馬が真名守さんに顔を近づけて歌うシーンの時だった、後ろの配置で踊っていた僕は、罵声を上げ続けるファンたちから、緑色の濁った煙が出ていることに気が付いた。

真名守さんを見ると、飛馬の愛のささやきを困惑して撥ねる演技をしながらも、目線が煙の方に向いている。間違いなく、あれは桜子たちの言う『害獣』なのだろう。

僕たち二人以外は見えていないだろうし、真名守さんが魔法少女になることはこのステージの上では不可能だ。どうしようもないと思ったその時、客席後ろから、飛行する3つの存在が見えた。

赤と緑と、そして桜色。お願いだから見間違えであってくれという僕の願いも空しく、桜子と仲間の魔法少女達だった。

桜子が僕たちに気づいたのか、何か叫んだようだ。しかしそれは、観客の混乱によって聞こえない。

静かにしてくれ、彼女の言葉が聞こえないじゃないか。そう、叫びたい気持ちが膨らんだが、そんな様子は一切表情に出してはいけない。ここはステージの上で、僕は今『Plutoのジョー』なんだから。


そうやって精一杯平静を装い、でも目線は桜子たちから外せず、僕は踊り続け、そして僕のパートがやってきた。

座り込む真名守さんに近づき、無理矢理唇を開かせて、カプセルを飲ませる。ミュージックビデオでも大評判だったシーンの再現だ。

リハーサル通りに真名守さんに近づき、顔を寄せると、

「どうしよう、どうしよう、煙が止まらないからどんどん大きくなる。これじゃあきりがない。」

とマイクに入らないように弱弱しく話す真名守さんの声を聞いた。

そのまま雑な手つきでカプセルを飲ませ、僕のパートは終わったと後ろに戻る。

戻りざまに見た客席は、まだガールズバンドのファンたちが警備員と戦っていた、あんなにどろどろと煙を流し続けているのに、退く気はないらしい。ファンたちは皆大柄な男性で、警備員が何人がかりかでやっと一人動かせるような状況だ。周りにいる僕たちのうちわを持った女の子たちが、ステージを見ずに怯えて泣いていた。

煙の先では、桜子が飛び回りながら鎌の刃を振り回し、ウーパールーパーに似た害獣に傷をつけている。しかし傷口にまた煙が吸い込まれると、元通りの表面になってしまうようだ。


膠着した状態の中、楓のパートがやってきて、舞台中心にいる真名守さんに、楓が歩み寄る。ファンたちは今まで以上に罵声を浴びせ、桜子が戦っているウーパールーパーも、楓の登場に急に動きを見せて歩き出し、魔法を傍で放っていた桃井さんが、跳ね飛ばされて客席にそのまま叩きつけられた。

その様子に、止まってしまう真名守さん。楓は何もわからないので困惑しながらも演技を続けている。

その楓に近づくウーパールーパー。これは危険な状態だ。



ちょっと待ってくれ!!!





楓と真名守さんに向かい、僕はそう叫んだ。驚く2人の表情と、他のメンバーの困惑を肌で感じる。当たり前だ、台本にこんなセリフはない。

楓と真名守さんの間に入り、楓の腕を掴みそのまま僕の位置にまで引きずっていく、楓は驚きで困惑しており、抵抗はなかった。

そして楓のいた位置に戻り、楓のセリフと歌パートをそのまま僕が演じだす。

観客は驚いたようだが大いに沸きだした。ガールズバンドのファンたちも、突然の僕の行動に困惑したのか罵声も忘れてぽかんとしている。僕がスタッフに視線を送ると、意図に気づいてくれたようで、ぽかんとしていたファン達を一気に引きずり出し、扉の外に連行していった。連れていかれる中で、煙もどんどん減っていき、外に出された後はもう流れてこない。


僕はその後、楓のパートを全て演じきった。自分以外に目を向ける余裕はなかったが、楓はいつの間にか僕のパートで僕のダンスや歌の部分を代わりにこなしていたようだ、もしかしたら僕より上手いかもしれない。



そして、目覚めの鐘の音で僕たちが舞台から消えて、真名守さんだけが舞台に残されて曲が終わった。

観客の大歓声に包まれ、司会者が罵声の事などなかったように進行を進める中、僕は舞台袖から会場に目を凝らす。

会場は所々に緑の濁った液体がぶちまけられている。まるで僕たちが寮でやる色塗りFPSのゲームような様子だが、それに気づいている人は全くいない。緑色の液体を頭からかぶっているにも関わらず、ハリーやとびおの名前を叫ぶ女性ファンを見て、これは誰にも見えていないのだと再確認する。

ウーパールーパーは、大きい1体のみが残っていて、桜子が腕や足を切り落として動けなくしたにも関わらず、まだ目をぎょろぎょろさせて動きを止めない。

しかし、桜子は諦めず、背中に飛び移ると、思いきり鎌を振り、刃を食い込ませてダメージを与え続けていた。もう煙は流れてこないので体は再生しないようだ。

最後に大きく耳障りな音を出しながら、ウーパールーパーは、動かなくなり、体がヘドロのように溶けだした。


害獣は消えたようだ。しかし、桜子たちの姿が見えない、もう変身を解いてしまったのか。探しに行こうとしたところで、マネージャーに腕を掴まれて、そのまま控室まで連れていかれた。

中には不信感を隠さないメンバーたち、一斉に視線を浴びて、その怒りを感じ取った。

ここは釈明しなければならない。さて、どう誤魔化すか、僕はそう考えながら、口を開いた。




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