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24.香山桜子

中学の陸上競技会の時ぶりに、私は代々木競技場に足を踏み入れた。


当たり前だが、ステージや音響、客席を仕切る柵、歌手の通り道などが整備されていて、競技で使われる時とは全く違う装いを見せている。私達3人は、関係者パスを首から下げて、控室のある区画へと足を進めていた。怯えながら歩く私とは違い、尚美と明日奈は物珍しそうにはしゃぎながら歩いている。関係者らしき人が、すれ違う時に、2人はどこの事務所か聞いてきたりもあったので、クリスマスの双子は十分美少女だと、私がいつも思ってることは正しいのだ。本人たちは愛梨の存在があるからか、なぜか頑なに否定してくるけど。


すれ違うアイドルや歌手、お笑い芸人に、テレビで見た人だと3人できゃいきゃい言いながら、愛梨の控室に到着した。愛梨はPlutoと一緒の出演だが、性別が違うこともあって、同じ事務所の先輩女性アイドルグループと控室が一緒らしい。


ノックをして部屋に入る。そこには本番前で緊張した様子の愛梨が、最後の振り付け確認に勤しんでいた。

メイクも衣装もばっちり決まっており、普段からかわいいが、今日は飛びぬけて美少女だ、きっとまたファンが増えるだろう。

愛梨は私たちに気づくと、笑顔になり、椅子を勧めてくれた。みんなで座って、呼んでくれたお礼を言う。

関係者区画まで入ってよかったのか聞くと、

「だいじょーぶ!本番前はみんな忙しくてそれどころじゃないから。」

と、私が差し出したコンビニの袋から、ミルクティーを取り出し飲みだした愛梨。普段は糖分はあまり接種しないストイックぶりだが、がぶ飲みしているところを見るに、相当緊張しているようだ。

「Plutoの控室はここから遠いし、ジョーくんは今日MCやるパートもあって打ち合わせ中だから顔合わせなくて済むよ。」

私の落ち着きのなさの原因に思い当たったのか、フォローしてくれる愛梨。その言葉に安心する。

今日の宿題のプリントを渡すと、コンビニの袋より感謝された。

「あの教師。画像印刷の物はだめで。プリント現物じゃないと提出物として加算しないとかホントありえないわー」

大事そうに鞄にしまい込みながら愛梨は愚痴を言った。私も、陸上推薦という点であまりよく思われていないらしく、譲くんの関係者じゃなければもっと直接色々言われてたかもしれない。

そのまま、嫌な教師について話が盛り上がる中、急に、控室のドアを叩くノックの音がして、返事を待たずに扉が開いた。複数の人影が入ってくる。



「miaちゃーーーーん!!あっそびーにきーたよーーー」



テンション高く現れたのは、PlutoのメンバーであるG。そのまま愛梨に駆け寄ろうとするが、後から追いかけてきたハリーに首の根を捕まえられる。

「ごめん。本番前に。」

ハリーの横に付き添っていた、これまたメンバーのチャーリーが愛梨に頭を下げた。そして周りを見回し、私たちに気が付いて不審な目を向ける。

「あ、お疲れ様です皆さん。この子たちは、私の事務所の後輩になるかもしれない同じ学校の子です。」

愛梨の紹介に、おとなしく頭を下げる私達、存在も事情も知られているわけないのだが、それでも感じる後ろめたさに、帰ろうと一歩引いて、尚美と明日奈もそれに気づいてくれたが、

「うわーmiaちゃんの後輩ちゃんたちかわいいねぇー。ねえ?名前教えてー?」

とGくんが興味を示してきたため、逃げ道を失った。

顔を見合わせ、自己紹介する。私は、念の為、苗字は言わず、下の名前だけ言ったが、

「へえ。桜子ちゃんていうんだ。俺たちのメンバーに、最近桜モチーフとかグッズにはまってる人がいてさー」

とハリーくんがなぜか食いついてきて、顔が引きつらないようにすることに必死だった。

しばらく他愛のない話をしたが、愛梨がメイクの時間が来たというと、おとなしく帰っていった。このままハリー達が戻らず、ジョーくんが探しにきて鉢合わせだけは避けたかったので、胸をなでおろす。


その後、愛梨の先輩グループがリハーサルから戻って来る時間となったので、私たちは愛梨に激励を贈ると、控室を後にして、客席に向かった。

愛梨が用意してくれた席は、いわゆる「関係者席」というやつで、私達3人の周りには、いかにも偉そうなスーツの人や、テレビで見たことある美男美女が座っている。

私が見回すと、先日デパートでジョーくんと食事をしていた、二世タレントの美女も座っていた。本当にジョーくんのことが好きなのだろうなと、色々考えてしまう頭を冷静にするために、お手洗いに行くと二人に声を掛けて、私は席を立った。

もう一般入場がスタートしているのもあり、ロビーは人だかりで、皆、好きなアイドルのうちわを持ったりはっぴを着たり、ファンクラブ専用ペンライトを持ったりと、ライブ前の楽しい雰囲気だが、その中の一角に沈みがちな集団があった。


私はよく知らないが、確か、5人組のガールズバンドグループが、今日のステージで最後のテレビ出演、そして解散を宣言している。

アニメ主題歌を連続して担当したことから、コアな層アイドル的人気が出たらしいが、本人たちがそのオタクたちを嫌がったとか、本当の解散理由は、全員が某イケメンアイドルに惚れてしまったとか、真偽はわからないが、ファンの集団はみな気落ちしている様子だ。

その集団を何となく見ていると、ひとりのスマホにみな顔を寄せて何かを確認したように頷きあった。そして会場に戻っていく。

私の横を通った彼らは、すれ違いざまに、

「Plutoのチャーリー・・・。」

と数人が呟いていた。

思い過ごしならいいけれど、私は嫌な予感を否定できずに、席に戻り、そして、開演時刻となり、公開生放送がスタートした。



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