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17.香山譲

「だらしない顔」

スマホを見ながらにやつく僕に、投げかけられた言葉だ。顔を上げると、ハリーが不審げに僕を見ていた。

「ただでさえ、とびおの奴がmiaちゃんと一緒の仕事だからって毎日無駄にお花畑空気なんですから、リーダーが引き締まらなくてどうするんですか。」

あきれ顔で忠告してきたのは飛馬だ。部屋の反対では、無駄にラインを送りまくるとびおと、我関せずで頭からタオルを被って寝ている楓の姿もある。


僕たちは今、歌番組の公開フェスで披露するスペシャルステージのリハーサル中だ。


今回の新曲公開後、初めてのヒロイン出演のミュージックビデオは大反響で、CDの売り上げも過去最高の物となった。すでにゴールデンディスクは確定だと社長が騒いでいたのはぼんやりと見た。

僕たちのミュージックビデオに明確な女性の影は未だになかったため、不安要素も大きかったが、真名守さんの可憐な容姿と演技力に魅了されたファンが多かったようで、SNSでの最大手カップリングは現在楓と真名守さんの組み合わせらしい。

僕もマッドドクター頑張ったのにと思ったが、『流石にアラサーがJKに手を出すのはきつい』とまっとうな感想が、SNSには書き連ねられていた。僕ももうおじさんポジションかと切なくなったのはここだけの話だ。


それにより、事務所は真名守さんとの仕事を増やすため動いたが、当の本人が学業を理由に拒否を続けていた。しかし、今度の歌番組のスポンサーや視聴率は、彼女の事務所も見過ごせなかったようで、今回のコラボレーションが実現した。

とびおは上がりきったテンションが抑えられず、他の女の子の約束を全て蹴り、真名守さんに全力を注いでいる。当の本人は困惑して、助けを求めるようにこちらを見てくるが、正体を知る前は助けたかもだけれど今は笑って無視している。

ダンスシーンで接近したときに、

「あんたリーダーなのにメンバーのリードも握れないの?」

とぼそりと悪態をつかれたけれどね。僕の大事な仲間を犬呼びは辞めていただきたい。



今回のライブ会場は広いので、ステージ以外でもダンスのリハーサルが行えるのが利点だ。真名守さんは学校が終わってからの到着予定だが、僕たちは先に会場入りして直前までダンスを合わせていた。この会場にはスタッフと他の出演者しかいないはずだけれど、僕たちのダンスに遠くから黄色い歓声が上がる。

「あ、あのグループ全員楓くんに惚れてて今度解散するとこじゃん。」

と、スポーツドリンクを飲みながら、ハリーがさらりと怖いことを言った。

当の本人は、眠ったままぴくりとも動かない。昨晩も、インスタグラマーの彼女とのデートを撮(・)ら(・)れ(・)る(・)た(・)め(・)に行ってきて疲れているのだろう。昨晩別れ話をしてそのまま破局報道が流れて、半年後くらいに今度は真名守さんと写真を撮られる計画が進んでいる。真名守さん本人も事務所もまだ知らないけどね。

いままでなら、そこで真名守さんが僕たちのファンから嫌がらせを浴びて、耐え切れなくなり勝手に消えてくれるコースだっただろう。でも、彼女は桜子の大切な人だ。これ以上彼女に嫌われたくないと考えてしまう自分がいる。


かという僕も、今朝の朝刊に以前共演した女優とのお泊りデートが載った。

ネタバレが出回る昨日深夜の時点で、発行前の紙面の画像をラインで送り、良く撮れてるでしょう?と冗談めかして送ってみた。桜子がどんなリアクションをするのか気になったのだ。結婚後初のスキャンダルだしね。

ワクワクしながら返信を待ったが、一向に既読が付かず、しびれを切らして電話すると、長めの着信音の後に寝ぼけた声で電話に出た。

「明日みんなで放課後出かけるので、早めに寝たんです。・・・画像ですか?こういう写真を見ると改めて譲さんは芸能人なんだなって思います。」

寝ぼけた声でそう言われては、なにも追及できない自分がいた。電話はそのまま切られてしまった。

何よりも、僕が歌番組に出るのに生放送で見ようとせず、魔法少女達と放課後どこかに遊びにいくのであろう桜子に、理不尽ながら怒りを覚えた。


あの魔法少女達は、僕の知らない桜子を沢山知っている。僕は普段の印象で、桜子は友達のいない引っ込み思案な人間だと思っていたが、魔法少女界隈では、戦歴の長さや戦闘能力の高さで、一目置かれる存在らしい。

「傷を受けても、体を欠損させても、必ず害獣を殺すその気迫。普段はぼんやりしてるけど、的確な指示と攻撃を外さない正確性。本当に強くてかっこいいのよ。あのこは。」

リハーサル中に真名守さんに得意げに言われた言葉だ。そんな傷ついてることを誇らしげにするものじゃないだろうと不快感を隠さず言うと、

「それもこれも、全てあなたを愛してるからなのよ。」

と、不満げに真名守さんは僕に言ってくる。

憧れの魔法少女が僕に執着しているのが許せないのだろうか。だったら桜子に近づかないで欲しいと言いたいが、それを言っても、桜子の好きな友達がいなくなり悲しませるだけだ。真名守さん達がいなくなって困るのは僕の方だ。

なんだか悔しい。桜子に必要とされているのが僕じゃないみたいで。


そんな嫌なことを考えていたからなのか、スタッフの

「miaさん入りまーす」

の声とともに、真名守さんがやってきた。もう放課後の時間なのか。挨拶して回り、僕の前に来たところで、今日は桜子は遊びに行っているようだと。この本番は見ないから君のことも見ないという意味を込めて耳元にこっそり囁いた。

しかし、真名守さんはそれを聞いても顔色一つ変えずに、むしろ微笑んでそのまま僕の前から去っていく。不審におもったが、全体でのリハーサル時間は貴重だ。今日はスペシャルMCとして、僕を含め何組かのアイドルの代表者が司会を務めるパートもある。とりあえずは目の前のことに集中しなければと。桜子の写真を見ていたスマホを閉じ、練習に戻った。





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