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23.香山桜子

時刻は丑三つ時。

魔法少女になって、この時間まで起きているのも普通になったけれど、いまだに摩訶不思議な物とは出会えていない。


「いや、魔法少女や害獣が摩訶不思議なんだから、それ以上て何になるの?」


横を飛行する愛梨がそう突っ込んできた。


「昔からの妖精とかお化けとか、魔法少女の見間違えだったのかもしれませんね」


私達より上で飛行中の明日奈が、そう言葉を投げかける。


私たちは今、害獣を退治してその帰り道だ。

今までは、適度にトウバツして疲れたら、私のマンションに帰り、そこで少しお茶して休む、なんてことをしていたのだが、先日の件で、それが出来なくなった。


だから、マンションまでいつも以上にゆっくり飛行していたのだが、建物の姿がそろそろ見えてきた。時刻的に皆寝ているはずなのに、唯一明かりがついた最上階、接近すると、ベランダから乗り出すようにこちらの方向を見ている人影を見つけて、私は焦って速度を速める。


ベランダには、片手に吸いかけの煙草を持ったジョーくんが、にこにこしながらこちらに手を振っている姿があった。

私が慌ててベランダに降り立ち、ただいまと言うと、

「お帰りなさい。怪我はない?体調は?」

と体中に目を配られる。


ベランダの机には、たばこの吸い殻が山積みになった灰皿が置かれていた。ジョーくんは忙しいはずなのにいつ帰ってきたのだろう、そしてずっと待っていたのか。彼も寝てないし寝たいはずだろうに。

申し訳なくなって、武装を解いて、それじゃまた学校でと皆にあいさつして家の中に急いで入った。

その後ろから、

「煙草とか最悪ー。におい着くじゃん。今どきないわー。」

「そう思ってくれるなら、これからも吸うよ。」

と、愛梨とジョーくんの棘のある会話が聞こえてきた。明日奈と尚美はまた板挟みで辟易しているはずだ。

止めたいが、それもこれも自分のせいなので、私は何も言えない。



あの日、大型害獣トウバツ後、目を覚ましたら家のベッドにいた。慌てて起きてリビングに行き、そこでジョーくんと3人が対峙しているのを見て、全てを知られてしまったのだと理解した。


その後、体調が落ち着いてから、ジョーくんに自分の口で事情の説明を求められ、話せる範囲で全て話した。

どうしても知られてはいけないと思っていた、彼を洗脳して自分に惚れさせたことを、どう責められてもおかしくないと覚悟したが、彼が求めたのは。現在の薬効期限日数と、魔法少女活動時の事前報告だった。


それから、私が事前に出掛けることをラインすると、どんな時間になっても必ずマンションで待つようになった。愛梨がミュージックビデオに出演した新曲のプロモーションなどで忙しいはずなのだが、今まで以上に頻繁に連絡が来る。どうしても帰れないときは、テレビ電話による映像付き通話で帰宅している証拠を出すよう求められたし、真実を知られて亀裂が入るどころか、知られる前よりも会話量が増えている。


「めんどくさいのキャラだけだと思ってたら、本当に束縛男とか、桜子ほんと別れたほうが良いって!!」

愛梨は、毎日のように私に、彼との離婚を進めるようになった。

最初はジョーくんに惚れてるのかと思ったが、愛梨はそもそもPlutoのメンバーを死ぬほど嫌っていたという。


「バレちゃったから言うけど、あいつら彼氏や旦那がいても平気で手出すし、飽きたらすぐ捨てるし、恋人営業で権力者の女性に近づいて今の人気になったようなものだし。彼女とか常に二桁いるし。女の敵だよ、まともな子はみんな関わらないようにしてるよあのグループ!!」


愛梨は憤慨しながら教えてくれた。

私たちは知る由もなかったが、Plutoの撮影時に害獣発生して、その原因がGくんに弄ばれた愛梨の先輩だったらしい。愛梨曰く、普段は面倒見の良い優しい先輩モデルだったそうで、Gによって変わってしまったと嘆いていた。


私たちは一夜明けて、放課後の学校の中庭で、色々と話している。

あの日から何日かたったが、私たちの生活は大きく変わった。

白石、丸尾先輩の件によって、学校からまた生徒が何人か初(・)め(・)か(・)ら(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ことになったので、来年の入学者は増えるだろうけれど、今は、学校の魔法少女はほぼいなくなり、街に出るよりも警戒せず話せるようになった。


「私を消そうとしないの?」

休み明け、学校で再会した愛梨に、再び壁ドンされながら、そう、聞かれた。

そうする理由がないと、私が言うと、

「そう・・・じゃあ謝らないよ。それでいい?」

と聞かれて頷くと、言いたいことを堪えるような表情をしたが、それ以来その話は出ていない。

ただ、前より色々わかりやすく言ってくれるようになった気がする。今はそれでよかったと思う。





「それでお願いだからこれ来てよー!」

愛梨が懇願する声で、思い出していた意識を戻すと。何やら頼みがあるようだ。

「前回の件で。あんたの頼みは聞かないことに決めたの。」

切り捨てる尚美と、頷く明日奈。

とりあえず内容を言ってみてと促した私に、ありがとうすきーと抱き着いてきた愛梨だったが、明日奈が引きはがした。

「なあああああんでか知らないけど、私も一緒に歌番組に出ることになっちゃったのよ。ぜえええええったいファンに殺されるわああああ。」

明日奈に引きはがされながらもそう叫び、机に突っ伏した愛梨。顔にはクマができ、よっぽど追い詰められているのが見てわかる。机に乗った胸に顔が挟まれてイマイチ見えづらいのは本人には内緒だけど。



現在大ヒット中のPlutoの新曲は、中毒性のある曲や、本人たちの個性を生かしたコスプレに加え、夢見がちな少女を演じた愛梨(mia)の知名度も爆発的に向上した。本人はファンに殺されると毎日嘆いていたが、追っかけが学校に押し寄せるようになり、学校生活の盗撮画像までSNSに広まった。その中の何枚かに私が写っていたのをみたジョーくんが、

「桜子転校しようか?」

と本気で相談してきたくらいには。全力で止めたけれど。


とにかく一気に仕事が増えたが、意地でも登校してきていた愛梨。学校を休まない条件として飲んだ、どうしてもやりたくない仕事が、『Plutoとの歌番組共演』だ。

愛梨本人はあれっきりにしたがったが、ファンはむしろ、愛梨とPlutoメンバーの再共演に期待するようになり、カップルオタまで出現しだした。

Pluto事務所としても、いつまでもメンバー同士のイチャイチャさせるのにも限界があり仕事が限られてくるといった悩みが前からあったようで、愛梨のこれに活路を見出し、新しい仕事もしていきたいと今回企画したそうだ。

その手始めとして、1週間後に代々木競技場で行われる歌番組の公開生放送フェスのスペシャルステージにて、愛梨をヒロインとしたミュージカル仕立ての一夜限りのショーを行うこととなった。


「モデルはずっとやってたし、演技もぶっちゃけ勉強し始めてるけど・・・いきなり大舞台でミュージカルとかしかもスケジュール急だしほんと事務所辞めたいああああああ。」

・・・・など、最近連日愛梨は悲鳴か愚痴しか言わなくなっている。


その愛梨のお願いは、当日のステージを私達3人に見に来て欲しいという話だ。


「最近リハーサルしてるけど・・・・ジョーさん常にあたしのこと睨みつけてくるし毎日怖いのよー。それをフォローするふりして話しかけてくるGもうざいしお願いこのままじゃあたし本番絶対失敗するー。」

嘆く愛梨に苦笑する私達3人。


ジョーくんはあれから私には過保護気味になったが、3人には不快感を隠さず、愛梨とは犬猿の仲になっている。理由を聞いても

「僕って人見知りだから。若い女の子は緊張するんだよね」

と笑みを浮かべるだけだ。どう見ても人見知りには見えない。


それに3人、いや、愛梨のことが、私はうらやましいのだ。

今の私とジョー君の関係性は、こちらの真実が知られてもなお壁がある。だから表面的な会話しかできていない気がするのだ。なんだかんだで、私は彼を愛しているわけで、そんな彼と気の置けないやり取りをしているように見える愛梨がひどく羨ましい。

それに、ジョーくん、前にインタビューで巨乳好きをばらされてたし。もし私の洗脳がなければ二人が付き合ってたのかも・・・いや今も二人はもはやお似合いの領域だ。


そんな醜い感情をなんとか隠し、愛梨に同行しても良いと返事をする。

「いいんですか?桜子さんが良いなら私たちは良いですけど・・・」

驚きの様子の尚美だが、スタッフ待遇で歌番組が見れるという事実に興奮を隠せないのが分かる。行きたかったのだろう。お客さんは多いだろうけれど、普通に歌番組をみんなより近く見れるだけだから、何も変なことは起きないはずだ。


「ありがとう桜子!!何があっても私が守るから!!」

また飛びついてきた愛梨を、

「ステージにいるのにどうやって守るの。」

と叩き落とす尚美。


多分言ったら駄目っていわれるだろうから、ジョーくんには隠しておかないと。隠し通せるかどうか分からないが、努力しようと。そう心に決めた私だった。


















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