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16.香山譲

桜子を診てくれた医師が帰宅後、入れ替わるように、もう一人の魔法少女とmiaがやってきた。


僕とずっと一緒にいた少女は、miaの顔を見た途端、険しい顔立ちになり、歩み寄るとそのまま平手打ちした。


鈍く殴られる音に、動揺したのは僕だけのようだ、三人とも表情を崩さず立ち尽くしている。僕の家のはずなのに所在なく感じて座るよう促し、やっと座ってくれた。


今更ながら自己紹介する、驚きと困惑の混ざった二人と、嫌悪感を隠さないmia。僕も三人の名前を聞いて、その後桜子の状態を話した。医師曰く、傷の深さに比べて失血が多すぎるが、輸血や凝固剤投与で安定したことを報告すると、三人とも安心したようで、やっと話始める。


「信じられないとは思いますが、桜子さんも含め私達は、魔法少女なんです。」

進んで話始めたのは、風谷尚美さん、さっきからずっと一緒にいて、なぜか家の物の配置を知っていた少女だ。もう一人の桃井明日奈さんは普段あまり話さないようで、mia・・真名守愛梨さんは家に来てからずっと不機嫌さを隠さない。

風谷さんが話す内容は、正直信じがたいもので、思春期特有のアニメにでも影響されたとしか思えないが、僕は昨日から彼女たちの戦いを見ている。ここにいる全員が狂人でないならば、信じるしかないのだろう。


「でも、疑問なんです。害獣の存在は、私達魔法少女にしか見えないはず。どうして香山さんに見えたのか・・・。」

困惑した様子の風谷さん。隣で桃井さんも首をかしげている。


「決まってるじゃん。桜子の願いがジョーさんにかかってるのよ。」


沈黙を破ったのは、それまで無言だった真名守さんだった。


「疑問だったのよ。一切接点ない二人がある日突然入籍。しかも男が女を連れ去り同然。女のほうが何も言わないとか。理由がそっちにあるしかない。」

言葉を切って僕を見る真名守さん。


「きっと、ジョーさんは、感情の方向を操作するために強い魔力が掛かって、結果的に、魔法少女と似たような魔力保持者になったんでしょうね。残念。貴方が桜子を想う気持ちは、桜子によって作られたものだったとか。」


真名守さんの言葉に、他の2人も、納得した様子になり僕の様子を窺うように見る。僕が、衝撃で怒り出したり悲しむと思ったのだろうか。しかし、今の気持ちとしては、この想いは作られたものと分かったが、桜子への気持ちは変わらない。


「じゃあ、私達これからも戦っていくけれど、お互い干渉はなしで。今後も極力、怪我はないよう努めていくから。」


真名守さんは、そう言って話を切ろうとしたが、こちらはそうはいかない。


僕の彼女への想いが変わらないことは確かだ。だから、今後はああいった危ないことはしないで欲しい。先ほど医師の診察で、思ったより軽症であると分かったが、桜子の体の傷を思い出す。医師には虐待歴ありと誤魔化したほどのもので、今後も、今日のように身体欠損したら、今以上の傷を負う可能性もある。再生するといったって痛みは変わらないのだから。


「じゃあ、どうするんですか?」


口を開いたのは、今まで一言も話さなかった桃井さんだ。


「桜子さんも私達も、戦い続けなければ、害獣となり消えるだけです。普通に不慮の事故で死ぬことと、魔法少女の戦いに何か違う所はあります?」


淡々とした明日奈の言葉に言い淀んでしまう僕、でもつらいことばかりになってしまうじゃないかという僕の言葉に、


「それこそ、普通に生きてるのと変わりないわよ。努力しても何も成し遂げられないまま死ぬ人間より、むしろ願いが叶っている魔法少女のほうが幸福かもしれないわ。」

真名守さんが、もはや敬語も忘れて僕に話してきた。


身体欠損を出しながらも戦い、無かったこととして消える未来が確定しているにもかかわらず、それでも幸せだと言えてしまう魔法少女達。僕たちとは違う価値観の持ち主なのだろう。

理解はできる。僕も良い大人だ。皆同じ考えなら世界に戦争なんてない。



でも、納得はできない。



絞り出すように、僕はそう言うしかなかった。

普通以上に生きて、困難もあったけど幸せに過ごしてきた僕、そんな僕だからこそ、僕の言葉は彼女たちには届かないのだと、悔しいが分かってしまった。


もしかしたら、桜子にも、こうやって線を引かれているのかもしれない。

生まれつき全てを持つ香山譲は、何もない光桜子を理解することはない。と、桜子本人が誰よりもそう思っているとしたら。

最悪な女だ。惚れさせて離れなくさせて置いて、自分は相手に心を開くことはないなんて。


思わず机を叩きそうになり、寸でのところで自分の膝を叩いた。

僕にどう言葉をかけていいのかわからず、困惑の表情の少女二人と、あきれ顔の真名守さん

永遠に続くかに思われたこの膠着した状況は、リビングのドアが空き、パジャマ姿の桜子が顔をのぞかせたことで終わりを告げた。









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