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19.香山桜子

学校と部活が終わって下校時刻が来る。この時間以降にに生徒が学校にいてはいけないことは白石先輩も破れないので、一旦全員帰宅する。

「電車通学の子はウチ来て休んで!」

と声かけする白石先輩。対象の子たちも慣れているのか、スマホで親に、先輩の家で試験勉強など適当な理由を話して許可を取る、許可しない親もいるが、先輩が電話口に出て説得すれば皆納得するようだ。


この学校は最近共学化されたとは何度も聞いていたが、女生徒のみのコミュニティや縦社会が今も強く残っているのだなと驚く。

私は徒歩で帰れる距離なので一旦帰宅する。このことを伝えた時の、先輩と取り巻きの女子の「逃げるなよ」オーラは忘れられない。逃げるつもりはないよ。面倒だけれど。


もうマンションに帰宅することにも、家に誰もいないことにも、慣れつつある自分がいる。ジョーくんが居る方がもちろん嬉しいが、同時に心を乱されるのでいてほしくない、相反する気持ちを抱えて家では過ごす。

どうせGPSやセキュリティで把握されてるだろうけど「ただいま。今日も学校終わりました。」とラインを送る。ジョーくんはどんなに遅くなっても、それが何日後になってもかならず「おかえり。おやすみなさい。おはよう。いってらっしゃい」の返事は必ずくれる。謎の顔文字も付くのは余計だけど。


ここ最近は本当に挨拶しか返ってこないので忙しいのだろう。最後にジョーくんを見たのは、昨日夜のクイズバラエティで、チャーリーくんと一緒に防犯グッズのクイズに答えて優勝していた姿だ。景品の留守中防犯カメラは、このマンションに持ってきて設置する気がする。プレゼントされた時、作り笑いじゃなくて本当に笑ってるように見えたし。


でも、本当の笑顔ってなんだろう。

制服のポケットから、音楽プレイヤーを出して握り締める。


ここ数日のトウバツ完了後。ハムスターに、ジョーくんの気持ちは「願い」によってどれだけ変化しているのか、勇気を出して聞いてみた。


「確実に言えるのは、『桜子と結婚し続けなくてはいけない。離婚という選択肢は浮かばないし取らない』ですパカ。」

久々に話しかけたということで不機嫌を隠さず話すハムスター。

「桜子の願いは、『お嫁さんになりたい結婚したい』の部分は受理されましたパカ。でもそこには『好き、愛しい』のニュアンスは含まれていないですパカ。当時後者は望まなかったですよねパカ?」

煽るように確認してくるハムスターに無言で頷いた。

当時も今も、私は好きとか愛とかそういうものがわからないし、望んでいない。

出生時からの環境もそうだし、周りにもそれを求めなかった。愛を求める人、それがないと生きていけない人は、私のその生き方自体が受け入れられない、そう泣きながら否定されたこともある。その時だって、相手がなぜそんなに悲しかったのか、今も思い出して考えるけどやはりわからない。

ジョーくんのことは好きだけれど、私は、ジョーくんに好かれたいわけじゃないような気は、一緒に暮らすようになって自覚し始めた。実際、ジョーくんには好きとか愛してるとか今も言われたことないし。それを悲しくも思わない。当たり前のことだと認識すらしている。

結婚できた時は、少しでも長く彼といたいと望んだけれど、お互い関係が悪くなる前に消えたほうが良いのかもしれない。


疲れの為か、暗い考えに囚われつつある私に、スマホが震え、メッセージの着信を伝えた。

ラインを開くと、愛梨からだ。

「今日が終わればまた学校行けるーーーーーあたしファイトだ!!」

と報告と、自分自身を励ますメッセージに、良かった待ってると返すと、

「ノートお願い」

と必死なキャラのスタンプとともに送られてきた。


愛梨とは、少しの面識しかないけれど、ここ何日か頻繁にラインで話すことで、それなりに打ち解けたと思える。

愛梨は、くだらない雑談や芸能界の裏事情、それ以外にも、尚美と明日奈が私を調べてくれと愛梨に依頼したときの写真を見せてくれた。

そこには、初めて渋谷で大型害獣と戦って、意識を失い、カフェの椅子にもたれて気を失ってる私の姿があった。あの時もうこっそり盗撮していたようだ。

もっと良い写真がよかったと、冗談めかして言うと、

「本当に、いろんなことを気にしなさ過ぎてるよ」

と真面目な返信が返ってきた。

寿命のこともあるし、戦闘でいつ消滅してもおかしくない立場だから、全てどうでもよい。もう何も怖くない。そんな気持ちなのかも、正直に言うと

「・・・でも今はまだ、桜子に消えて欲しくないよ。尚美も明日奈も」

「あたしも」

メッセージの送信の間に時間が空きながらも、そう、返信してくれた。私としては、それだけで嬉しい。

「だから、桜子にはきちんと話しておく、白石先輩と丸尾先輩、学校の魔法少女の多数派に、本当は、何が起きてるか。」

その後、ラインの通話機能が着信を知らせ、私は愛梨から真相を聞いた。



その時のことを思い出し、

「今日、白石先輩たちと一緒に、丸尾先輩と戦ってくるよ」

とメッセージを送る。

「分かった。あの人には私から連絡しておく。だから、言ったとおりにしてね」

愛梨は、そう私にメッセージを送ると、続けて画像を送った。

読み込み後に現れたのは、白いワンピース姿で、控室の鏡越しに自撮りする愛梨。胸の存在はもちろん大きくあるが、清楚で純粋で夢見がちな少女を表現できているのは、本人の役作りへの努力も大きいだろう。

「これお守りにしてね」

そうメッセージをくれる愛梨。

なるほど、スマホに芸能人のプライベート画像があっては、流出が怖くて、スマホを他人に見せられない。だから消えないで帰らないといけない。

ありがとう、すごくきれい。そうメッセージを送ると、

「撮影終わったら、Gくんから食事誘われてるから、一緒に行こうよ!彼、案外、桜子気に入るかもしれないし、他のメンバーが良ければ連れてきてほしいて頼んでおくよ!!桜子誰推しだっけ?」




『ジョーくんだよ』





愛梨のメッセージを既読をつけてスルーして。誰もいない部屋で私は声を出して、そう言った。


いつの間にか時刻は夜の8時半、行かなければいけない時間だ。


私は鞄も持たず、スマホをテーブルに置いたまま玄関へ歩き出した。







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