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18.香山桜子

「あなた、魔法少女よね?」

目の前の長身の少女は、私を壁に追い詰め、そう問いかけてきた。

だったら何です?。私は嫌悪感を隠せないまま、でも相手は先輩なので敬意と敬語は欠かさない態度を作る。

「協力してほしいことがあるの。あなたの力が入れば、きっとこの戦いを終わらせられる。」

そう、目の前に立つ陸上部部長。白石沙也(しらいし さや)は、私が断る考えに至らないことを確信しながら宣言した。


転校初日、昼食時に愛梨と出会い、そのままろくに話もせず彼女は仕事で早退した。

Plutoのミュージックビデオのヒロインに大抜擢されたとかで、愛梨の芸歴で人気歌手のそういった仕事は相当の快挙らしく、事務所の推し方も力が入り、それ以外の仕事も急に増やされたとの話は、愛梨からのラインで知った。

「学校行かせてもらえないーーーー」

と本人は嘆いている。私が休んだ期間のノートは見せるし一緒に勉強もしようと提案すると、

「桜子やさしい神だ女神だ」

と大げさに拝むキャラのスタンプと一緒に返信が来た。


「初対面で失礼な態度取ったのに、桜子さんやさしすぎますよ。」

と苦言を私に言ったのは尚美だ。

確かに最初からフレンドリーではなかったけれど、攻撃も暴言もなかったし傷ついてないので愛梨の行動は私の中で悪意には入らない。

それをそのまま話すと、

「・・・桜子さん今まで本当死線潜ってるんですね。」

と尚美に遠い目をされた。単に私の感覚は、ジョーくん以外に鈍すぎるだけだと自分では思うけどね。


今私達3人は昼食時間で、初日と同じ席でお弁当を食べている。

初日の昼休みの後、ジョーくんから

「(´・ω・)」

とだけラインが入っていたのが謎だったけれど。大した用事ではないのかなと気にしないでいる。

何故なら、その日の放課後からもっと厄介なことに巻き込まれかけているからだ。



「あー桜子ちゃん!いたー!!」

校舎の渡り廊下から良く通る大声がして、私はため息をつく。

無駄にしっかり大きい足音と威圧感は顔を上げなくてもわかる。

陸上部部長の白石先輩だ。


私が挨拶をして用件を聞くと、

「そんなに冷たくしなくていいじゃん仲間なんだから・・・・。協調性のない中等部のガキとは違って」

私の方を向いて笑顔で言った言葉だが、同じ席で聞いていた尚美と明日奈の肩が震える。

「じゃあ今晩9時に校門前集合ね!」

それだけ言って私の肩を軽くはたく(それでも痛い)と、白石先輩は、彼女を慕う後輩女子たちが待つ校舎に戻っていった。


落ち着いて一呼吸、前を見ると尚美と明日奈が不安そうに私を見ていた。

「すみません。私たちが愛梨を止めなかったせいで・・・・。正体バレしてしまいましたね。」

本当に申し訳ない、とずっと頭を下げ続ける二人に、気にしないでほしいとフォローする。


転校初日、放課後陸上部に正式入部して、そこで白石先輩を紹介された。

白石先輩は典型的な長身痩躯の短距離走者で、面倒見の良さで皆をまとめる良い部長・・・だと思っていた。

しかしそれから毎日練習に参加して、部活に慣れてきた時に、冒頭の言葉を、誰もいない部室で言われた。


白石先輩は、尚美と明日奈が話していた、撮影時にハリーくんとピッピさんに怪我をさせた女生徒の親友だったそうだ。

過去形なのは、元凶の生徒がもう退学してこの学校にいない為で、先輩は事件後、嫌がらせや襲い掛かるPlutoファンから元凶生徒を守るために魔法少女になったらしい。

「本当は、事件をなかったことにしたい、て願うべきだったんだろうけど当時の私焦ってて」

聞いてないのに語る白石先輩。結果として元凶生徒は守れたので願いは叶った。


しかし、それで終わらなかった。


当時、Plutoのプロモーションビデオのバックダンサーに、学園のダンス部が参加することとなり、大いに沸いていたがそれも中止になってしまった。

元凶生徒への嫌がらせは、Plutoファンだけでなく、バックダンサーから芸能界への道を開きたかったダンス部生徒の恨みも大きく関わっている。


ダンス部現部長。丸尾悠里(まるお ゆうり)もその一人だった。

丸尾先輩は、当時の時点で将来有望とされるダンサーだった。しかし、その時点でのチャンスを奪われ、絶対に元凶生徒を殺す。その力が欲しいと魔法少女になったそうだ。現在学園のダンス部は、全国大会で優勝などの実績を作り、芸能界への道を作ったのも丸尾先輩の力が大きい・・・。らしい。

「丸尾は、あの子を殺すのは自分の手でやりたいから、願いは、ダンス部の優勝ぽいのよね。じゃないと、あの子以外ただのパリピの集まりのダンス部が、ここ何年も連続で全国優勝できるはずなんてないのよ。」

苦々しげに説明してくれる白石先輩。私は彼女がなぜ詳細を話すのか見えてきた気がして気分が落ちこむ。


「とにかく。丸尾は未だに当時の事を恨んでいて、本人はもう殺せないから私を殺そうとしている。彼女は、抵抗する私に見せつけるように、陸上部や面倒見ている私の知る魔法少女を消し続けているの。私も、チームを組んで、知り合いが一人にならないように守ってるけど、丸尾にもダンス部の後輩の魔法少女とか仲間がいて、派閥に分かれて殺しあっているのが、この学園の魔法少女の現状よ。」

一気にそう言った白石先輩。いつの間にか熱を持って自分に酔っているように話している。


成程、尚美と明日奈がこれを嫌がってわざわざ渋谷の街で害獣狩りを始めたのか。気持ちがしっかり分かったよ、くだらなすぎる。

バレたら消されかねないそんな内容を思い浮かべていた私に、白石先輩は言葉を続ける。

「でも、それも貴方が来てくれたから終わる。地元では死なないことで有名な強い魔法少女だったんでしょう?あのぶりっこ芸能人が興味を持つ魔法少女なんだから。隠さなくても分かる。陸上部で一緒になったのも良い縁だわ。一緒に丸尾を倒して、平和を取り戻しましょう。学園内の魔法少女の同士討ちの心配が無くなるのだから、あなたにとって悪い話じゃないと思うわ」

自分の力になれと、断ることは許さないと、何より、愛梨のことをばかにする発言に、私の頭の中は冷めきっていた。


確かに愛梨とは少ししか会っていないし話していない、でも、尚美と明日奈とは共に戦い死線を潜っている、その二人が信用しているのだから、愛梨と白石先輩なら、私は前者を信用する。

まあ単純に、組織のような群れを強要されるのが死ぬほど嫌いなだけなのもあるけれど。


しかし、私は新参者で、生徒内の権力者に歯向かう力を持っていない。最悪ジョーくんの名前を出せば、教師を動かすことは容易だろうけれど、そのカードは警察に頼るくらいの局面まで取っておきたい。そんなことは起きてほしくないけれど。

私は白石先輩に肯定の意志を示し、彼女の身内となった。


今日の夜に、白石先輩は、丸尾先輩に話がしたいと持ち掛けたらしい、許してくれないかもしれないけれど、いろいろしたことを謝罪したいと。

「その場で丸尾を消すわ。」

部活後、陸上部部室で、陸上部員や白石先輩を信奉している少女達、(もちろん全員魔法少女だ)の前で先輩は宣言した。私も隅で体育座りしながら説明を受ける。

「あいつらの攻撃で友人を消された子もいるよね。辛いかもしれない、けど、丸尾を消せば、後は戦意喪失した魔法少女なんて敵じゃない。私達には、最強の魔法少女の味方が付いた。これで全て終わる。がんばりましょう!!」

白石先輩が宣言すると、方々から強い肯定の言葉が聞こえる、私の隣に座る子は涙ぐみ、私を見て

「なにがあっても戦い抜きましょう!頼りにしてます!!」

と急に手を握られた、完全に苦手なノリだ。私は引いている内心を隠すために下を向いて震えていた。それが不安と武者震いに見えたようで、

「大丈夫。あなたは強いし、何があっても私が守るよ!」

といつの間にか来ていた白石先輩に鼓舞された。



という一連の流れを思い出し、好物のツナおにぎりも喉を通らない私の現状である。


「何かあった時のために、私と明日奈は上空待機しますので、いつでもSOS出してくれれば脱出に協力します。愛梨も交えて戦略立てたほうが良いのですが、あの子、ちょうど今がミュージックビデオ撮影の真っ最中で、絶対抜けられないて連絡ありました。」

申し訳なさそうにする尚美。私の方にも連絡があったが

「あああああああ。イケメンだからって何しても許されるのあいつほんと消えろ私チーズ嫌いなんだよ絶対胸見て連想したよねほんと許せない」

という文面で、愛梨に何が起きているのかこちらが心配になるほどで、まだ相談できていない。


とりあえず、食べないと夜9時にまともに動けないだろう。

戦場で動けないことは、それだけで消滅に繋がる。

私は何とかお茶を使っておにぎりを流し込むように食べた。

大好きなツナマヨの味は今日は楽しめなかった。












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