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13.香山譲

僕は朝の空気が好きだ。

特に、2月か3月頃で、早朝4時から5時の空が白く開けてくる瞬間が好きだ。冬は空気が凍り透明感を感じるので、仕事や女性と会った帰りなど、タクシーも使わず歩いて帰る時もある、一度週刊誌に撮られたので、お願いだから泊まるかタクシーを使ってくれとマネに懇願されたので最近はその機会も減っているけれど。


今回のミュージックビデオの撮影も、そんな時間に行われていた。厳密に言うと昨日の夕方から今日の早朝にかけて、メンバー個人部分と、miaとの絡み部分が順番に撮影されていた。miaが学校を休みたくないのでお願いできないかとmiaのマネからお願いされた条件をこちらが飲んだ形だ。とびおのナンパで怖がらせてしまったのでこちらも譲歩しないとね。


miaのスマホに表示された桜子の名前については、桜子本人に聞くことが出来ずに今日を迎えてしまった。あれからマンションに帰れていない。桜子本人も、最低限挨拶の連絡はくれるけど新しい学校生活に忙しいのか淡白な返答しか返って来ない。

miaにも、スマホの画面を見たとは言いづらいので、学校どこなのかさりげなく聞くと、桜子と同じ学校名を出したのでひどく驚いた。そういえば、転入に不自然さが無いよう、普通科ではなく、芸能科やスポーツ推薦や帰国子女などを集めたクラスに入れると校長が言っていた気がした。元は名門女子高だけれど、少子化なのでなりふり構っていられないらしい。


僕の撮影の順番が近くなり、スタジオに挨拶して入る。原色の紫を基調とした歪みも感じる空間で、曲に合わせて、白いワンピース姿のmiaと、鹿撃ち帽にインバネスコートのとびおが、楽しそうに駆け回ったり、原色のカップケーキをおいしそうに食べたりしていた。ナンパされて困惑していたmiaとは思えないほどの笑顔で、彼女の演技力に素直に感心する。

カットの声がかかった途端、表情から笑顔が消えて、お疲れ様ですと挨拶した後話そうとするとびおを無視してメイクさんの場所に向かうmia。そのままメイクを直してもらうmiaに後ろから挨拶すると、

「・・よろしくお願いします。」

と、また一言だけ言って目を閉じてしまった。


無理もない、miaは昨日からずっと撮影続きで、僕の番でやっと終わる。僕たちはこの後ダンス撮影もあるけれど途中休憩を挟んで行えるが、miaはこの後学校があるのだ。ハリーと楓は最初から休みの連絡をしているようだが、miaは真面目なんだなと感心してそのことを本人に伝える。

「・・・会いたい人がいるだけです。」

髪にアイロンを当てられ、船を漕ぎながらも僕の質問にそう返答してくれたmia。

それは桜子のことかい?と聞きたくなったが、聞けば桜子と僕の関係性もバレるので無理だ。


眠そうなmiaに話しかける罪悪感を認識して彼女から離れ、衣装部屋に向かう。そこには休憩に入るために衣装を預けるとびおがいた。

先日ナンパを邪魔してから、とびおとは話していないので彼がどう感じたかわからないが、僕を見ると

「ゆずるんおつかれー。あのカップケーキ色の割には美味しかったよー。特に赤いやつ!!」

とケラケラ笑っていたのでまだ話はしてくれるようだ。


僕も与えられた衣装に着替える。白衣にジャケットなしのスーツポケットには聴診器。

今回の僕のミュージックビデオ内での役は、医師だ。

ミュージックビデオ内では、帰りたがるmiaをカラフルなカプセル(もちろん砂糖菓子で作られたもの)を飲ませて依存させて引き留めまた来るように仕向けるサイコドクター・・・・・らしい。

「ジョーが持つ清潔さとエロさの両立を最大限出せるコンセプトなんだ!!!」

と監督に力説されたけれど、毎度本当に意味が分からない。


衣装を来てメイクをしてもらい、スマホで自撮りする。新曲発売前にSNSに載せる用だ。

自撮りを何枚か撮影していると、衣装を脱いでTシャツ姿のとびおが近づいてきて僕のポケットから聴診器を出し、自分に当てた。意図を理解してその姿もきちんと撮影する。Gとジョーの不仲説が出た時にでも使う用だろう。


撮影セットとmiaの休憩が終わるまで、衣装のまま現場をぶらつく、控室の前を通りかかると

「ふざけないで!!」

と女性のヒステリックな声がした。しかし現場から離れた場所なので僕以外気が付かないのか誰も来ない、

部屋の中を覗く、疲れ切った表情のmiaと、細く長身のまあまあ顔が整った女性が立っていた。よく思い出すと、このあいだとびおとのロケでレポーターをしていた子かもしれない。

しかし彼女は今、全身黒のジャージでフードを被っている。目立たないように入り込んだのかもしれない。表情は怒りに震え、拳を握り締めている。


「・・・この仕事は社長からの指示で、私はそれに従っているだけです。」

miaは気怠そうにそう言ったが、

「そんなわけないでしょ!!この仕事は最初私に来てたの!!!あんたが奪ったんだ!そんなにPlutoに会いたかった!!?Gくんに迫られてるんだよね!??最初に彼が見たのは私だったのに!!!!」

勢いよく叫んでmiaに平手打ちするフードの女性。僕は状況を理解して止めに入るべきだと判断し、部屋に入るべく一歩踏み出したその時だった。


フードの女性から、ピンクと黒が混ざった煙が出てきた。女性は言葉も発せず唸り、そのうち立っていられなくなったのか崩れ落ちた。煙は下に流れ泥状になり、泥が真ん中に集まって、丸く弾力のある生き物へと変化した。まるでウーパールーパーのようだ。


何が起こっているのか理解できず立ち止まってしまった僕は思わずmiaの方向を見る。すると彼女は胸元に手を入れて首から下げていたペンダントを取り出す。miaが手に取った瞬間、ペンダントトップが黄色いコンパクトに変形した。

「変身」

miaが静かに呟くと、彼女の着ていた衣装が変形していき、優しい黄色・・・たんぽぽ色だろうか。のワンピースと黄色く先がとがったブーツ。頭には黄色の三角帽子が現れた。


この格好は、まるで日曜朝にやっている魔法少女のようではないか。


miaはその衣装になってすぐ、腕をくるりと回した。すると両手に銃が現れる。彼女はその銃口を倒れたフードの女性に向けた。殺す気なのだろうか。思わず飛び出そうになったが、銃口は彼女の近くにいたウーパールーパーに向かい、そのまま無言で連射された。びちゃりびちゃりと跳ね返る濁ったピンク色の液体に顔色も変えずにただ淡々と撃ち続けるmia。そのうち、ウーパールーパーが動かなくなったとき、耳障りなアラームとともにたんぽぽ色のハムスターがコンパクトの中から出てきて

「お疲れ様ブー」

と言って錠剤を渡した。miaはためらいなくそれを飲み込む。

そして、顔に飛び散った液体もぬぐわず。

「解除」

と一言呟く。

すると、彼女の魔法少女衣装がまた変形して、そこには先ほどまでの白ワンピース姿のmiaがいた。

彼女は疲れた様子だったが、倒れたフードの女性を控室のソファに寝かせる。そして、顔に飛び散った液体もそのままに、部屋の外に向かって歩いてきたので僕は今来たように装う為にドアから離れる。


「さっき女性の大声が聞こえたけれど、どうかした?」

ドアを開けたmiaに知らないふりしてそう言うと、

「あ、ジョーさん。大変なんです!私の事務所の先輩がGくんに会いに来たみたいなんですけれど、会えないし具合悪いからって倒れちゃって・・・・」

本当に急病人に焦った様子に見えるmia、ミュージックビデオのヒロインに抜擢される流石の演技力だ。でも負けずに僕も何も知らないように振舞っているのがバレていないので、僕の勝ちかなと、心の中でなぜか競う。


他の人呼んでくるとmiaに伝えて控室から離れた。

途中手をつねったりしてみたけれど、痛みがあるので夢ではない。

僕が呼ぶと、スタッフと打ち合わせしていたmiaのマネージャーや女性スタッフ、そして野次馬のとびおが楽屋に来たが、倒れる女性芸能人に驚いていたが、miaの顔にまだついている液体には触れない、気づいてるが無視するには目立ちすぎる。本当に僕以外には見えていないようだ。



僕は、とんでもないことを知ってしまったのではないか。

その予感が正しいことを。僕はこの後すぐに思い知ることになる。




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