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17.香山桜子

大分前に流行った「壁ドン」を思い出した。あれは確かイケメンが女性を壁に追い詰めて手で囲い込み逃がさない状況にする技だったと思う。Plutoもバラエティでやってたな確か、相手はメンバー同士だったけれど。


その壁ドンをいま私は階段の踊り場でされている。相手はイケメンではない、授業中に掛けていた眼鏡がそのままで一見分かりにくいが相当な美少女。隣の席の真名守愛梨だ。


先ほどの愛梨からの自己紹介により、ホームルームや授業の内容は全く頭に入ってこなかった。当の本人はその後何も言わずに授業に集中していたので、なんだ緊張した私の聞き間違えかとポジティブな現実逃避をしていた。そして昼休みのチャイムが鳴り、外の空気を吸って落ち着こうと中庭に行こうとしたところ、後ろから足音が迫り、私の横をすり抜けたと同時に階段の踊り場に背中を打ち付けられ、現在の状況になっている。


壁ドンというと、男女が密着しているイメージだったが、愛梨と私の間は大分空いている。その理由は、彼女の胸にある。身長は私と同じか少し低いくらいだが、胸部のボリュームが大きすぎる。先ほどは陸上部の人間かと思ったけど、競技に差し障りそうなこの大きさではきっと違う。


そんなことを考えていると、

「・・なんで何も言わないの。」

と声がした、愛梨はこちらをまっすぐに見つめている。

聞きたいことは山ほどあったけれど、何から聞いて良いかわからないと返すと、

「へぇ、落ち着いてるね。流石死亡率の壁を越えたベテラン」

と感心したように言われた。かなりの事を知られているのだろうと察せられる。

私を消しに来たのか、聞くと

「直球だねw」

と柔らかく笑った。先ほどまでの胡散臭い笑みは無理して作ってたのかなと思った。


「ちょと愛梨!!桜子さんに何してるの!!」

階段の下から声が聞こえてそちらの方向を見ると、尚美と明日奈が立っていた。お弁当とスマホが入った小さなランチバックを持っているので、もしかしたら私と一緒に食べようと探してくれていたのかもしれない。


「あーあ。もう少し独り占めしたかったのにー。」

愛梨は残念そうに壁から手を離した。

「あんたのことは昼休み説明するつもりだったんだから、桜子さんびっくりしてるでしょ!?ごめんなさい桜子さん。」

階段を駆け上がりながらそう言った尚美と、横で無言で頭を下げる明日奈。愛梨は二人の知り合いらしい。


「今日はあたしも一緒に食べていーい?」

と二人に聞く愛梨に、

「今日仕事ないの?ついに引退?」

と茶化すように言う尚美。私の方を向くと、

「ごめんなさい桜子さん。このうるさくてうざい奴も一緒でいいですか?」

と不安げに聞かれた。構わないと返すと安心してくれたようだ、

お弁当を持って来なければと教室に戻ろうとしたけれど、なぜか愛梨に包みを手渡された。彼女も自分の分を持っているので、持ってきてくれたのかなと思い礼を述べると、

「勝手に鞄開けた愛梨をまず叱ったほうがいい」

と明日奈に冷たく言われた。

魔法少女の事はもう知られているし、ジョーくん関連はポケットのスマホを見られなければバレない・・・と思う。


中庭に行く道で、「先ほどの謝罪」と言って4人分のペットボトルのお茶を買ってくれた愛梨。

ちょうど良くテーブルと椅子が空いていたので座っていただきますのあいさつ代わりに四人で乾杯する。

ご飯を食べる前に髪が落ちないよう括ろうとして、今朝ジョーくんがやってくれたことを思い出して一人赤面する。

そんな私には気づかず、3人は話し出した。


「私と明日奈と愛梨は元々幼馴染なんですよ。」

話し出した尚美。

「愛梨は本当は私たちと同学年のはずなんですけれど、出生届の都合とかでなぜか1学年うえてことになってて。昔からお姉ちゃん面が大きいというか・・・」

「そうなんですよ桜子さーーん。お姉さまって呼んでもいいですか??」

苦々しい表情の尚美と、突然年下ぶりだした愛梨。先ほどの敵対意識を持っていた様子が嘘のようだ。

「愛梨うざい」

明日奈の一言でまた食事に戻った愛梨。尚美がまた話し出す。

「昔からずっと、学校も休日も一緒だったんですけれど。一昨年3人で遊んでた時に愛梨だけモデルのスカウトされたんです。それでしばらく疎遠気味だったのですが・・・なんであんた急に桜子さんに絡んだの・・」

あきれ顔の尚美と同じ表情の明日奈。

しかし愛梨は頬を膨らませて、

「そっちが先に言ったんじゃん!!最近会った魔法少女のこと調べてくれって。それで私だけ接触できないのずるいずるい!」


愛梨の発言に途端に表情が強張る尚美と明日奈。無言になってしまった尚美だが隣の明日奈が口を開いた。

「このことについては言い訳できません。私と尚美は貴方と出会い、魔法少女としても個人としても

どんな人なのか、芸能関係者で情報が多く集まる愛梨に調べてもらいました。了承も得ずに、こそこそ卑怯なことをしてしまい申し訳ありません。」

深く頭を下げる明日奈、尚美も同じで泣きそうだ。

「私が言うべきじゃないけど。この子たち貴方と一緒にいたいからこそ知りたがったんだよ。家の事とか、故意ではないけど魔法少女を何人か消してる事とか、調べて出てきたこと正直に話したけど。それでも貴方と一緒にいたくて、今もいることは分かってあげて。」

フォローするように私に言う愛梨。

私は気にしてないし、調べるのも当然のことだからと言って二人に顔を上げてもらう。これからも一緒にいてくれるならそれでいいと言うと、

「・・・・ありがとうございます。」

と泣きそうになりながらも二人はまっすぐ私を見て言った。


「私たちも人の事言えないけど、貴方もなかなか厳しい人生送ってるよね。それで許せるとか。今までよく消えないで済んだね。」

苦い顔で言う愛梨、彼女はどこまで知っているのか気になったので聞いてみると、

「地元では、絶対死なない武者として『桜縅(さくらおどし)』の異名を持つベテラン魔法少女。リアルはボッチでいじめられてるけど陸上の長距離エース。家庭環境は最悪。でも急に結婚して実家とは絶縁。・・・聞きにくいけど、援助交際でお金持ちのおじさんの後妻にでもなったの?」

「愛梨、それはっきり聞きすぎ・・・。」

正直に話してくれた愛梨とあきれる尚美。予想通りかなりの事を知られているけれど、ジョーくんが旦那様と言うことは分からなかったようで、ジョーくんや事務所の管理体制は完璧だなと感心する。

否定せずにその通りと答えた。援助交際を否定しなかったので引かれたかと思ったけれど特に対応は変わらなく、逆に不安になる。この子たち何を抱えているのだろう。


だが納得した、尚美と明日奈が他の魔法少女と接触なくトウバツを重ねられているのも、その割に他の魔法少女の事情に詳しいのも、全て愛梨の存在だろう。

だが愛梨本人もきっと魔法少女のはずだ、二人と一緒にトウバツしなくてよいのか聞くと、

「あたし一応芸能人だから、前もバレかけて大変だったのよ」

と思い出してげんなりしながら言った。何があったかは聞かないでおこう。

でも一人で大変じゃないかと聞くと、

「私この立場使って、芸能関係者から出現した害獣狩りして、薬効期限を延ばしてるんだ。ゲーノーカイて本当、下手すると渋谷の街以上に毎日害獣出現するから、ぶっちゃけ尚美と明日奈にも来てほしいってずっと言ってるんだけれど・・・・」

愛梨が二人を見ると、

「一般人の私たちが愛梨の仕事現場行けるわけないじゃん。」

と慣れたように返す尚美。

確かに、武装後の魔法少女は存在が消えるから見えなくなるけど、激しい戦闘後は武装状態を保てなくなる可能性もあり、解除時に関係者以外立ち入り禁止の場所に突然現れたら警察沙汰になるだろう。


お弁当を食べ終えてすぐくらいに、愛梨のスマホが震えた。画面を確認して、ため息をつく愛梨。

「マネージャーから。今度の仕事の打ち合わせが急に決まったから呼び出し。今日は早退しなくて一日いられると思ってたのにー。」

机に顔を伏せてじたばたする愛梨、いつものことのようで尚美と明日奈は特に残念がらないし、早く行けとまで言う始末だ。

お弁当をまとめて教室に戻る。次何の仕事なの?と聞くと愛梨は憂鬱そうに教えてくれた。


「Plutoのプロモーションビデオ。私ファンに叩かれそう」









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