16.香山桜子
尚美と明日奈から学校で起きている魔法少女の抗争について聞いた次の日から、私たちは夜に待ち合わせして小型害獣狩りを行うことにした。
私がこの町の地理を覚える目的もあり、二人にとっては戦闘特化の魔法少女がいることで、厄介な敵に遭遇した際の危険度が下がる。利害の一致だ。
二人に今までの戦闘では武器はどうしていたのか聞くと、渋谷の方には交番やそれ以外に坂のある場所で拳銃やら刃物が置いてある所が多いのでこっそり借りているそうだ。
「最初は野球部のバットとか、剣道部の竹刀を武器で使ってたんです。でも、身の危険を感じるようになったのと最近厄介な害獣が増えてる気がするので、本物の武器が欲しくて」
苦笑いしながらも武器の所持にためらいがない二人を見ると、学校内の抗争がよほど酷いのが察せられる。倫理的にはアウト寄りのアウトだけれど、私たちはもう倫理外の存在みたいな物なので水を差すような指摘はしない。
パトロールでは、渋谷の繁華街が一番手っ取り早く害獣が見つかる。何度か他の魔法少女を見かけたり共闘したりはあるが今のところ同士討ちや薬の強奪をする魔法少女と遭遇しないでいられるのは幸運と、地理と勢力図を熟知している二人のお陰だろう。
尚美と明日奈はその色から「クリスマスの双子」と魔法少女界隈で認識されているらしい。
皆私と同じ感想を持ったようだ。桜色ことピンク担当の私が仲間になったことであだ名が変わるかな、何になるかなと考えていると、
「柏餅?」
と尚美が静かに言った。赤はこいのぼりだろうか。どうせなら桃の節句とか菱餅のほうが良いのでは?ほら女の子だし私達。
なんてくだらない話に笑ってくれる二人。こんな感覚は久しぶりだ。以前の地域でも仲間はいたけれど、私以外は皆様々な原因で消滅してしまった。
今三人で109の屋上に座り、スクランブル交差点を眺めている。
私は、夜の街の空気が大好きだ。魔法少女になって唯一良かったことが、補導や人間からの危険なく夜の街を歩ける、そして箒で飛べることかなと思っている。
そのせいで次の日学校で寝不足で愛想が悪く、それが更に友達ができなかった原因だけれど、好きな物は好きなのだ。
私の横に座り街に目を凝らす二人を見る。
二人は、いつまで私と一緒にいてくれるのだろう。
魔法少女各個体の薬効期限は最大のプライバシーなのでお互い聞かないのが暗黙の了解となっている。
初めて三人で倒した個体のMVPは私だったので心配していたが、あれから三人で倒していく中で余裕すら感じる戦い方を見せる二人なので、きっと大丈夫なのだろう。
「そういえば、明日は桜子さんの転校初日ですよね!!私達、朝家に迎えに行っていいですか!?」
と明日奈が提案してくれたが、残念だけれど辞退する。転校初日は、ジョーくんが家族として付き添う予定と言われている。本当に来れるかは明日の朝にならないと分からないけれど。
あの後2週間、学力テストや健康診断、制服の採寸や事前面接に小論文の提出など、転校準備に追われた。
ジョーくんは何回か突然帰宅したけれど、2時間もしないうちにまた仕事や寮に戻らなくてはいけないらしくて慌ただしく帰っていく。
一緒にご飯を食べることもあるし、その時間すらないときは作った物をお弁当箱に詰めて渡したりする。
財布を渡されている身なので何かしなければいけないと作ってみたものの、そんなに美味しくないご飯をジョーくんは喜んで食べてくれる。
「僕って料理は好きなんだけど、味が美味しくないんだよねー。とびおにはいつも味薄い言われるし。」
とジョーくんは言っていたけれど、一度、時間があった時に作ってくれたご飯はとても美味しかった。
惚れた弱みかもしれないけれど、ジョーくんは求める理想が高すぎる気がする。
「明日のお昼は一緒に食べましょう!何なら休み時間も一緒にいましょう!!」
とテンション高く話す明日奈だが、彼女たちの友人は良いのだろうか、特に大型害獣の原因となった彼女とか、と聞いてみると。
「ああ、あの子はずっと彼氏と一緒にいます。あの時は喧嘩した時でその上、好きなアイドルの結婚疑惑と重なって精神に負荷がかかってたみたいで。彼氏とは仲直りしたみたいだし、推してるアイドルは最近公式アカウントに写真投稿が多いみたいで、今は幸せそうですよ。」
と明日奈が説明してくれた。
いい加減動じなくなりたいけれど、自分には無理そうで、街を見るふりして二人から顔を背ける。
尚美と明日奈と2週間行動して分かった事。
尚美は普段おしゃべりで元気だけれど、変身後は無口で表情がなくなる。
明日奈は普段無口で無表情だけれど、変身後はテンションが上がりおしゃべりになる。
魔法少女に変身したことで性格が変わる効果は聞いたことないので、この二人の元々の性格なのか又は「願い」と関係あるのか、分からないけれどあまりに対照的すぎて本物の双子の魔法少女と思われるのも無理はない。
二人は抜群のチームワークを持ちトウバツ回数も安定している。武器の都合があるからといって私を仲間に入れる必要はあったのだろうか。そう思うけれど今この関係が心地よいので離れたいと思えない。
ジョーくん以外どうでもいいと思っていたのに、2週間で大切なものが増えてしまった。消えたくない気持ちが強くなる。
その後ホスト帰りの女性から出てきた少し大きめの害獣をトウバツして私がMVPを取った。申し訳ないと思ったけど二人は
「転校祝いてことで」
と笑ってくれた。
二人にはジョーくんのことは隠して結婚していることだけ話してある。住んでいる場所から訳ありなのは察してくれていた二人は態度が変わることなく接してくれている。
魔法少女は大体皆事情持ちなのもあり、二人は詳しく聞かないでくれている。
二人の事情も聴けるほど信頼されたい、それくらい長く一緒にいたいと素直に思う。
二人とは箒で飛びながら上空で別れて私は自分のマンションに帰宅する。
入浴して、食事は食べる気しないのでまたコーヒーで済ませたかったけれど、睡眠の質が落ちている気がするのでデカフェ紅茶だけ飲んで眠る。
翌朝、早めに起きて制服に着替える。
歴史あるお嬢様学校ということで制服はジャンパースカートだ。以前はダサいと評判だったけれどここ数年の人気アイドルのジャンパースカート制服風衣装のお陰で人気が再燃しているらしい。同じくらい不審者にも絡まれるので、共学になった時にブレザータイプの制服も導入された。尚美と明日奈はいつもブレザーの方を着ている。都会の学校なので、メイクとかしたほうが良いのか悩んだけれど、とりあえずリップだけ塗っておく。髪は縛るのが苦手なのでそのままだ、校則で規定があったら嫌だな。
着替えて居間のドアを開けると、スーツにエプロン姿のジョーくんが立っていた。
驚きで固まる私に、
「おはよう。朝ごはんできてるよ」
と笑顔で挨拶して座るよう促すジョーくん。
焼きたてのパンにアボカドとツナと野菜がいっぱい挟んであるサンドイッチがお皿に乗っていた。
私の好物だ。いつ知ったのだろうと疑問に思うが、洗脳で伝わった情報なら悲しいので聞かずに、お礼だけ言って食べる。
パン類なのですぐ食べ終えた私にすぐ出かけることを伝えるジョーくん。まだ始業時間より早いけれど転校初日はこんなものなのかもしれないと疑問に思わず従う。
マンションを出て二人で歩く。
ジョーくんは以前のように眼鏡を掛けている。本人は変装のつもりだろうけれど、やはり美形にバフがプラスされて攻撃力が増した状態でしかないのですれ違う会社員らしき女性たちが皆見とれている。
周りの人には、私たちはどう見えてるのだろうと、ふと思う。
大体は妹で、何人かは娘に見える。それくらいだろう。夫婦には見えない。
無性に悔しくなってジョーくんの腕を握ってみた。
驚くジョーくんに、とんでもないことをしたと気が付いて手を放そうとすると、逆に手を掴まれてそのまま手を繋がれた。
「緊張してるよね。でも大丈夫だから。」
ジョーくんは転校初日の不安からの行動と受け取ったようだ。安心と残念の気持ちが同時に浮かぶ。
二人手を繋いでそのまましばらく歩いたけれど、学校が見えたところで名残惜しかったが私から手を離した。
職員室に行き担任になる教師に挨拶するジョーくん、保護者としての手続きがまだいろいろあるとかで教室に行く私とはここで別れる。
廊下に二人きり、担任が来るのを待っていると、突然ジョーくんが私の髪を触ったので、声を上げて飛び上がりそうになった。なんとか堪えたけれど。
「じっとしてて」
とだけ言って黙々とコームで髪をとかして一つにまとめて側頭部の耳の後ろで縛る。髪を縛るのは大嫌いだけれど、動揺していたので何も言えなかった。
その後前髪も梳かされてピンでまとめたようだ。
「できた!いやーやったことなかったけど一晩練習すればできるものだねぇ」
と一人満足げに言って私の髪から手を放すジョーくん。
スマホを取り出してインカメラで確認すると、サイドテールにまとめられた髪型になっていた。綺麗なピンク色をした桜のアクセサリーが付いたヘアゴムでまとめられている。前髪を留めたピンも美しい桜色だ。きっと二つとも高いアクセサリーだろう。いつ買ったのだろうか。色々聞きたいことはあったけれど、まずはお礼を言う。
「やっぱり君には桜色が似合うね。」
微笑む彼に、堪らなく言葉を発してしまいそうになるけれど、準備ができた担任教師が職員室から出てきたのでそのまま黙って下を向く。
「それじゃあお願いします。あ!ライン入れとくから昼休みスマホ見てね!!」
と担任への挨拶と私への指示を言った後ジョーくんは手を振って職員室の中に入っていった。
堂々とスマホの使用を支持されたことに対していい顔をしない担任に連れられて教室に入る。
中は男女1:3くらいの割合だろうか。女子の制服はジャンパースカート率が高く安心する。毎日変えてるだけかもしれないけれど。
担任に促されて転校の挨拶をする。私は陸上の推薦枠で転校予定だったけれど怪我で遅れた設定と聞いていたのでその通りに話す。陸上の話題を出したら何人か反応して、その中でもふわりとしたショートカットで目元が優しく笑っている女の子と目が合って微笑まれた。陸上部の子だろうか。
教師に着席を促された席はその子の隣だった。席に着くと、朝礼が始まったが、腕を引かれる。引かれた方向を見るとショートカットの少女が笑っていた。
「初めまして。私は、真名守 愛梨。よろしくね、桜色の魔法少女さん?」




