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14.香山桜子

害獣を倒した後、ジョーくんが連れて行ってくれた牛タン専門店で食事した。普通はステーキを頼むようだけれど煮込み料理好きな私はビーフシチューを頼んだ。

「確かに、夏とか暑いときに限って冷房の効いた部屋で鍋とかやりたくなるよねー。」

とジョーくんは謎の解釈をされたが方向性は間違っていないので特に訂正しないでおく。

目の前でパクパクとおいしそうにご飯を食べるジョーくんはいつも画面の向こうに見えていた「Plutoのジョー」そのままの姿で、先ほど学校から帰り道に私に唯一の愛を望んだ人と同じ人間に見えない。

落ち着かない気持ちで食事を行ったが、先ほどエスカレーターを駆け上がったおかげかお腹は空いていたようで残さず食べ終えることが出来た。


その後は、また別の百貨店やらショッピングビルを回り、先ほど買えなかった下着や家具食器など生活用品も買いそろえた。混雑する時期ではなかったので明後日までにはすべて家に届くみたいだ。

そろそろ歩くのにも疲れてきたなと思ったその時、

「あ、パンケーキ食べよう!」

と急に進路を変えるジョーくん。追いかけて、メイン通りから外れた喫茶店に入る。

注文を聞きに来た店員にパンケーキを頼んだジョーくんだったけれど、運ばれてきたパンケーキは一皿だけで、最初から自分は食べるつもりはなかったようだ。

ジョーくんはパンケーキを写真に撮る、きっと後でSNSに載せるのだろう。一応移らないように椅子を引いてテーブルから遠のくと、私のしたことの意味がわかったジョーくんに

「気を使わせてごめんね」

と謝罪された。


私としても、今日ここで一緒に買い物したことはどこにも残してはいけない気がする。

ジョーくんの毎日に似合うのは、さっき喫茶店でみた家族連れのきれいな女性であって、自分がいること自体に罪の意識を感じる。感じる資格も持っていないけれど。

そんなことを考えていたためか、いつの間にか撮影を終えたジョーくんが席から立っていたことに気が付かなかった。どうしたのだろうと横に立つジョーくんを見ると、

「靴。脱いで」

と言われた。

突然何を言っているのか分からなかったが、促すような視線に足元を見ると、今日履いてきた学校用のローファー上部に亀裂が走り、割れて靴下が見える状態だったことに今初めて気が付いた。

昨日の戦闘、そして先ほどの戦いで靴に限界が来たようだ。

魔法少女の武装はあくまで能力でバフを盛っただけで、中身は私のままだし、変身後のコスチュームチェンジは元の服を再構成しただけなので、損傷や摩耗があれば武装解除時に影響がでる。

中学時代は靴に苦労したし、穴の開いた靴で過ごしたこともあった。陸上で成績を上げてからは競技用シューズが部費で支給されたので古くなった靴を捨てずに使ってなんとか過ごしていた。


話はそれてしまったけれど、靴を脱いだ私に、ジョーくんはどこから出したのか白く可愛らしい箱から桜色のレースアップシューズを出して私の右足にまず履かせた。

足を取られてから靴を履かされるまでの流れるような手つきと速度に、拒否の言葉をまったく挟めなかった。行動への慣れに嫉妬すべき場面なのかもしれないけれど何も言えず固まっている間に左足にも靴が履かされ、

「やっぱり君にはピンクが似合うね!」

と満足したように笑って発言し、何食わぬ顔で席に戻ったジョーくんに、正気なのかなこの人と嫉妬以前に心配になってしまった。

「店内奥の席だしほかのお客さんもいないからセーフ」

と笑顔で返されるけどここは日本で私は物語のヒロインではない。まず行動が昭和の少女漫画すぎる、いや今どき少女漫画もこんなことする人いないと文句を言うと、

「僕、平成生まれだよ?」

と話が伝わってないことがわかる返答のみ返された。完全に気力を失う。


でも貰ったものに感謝はするべきだと思い直し、姿勢を正して靴も含め今日のお礼を言う。

「別に感謝しなくていいよ。下心があってのことだし。」

ジョーくんのその言葉に、どういうことか聞くと、


「君は僕しか愛しちゃいけないけど。僕はこれからも今のままを続けるよ。」


ジョーくんは、私をまっすぐ見てそう言った。

何を改まって言っているのかと思ったし、その認識を察するくらいはいくら自分でも空気を読んでいたといった内容を伝えると、ジョーくんは笑ってくれた。

でもその笑顔は画面越しに見たことのない、なんだか見たくない笑顔だった。


「僕しばらく毎日寮に帰らないといけないからこれで帰るよ。タクシーの運転手に住所は伝えてあるからそのまま乗っていけばいい。必ず帰ったらライン入れて。」

喫茶店を出た後、もう外は暗くなっていた。ジョーくんは、タクシーのトランクに買ったものをぎゅうぎゅうに押し込んだ後、乗り込んだ私にそう言った。

「明日仕事終わる時間が深夜になっちゃうから、帰る許可降りないかもしれない。転校の手続きは休みあけてすぐ始まると思うし、直接電話してくれるように言ってあるから学校側の指示に従って。あーそうか現金もないとまずいか・・・」

そう言ったジョーくんは、タクシー代金を払った財布をそのまましまわず私に手渡した。

「なんでもすぐ連絡してね。1週間くらい経てば普通に帰れると思う。」

その頃に確か楓とお泊りしたインスタグラマーの記事が出る予定だし、世間の注目も事務所の警戒対象も僕から外れるからね~。

なんて軽く重大なことを暴露された。この人のこういうところは演技じゃなくて素にもあるのかと、出会って初めて安心できた気がして思わず笑ってしまう。


長々話しているわけにもいかないので車のドアを閉める。

外で手を振っているジョーくんだけど急に窓を叩いてきたので、運転手さんにまだ発進しないでほしいと言って窓を開けてもらう。


「なまえ!きょういちどもよんでくれてない!!」

なぜか焦ったように言うジョーくんの名前を呼ぶと

「だから!それ芸名!!」

と怒った様子になったので、譲さん。と呼んだ。もちろん小声だ。


「おやすみ桜子。また今夜」

満足げに微笑んだジョーくん・・・譲さんになんだか恥ずかしくなってしまい窓を閉めて無理矢理車を出してもらった。

また今夜て何。。ああ今夜連絡したときに話せるってことか。私はまだ彼と話す資格があるのかと嬉しくなった。


嬉しくなるくらい。私は何も見えていなくて。愚かだった。




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